あらすじ
『旅の絵本』『ふしぎなえ』『ABCの本』などが世界中で愛されている画家の、初の自伝。
「自伝のようなものは書くまい」と思っていたが、日本経済新聞の「私の履歴書」欄に原稿を寄せるうちに「記憶のトビラがつぎつぎに開いた」、と大改稿大幅加筆。人情味のある豪傑な義兄、小学校で隣の席だった女の子、朝鮮人の友人、両親、弟……昭和を生きた著者が出会い、別れていった有名無名の人々との思い出をユーモア溢れる文章と柔らかな水彩画で綴る。
「わたしも、冗談が多すぎた。でもまだ空想癖はやまない。しかしこの本に書いたことはみな本当のことで、さしさわりのあることは書かなかっただけである」とは著者の弁だが、炭鉱務め、兵役、教員時代など知られざる一面も。
50点以上描き下ろした絵が、心温まる追憶は時代の空気を浮かび上がらせ、読む者の胸に迫る。楽しく懐かしい、御伽話のような本当のお話。
※この電子書籍は2014年5月刊行の文春文庫を底本としています。
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Posted by ブクログ
日本経済新聞の「私の履歴書」(2011年2月連載)とはまったく違った印象。大幅に加筆、連載後の後日談もある。水彩のイラスト(55葉)も花を添える。
37の各章に、いくつもの小話風のエピソードが散りばめられている。そして安野氏お得意の謎めいた箇所も随所にある。だから、安易に読み飛ばすわけにはいかない。
「つえ子のこと」、「村松武司」、「ダイアナ妃のこと」の章がいい。安野氏は『旅の絵本』にチャールズ皇太子とダイアナ妃の婚礼の儀式を描き込んだことがあった。そのため、ふたりが来日した折に英国大使館主催のパーティに招待された。「ダイアナ妃のこと」には、その時のこと、そして悲劇的な死のことまでが綴られている。
最終章の「空想犯」は、連載にはなかったボーナストラック。ある年に、冗談の凝り過ぎた年賀状をみなに送ったため、思わぬところで問題を起こしたという話。しゃれもここに極まれり。
Posted by ブクログ
2024年、北九州市立美術館に安野光雅展を見に行って、グッズショップで購入しました。子どものころから安野光雅さんの絵本に親しんできたので、私が夢中になっていたあの絵本は、このようにして作られたんだなとか、こんな秘密があったのね、なんて発見もあり、読んで良かったです。絵は一つのエッセイにつき1つ、ささやかに添えてある感じです。
印象深いエピソードがたくさん載っている。戦時中のエピソード、子ども時代のことも興味深い。
私が一番好きな安野光雅さんの絵本、「旅の絵本」シリーズがいかにつくられたかのエピソードもあって、読めて良かった。一冊目の中部ヨーロッパ編に脱獄犯が描かれていること。これはよく覚えているし、子どもの頃の私も気になってしょうがなかった。脱獄犯が他のページにもいるらしいと編集者が目を皿のようにして調べたと聞いて、しまった、描いておけばよかったと思ったらしい(笑)。で、6冊目のデンマーク編で、逃げている脱獄犯がいるらしい。(確認しなきゃ笑)。
旅の絵本シリーズは文字は全くなくて、批判もされたらしい。しかし、安野氏いわく「絵や音楽をことばの説明を仲立ちにして見たり聞いたりしようとするのは、ことばに頼りすぎた者の悪い癖である。その癖が長じると『この絵は何なにを表している』とか、『何を意味している』というように、ことばで整理して判じ物を見るような目で見るようになる。そして、絵とはそういうものだと思いはじめるだろう」とのこと。
そう考えると、姉と二人でほおを寄せ合って、「旅の絵本」を飽きもせず眺めていた幼い頃の私の、絵本の鑑賞の仕方は、本当に純粋で、それ以上ないくら正しいやりかただったのではないかと思う。
最後の方は、親しい人たちとの別れのエピソードが多くなって、読むのが少し切なかったです。
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今、一等になるために走るのではない、いつか大人になって一等になっても得意にならず、ビリになってもくじけないプライドを持つ日の為に走るのだ
試験というもののありかたが、教育の方向を決定づけているという変なことになりつつある。
絵は説明ではない。(略)壁に飾る絵に題名はあっても文字はない。
空想の時間
などなど、普段感じてることがさらっと書かれていて、あぁ、間違ってない、というか、自分の気持ちに肯定感を得たような。
