【感想・ネタバレ】あるじなしとてのレビュー

あらすじ

律令体制の限界、財政破綻の危機……。この国を救う――。たとえ我が名が残らなくとも。“学問の神様”ではなく“政治家”としての菅原道真に光を当てた、第12回日経小説大賞受賞作家による感動の歴史長編。文人として名を成し、順調に出世していた菅原道真は、讃岐守という意に反した除目を受け、仁和2年(886)、自暴自棄となりながら海を渡って任国へ向かう。しかし、都にいては見えてこなかった律令体制の崩壊を悟った道真は、この地を“浄土”にしようと治水を行なった空海の想いを知ると共に、郡司の家の出でありながらその立場を捨てた男と出会うことで、真の政治家への道を歩み出す。「東風吹かば匂いおこせよ梅の花 あるじなしとて春を忘るな」に込められた道真の熱き想いとは。菅原道真の知られざる姿を描いた傑作歴史小説。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「本当に願うならば、現実に顕さねばならない。その願いがどんなに途方もないことでも、命懸けで為そうとすれば、ほんのわずかでも実現できるかもしれない」
空海阿闍梨の為した事を目にして得た想いを、その後も悩みながら苦しみながら、一生をかけて自らのすべきことを見定め、成し遂げた。ただただ優れた人物というだけでない描写に人間らしさを感じられる、そんな菅原道真公が国を活かすために奔走する姿に感銘を受ける。
恥ずかしながら、もともと歴史、古典に明るくなく、読み始める前は、帯にある"東風吹かば〜"の歌に対して思えることがなかったのですが、参章の終わり、何かがスッと胸に落ちてきました。

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2022年07月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「学者で、漢詩の才能にも恵まれた人」「無実の罪で大宰府に左遷された悲劇の人」というイメージとは違った、政治家としての魅力溢れる菅原道真が描かれていました。特に前半の讃岐赴任時代は、左遷に泣いたり、図星をさされて怒ったりと、とても親近感が湧く菅原道真です。
そんな菅原道真が左遷を経て都に戻り、細心に、大胆に税制改革を進めていくところは本当にカッコいいです。
自らの地位も名誉も捨てる覚悟で、国を救うための税制改革を進めていく姿に、胸が熱くなります。

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2022年06月18日

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志とは、人が、人として生きる上で必要なのだろう。
志ある人間は、それが良き方向へ向かう、正しいのか?と自問自答しながら、進んでいく。それが、何かを成し遂げた人となるのだろう

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2024年07月18日

Posted by ブクログ

菅原道真壮年時代の話。
歴史小説にありがちの、結果を知ってるけどどうつなげるの?にしっかりとカタルシスがあるのが好みでした。
讃岐左遷時の道真に”プライドの高い京貴族感”をもたせ過ぎなのが少し気になったけど、後の公卿とやりあう場面での”気持ちの伝わらなさ”に返ってくるあたりはなるほど上手いな、と。
一人の政治家としての矜持、生き様が、少し足早ですけどそれでも十分丁寧に描かれていると思いました。
この本を読む前にある程度律令について知っておいたほうがより深く楽しめる気がします。

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2023年04月09日

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ネタバレ

菅原道真の左遷されて行った讃岐国での出来事,彼に目を開かせたこの民を思う無私の男の死の場面は胸に迫ってきた.その後の道真のなりふり構わぬ改革への熱意,公家との駆け引きなど面白く,太宰府へ流された顛末もよくわかった.
それにしても,藤原一族の血は恐ろしい.

