あらすじ
教育現場ではこれまでのイメージから、間違った学習観が広まっている。その弊害をなくすために、認知科学の視点から「学び」の実態を科学的に明らかにする。
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Posted by ブクログ
私が衝撃を受けた本だと言っていいと思う。人間が学ぶこと言うことは、どんなことが起こっているのかを明らかにしようとしている本だ。
冒頭の1章にある「能力という虚構」で私は衝撃を受ける。
ここから抜粋
〜最初にこの章の主張を述べることにする。〜中略〜
能力というのはアブダクションから生まれた仮説である。そこに不適切なメタファーが加わることで、誤った能力観が広がっている。それは能力の安定性、内在性という見方である。なぜこれらが誤っているかと言えば、人の認知にほぼ普遍的に見られる文脈依存性を説明できないからである。よって認知的変化を考えるときに、能力という仮説は不要である。〜
ここまで
能力というのは、計算力、創造力、論理的思考力と呼ばれるようなもので、本書の冒頭で否定されたのだが、私自身「能力」は、個人に内在するものであり、安定的に引き出せるものだと思っていた。これを否定された上に、今まで認識していたものが、間違っていたと気づかされた。
能力とは、本人が自由自在に使えるようなものではなく、環境要件によって引き出されるものだと言うことが、本書を読むと理解できる。
こんな能力を持っているということ自体、恥ずかしいことに思える。謙虚に、外的環境(仲間や教師、同僚、上司、部下など)があってこそ発揮できたものだと考えた方が良い。
そして次の章では、「知識は伝わらない。」と言われてしまう。
ここから先は、ぜひ読書で体験をしてほしい。
本書には、さらに理解を深めるための参考文献も多数掲載されている。
お金が続く限りという制約があるのだが、興味を持ったらさらなる迷宮に入り込める。
Posted by ブクログ
認知科学の視点からの「学び」の実態を明らかにするという書。
『類似と思考』を書いた鈴木先生の著作。鈴木先生は、思考、学習における創発過程の研究を行っている認知科学の専門家。
いろいろ直観に反する話が載っている。
一般に教えているのは「情報」であり「知識」の素材にすぎない。
問題を解くには、認知的リソースと状況が提供するリソースを組み合わせて「知識」を構築する必要がある。
このあたりの主張は、自分の思い込みをはずしてくれる。
・知識はそのまま身につくことはない
・練習しても簡単には上達しない
・思考力は安定しないものである
・ひらめきは突然生まれない
したがって、教育や学習に関する素朴理論の批判的検討が最大の価値。
その意味では、最後の章を読まないといけない。
素朴理論というのは、特に教育を受けなくても、教えられなくても知っているまとまった知識だ。
人類の文化的学習ともいえ、有用な点もあるが、多くは、特殊な状況で該当する話であリ、多くの誤りを含むので、弊害をもたらすことも多い。
教育や学習についても素朴理論は存在する。
「問題と正解」に関わる素朴理論
「基礎から応用」という素朴理論
「すべて頭の中で」という素朴理論
「教えればできる」という素朴理論
大前提として、練習を通した学習、発達、ひらめき等の認知的変化(これらは「認知的変化」なのである)は、いずれも、複数のリソースが存在し、それらが競合、協調を重ねながら揺らぎ、状況、環境と相互作用しながら、進んでいくものであることを理解しておく必要がある。
マイケル・ポランニーの『暗黙知の次元』を理解する上でも有用だった。