戦中、戦後を生き抜き、沢山の絵を残し、令和の世の中まで見て逝かれたのだと思うと尊敬しかない。
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安野さんの絵を意識してみていたかと言われれば、そうでなかったように思う。風景のイメージが強いのもなぜだろう。。
「昭和を生きた著者の人生」が突き刺さる。自分はそれを祖父に見ていただろうか。
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感想
絵を描く人の鋭い目線。刺々しい切れ味はなく優しさに満ちている。それでいて他人が気づかない細部に気がつき大局を汲み取る。時代の空気を感じる。
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絵を描く人なのに、言葉選びも無駄がなく洗練されていると思った。私の親世代より少し上くらいだと思うけど、その時代のことが気軽に抵抗無く(固く古めかしい感じではなく)読めて良かった。大型本屋の戦争特集か何かで平積みされているなかで、読みやすそうだなと思って見つけた。大型書店はこういう出会いがあるから本当に好き。
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安野さんの生きた時代の息づかいを感じたのが良かった。ずっと続いているような錯覚に陥るけれど、母と父、祖父母、私と兄弟、甥っ子、それぞれを取り巻いてきた、取り巻いている時代の空気は、自分の生きた年齢に合わせてその感じ方は矢張り違うもので、それをまざまざと実感したというか。同じ時代を生きているということだけで、どうしてこう容易く「私とあなたは同じ」だなんて思ってしまえるんだろう?甘えもいいとこだ。厳密に言えば、同世代と言えども違うこともあるわけなのに。
「同じだね」って、時にぐっと人との距離を近づけてくれるけれど、同時に同じくらい「我々は違う」って、忘れないでいることって、とっても大事なんだなって、ふと思った。
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安野光雅さんの自伝。エッセイ。
絵のことはあまり書かれてなかった。絵本がすごく大好きでいろいろ読んだので、少しでも詳しいことがわかればと思ったが。ただ書き下ろしの絵が沢山で有難い。ABCの本については残念。いろいろ考えて描かれたのに駄目出しが多かったり無断で使われたりあまり良いことがない。それでも大好きな絵のひとつ。
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安野光雅さんのエッセイ。
少年時代から歳を重ねるまでの思い出が綴られています。
生きてきた時代は異なるのに、どこか懐かしい匂いのするお話も多数あり、朗らかな気持ちで読めました。
そんな中にも安野さんなりの信条や絵を思う気持ちが散りばめられていて、ますます安野さんのファンになりました。
本の中で、
妄想と空想は違う。
妄想は現実と想像の違いがわかっていないが、空想は現実を理解した上で想像していること。
というようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。
宮沢賢治は教員時代に空想の時間を設けていたようですが、「空想」は自分の世界を広げるために必要な時間だなと改めて思います。
Posted by ブクログ
安野光雅さんの描くヨーロッパの街並みが好きでした。
同じ窓が延々と連なるお城や洋風建築と、日本画の平面を彷彿とさせる水彩画がツボで。
そんな安野氏も、戦中派。
興味深いお話が多く書かれていました。
Posted by ブクログ
幼児の頃、叔母からもらった安野光雅作の絵本をみて育った。独特で不思議な世界観に、子供ながらも魅せられて、まねて絵を描いたりしていた。
書店で本書を見かけ、ふと懐かしくなり購入した。
昭和の戦中のこどもの頃が逞しげに淡々とづづられている。しかしその陰に淡々とせざるを得ない苦しみや悲しみがあったのではないかと勘繰ってしまう。
良く覚えていられるな。と思うほどの友人知人が登場するが、それきりの人、所在不明の人、亡くなった人がほとんどである。父親の年を越え、著者は長く行き過ぎたと思っているのだろうか。
いやいや、まだまだ元気に活躍してほしいと思う。