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2022年09月17日

Posted by ブクログ

為政者の苦悩と喜び。千年後の今日、空海の目指す浄土に近づいているのか。疫病は、相変わらず、他国で戦争が起こり。

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2022年09月01日

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ネタバレ

讃岐に配属されるところから始まるので 道真のひととなりがよく分からず 話に入っていきずらかったです ただ
道真が段々と 変わっていく様子は 中々興味深く読めました
誰かの為にこそ強くなれるものだし 自分も同じ志しを持つと 大きな力となるのですね
ここにも 国を良くしようと 懸命に生きた人がいて 心が熱くなりました
最後は 時平との関わりが ちょっと分からなくて ザックリな感じでした

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2025年10月12日

Posted by ブクログ

菅原道真といえば、学問の神様である。と同時に、死後、怨霊となり、自らを追い落とした者たちを祟り殺したという伝説の持ち主でもある。
そんな伝説が生まれたのは、彼が、おそらく無実の罪を着せられて、大宰府に左遷され、彼の地で衣食住も満足でないまま、不遇の死を遂げたためだ。以後、都では道真の政敵の急死が相次ぎ、御所に雷が落ちるなどの事件もあった。これが道真の祟りとされ、恐れられたのだ。
道真は神として祀られるようになり、京都・北野に北野天満宮が、没した地の大宰府には大宰府天満宮が作られた。学者であった道真は学問の神様となり、多くの人が学業成就を願ってお詣りするようになっている。

本書は道真が主人公の歴史小説。
道真を主題にした作品はこれまでにもいくつも出ているだろうが、本書では、政治家・道真として描かれているのが目立つ点だ。さらに、太宰府以前に赴任したことがある讃岐での経験にスポットライトを当てていることが特徴だろう。

物語の視点は、道真本人と、幼少時より道真に仕える味酒安行(うまさけのやすゆき)の2人の間で切り替わる。安行は実在の人物であり、道真の最期まで付き従った、いわば腹心の家臣である。現在もその子孫が太宰府天満宮で神職を務めている。

冒頭は大宰府への左遷シーンで始まる。
けれども実は道真が「左遷」されるのはこれが最初ではなかった。先立つこと15年前、讃岐の国司となるよう宣旨が下ったのである。物語は回想の形で当時の道真の想いを描く。
道真はこの人事に不満だった。文章博士であり、式部省少輔を9年務め、なぜ今更、僻地の国司なのか。
失意のうちに任地に赴くのだが、実のところ、かの国で、彼は思いもよらなかった「現実」を目にする。それまでは、学問の世界、現実の社会からはいささかかけ離れた世界に閉じこもっていたようなものだったのだ。
讃岐は空海上人の故郷である。水利が困難で、古来、水害と旱魃に苦しんできた。空海はため池を整備し、堰を作るなどして、水の制御に努めたことでも知られる。
だが如何せん、結局は自然相手。一方で、国の税制は古くからの制度の班田を基本とし、実情に合わない部分があっても臨機応変に徴収の仕方を変えることもできない。規定通りの税を納めることができず、中央からは地方政治の怠慢と見られているが、そうではない。民は苦しんでいるのだ。
学問一辺倒で、左遷を嘆いていた道真も、何とかせねばと考えを巡らせる。いくつかの出会いが彼を変えていく。さらに衝撃的な出来事をきっかけに、彼は大きな決意を固める。

任期を終えて都に戻り、税制改革に奔走する道真だが、障害は多かった。
彼は途中から、自分がこれを成し遂げることはない、成功を目の当たりにするのは難しいことに気づく。
そして案の定、二度目の、かつ最後の左遷が彼を待っていた。

タイトルが暗示するように、物語は、道真の有名な和歌に向かっていく。
東風(こち)吹かば 匂いおこせよ 梅の花
あるじなしとて 春を忘るな

道真が無実の罪を着せられ、太宰府に旅立つことになったのは如月一日。さまざまな花に先駆けて咲くことから、「花の兄」とも呼ばれる梅花ですらまだ咲いてはいない。
道真の志も半ばなのだ。
だがしかし、春はいずれ来る。自分がなしえなかったことは誰かが引き継いでくれるはずだ。
その想いが込められたかのような和歌に、ふと胸を突かれる。

史実として、道真は本当に大きな改革に取り組んでいたのかどうか、そのあたりがよくわからないのだが、そうでありえたのかもしれないと思わせる物語である。
この道真は、おそらく、政敵に祟るまい。そして学問を収めようとする衆生の前途を祝福してくれるのではないか。

読後に微かに梅の香が漂う。そんな読み心地である。

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2022年10月17日

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