あらすじ
『旅の絵本』『ふしぎなえ』『ABCの本』などが世界中で愛されている画家の、初の自伝。
「自伝のようなものは書くまい」と思っていたが、日本経済新聞の「私の履歴書」欄に原稿を寄せるうちに「記憶のトビラがつぎつぎに開いた」、と大改稿大幅加筆。人情味のある豪傑な義兄、小学校で隣の席だった女の子、朝鮮人の友人、両親、弟……昭和を生きた著者が出会い、別れていった有名無名の人々との思い出をユーモア溢れる文章と柔らかな水彩画で綴る。
「わたしも、冗談が多すぎた。でもまだ空想癖はやまない。しかしこの本に書いたことはみな本当のことで、さしさわりのあることは書かなかっただけである」とは著者の弁だが、炭鉱務め、兵役、教員時代など知られざる一面も。
50点以上描き下ろした絵が、心温まる追憶は時代の空気を浮かび上がらせ、読む者の胸に迫る。楽しく懐かしい、御伽話のような本当のお話。
※この電子書籍は2014年5月刊行の文春文庫を底本としています。
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Posted by ブクログ
2024年、北九州市立美術館に安野光雅展を見に行って、グッズショップで購入しました。子どものころから安野光雅さんの絵本に親しんできたので、私が夢中になっていたあの絵本は、このようにして作られたんだなとか、こんな秘密があったのね、なんて発見もあり、読んで良かったです。絵は一つのエッセイにつき1つ、ささやかに添えてある感じです。
印象深いエピソードがたくさん載っている。戦時中のエピソード、子ども時代のことも興味深い。
私が一番好きな安野光雅さんの絵本、「旅の絵本」シリーズがいかにつくられたかのエピソードもあって、読めて良かった。一冊目の中部ヨーロッパ編に脱獄犯が描かれていること。これはよく覚えているし、子どもの頃の私も気になってしょうがなかった。脱獄犯が他のページにもいるらしいと編集者が目を皿のようにして調べたと聞いて、しまった、描いておけばよかったと思ったらしい(笑)。で、6冊目のデンマーク編で、逃げている脱獄犯がいるらしい。(確認しなきゃ笑)。
旅の絵本シリーズは文字は全くなくて、批判もされたらしい。しかし、安野氏いわく「絵や音楽をことばの説明を仲立ちにして見たり聞いたりしようとするのは、ことばに頼りすぎた者の悪い癖である。その癖が長じると『この絵は何なにを表している』とか、『何を意味している』というように、ことばで整理して判じ物を見るような目で見るようになる。そして、絵とはそういうものだと思いはじめるだろう」とのこと。
そう考えると、姉と二人でほおを寄せ合って、「旅の絵本」を飽きもせず眺めていた幼い頃の私の、絵本の鑑賞の仕方は、本当に純粋で、それ以上ないくら正しいやりかただったのではないかと思う。
最後の方は、親しい人たちとの別れのエピソードが多くなって、読むのが少し切なかったです。
Posted by ブクログ
今、一等になるために走るのではない、いつか大人になって一等になっても得意にならず、ビリになってもくじけないプライドを持つ日の為に走るのだ
試験というもののありかたが、教育の方向を決定づけているという変なことになりつつある。
絵は説明ではない。(略)壁に飾る絵に題名はあっても文字はない。
空想の時間
などなど、普段感じてることがさらっと書かれていて、あぁ、間違ってない、というか、自分の気持ちに肯定感を得たような。
戦中、戦後を生き抜き、沢山の絵を残し、令和の世の中まで見て逝かれたのだと思うと尊敬しかない。
Posted by ブクログ
安野光雅さんのエッセイ。
少年時代から歳を重ねるまでの思い出が綴られています。
生きてきた時代は異なるのに、どこか懐かしい匂いのするお話も多数あり、朗らかな気持ちで読めました。
そんな中にも安野さんなりの信条や絵を思う気持ちが散りばめられていて、ますます安野さんのファンになりました。
本の中で、
妄想と空想は違う。
妄想は現実と想像の違いがわかっていないが、空想は現実を理解した上で想像していること。
というようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。
宮沢賢治は教員時代に空想の時間を設けていたようですが、「空想」は自分の世界を広げるために必要な時間だなと改めて思います。