あらすじ
彼女と出会った。僕の日常は変わった。
純度100%! 小説現代長編新人賞受賞作。
売れない作家だった父が病死してから、越前亨は日々をぼんやり生きてきた。亨は、最後まで家族に迷惑をかけながら死んだ父親のある言葉に、ずっと囚われている。
図書委員になった彼は、後輩の小崎優子と出会う。彼女は毎日、屋上でくらげ乞いをしている。雨乞いのように両手を広げて空を仰いで、「くらげよ、降ってこい!」と叫んでいるのだ。いわゆる、不思議ちゃんである。
くらげを呼ぶために奮闘する彼女を冷めた目で見ていた亨だったが、いつしか自分が彼女に興味を抱いていることに気づく。
自分の力ではどうにもできないことで溢れている世界への反抗。本への愛。父への本当の想いと、仲間たちへの友情。青春のきらきらがすべて詰まった一作。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ぜひ高校生の方には読んでほしい
青春ものではあるが恋愛物語ではないです。空からクラゲが降ってくるというトンデモ展開のSF要素がありますが、登場人物の抱えるものはどれも現実感溢れるものばかりで、読者はきっと共感できるものだと思います。
世の中は理不尽で溢れていて生きづらいと思うこともあるとは思うけれども、それでも優しくあろうと思えた心温まる作品でした。
Posted by ブクログ
わたしたちは日々迷惑をかけたりかけられたりして生きています。ただ一口に迷惑と言っても、色々な種類(あるいは背景)があり、様々な形式、レベルでの「許し」「償い」が必要とされます。本書の主人公は、迷惑が何かが分からなくなり、すべての迷惑を同質な「迷惑」で片付けようとし、それを単に「かけるべきではないもの」「かけられたくないから避けるもの」として退ける生活を送っています。一見クールで合理的に見えますが、そのことによって他人への興味を失っている状態となっており、本書によれば、それはすなわち「優しさ」を欠いた状態ということに他なりません。この背景には幼い頃に売れない小説家の父が最期の病床で「迷惑かけてごめん」という一言を放ったことに起因しています。この迷惑の意味がわからないまま、より正確に言えば、迷惑の意味がわからないという事態が何かがわからない、という中でもがき苦しむ主人公の青春に読者は寄り添うことになります。本書はその対応する許し・償いを探す物語です。
この死は幼い主人公にとっては突発的であり理不尽ですが、世の中には、様々な迷惑に対応する様々な理不尽が転がっています。理不尽が起きると、それに抵抗する形で迷惑が生じる。読者は主人公とともに、世の中に転がる様々な理不尽とそれに対する抵抗に直面し、迷惑の意味について考えていくことになります。
※ ※ ※
例えばトランスジェンダーに生まれるということは、誰が自分をそうしたとかではなく、相手のいない「迷惑」を受けていることです。わたしたちはそれに苦しむ。理不尽だ。したがってそこには抵抗が生まれる。相手がいないので、仕返しをすることもできないし、苦しみを屈曲させて犯罪を犯すことも許されません。それは迷惑の連鎖を生むからです。そこで、主体が非局在化した形で(誰がやったのかわからない形で)、客体も非局在化した形で(すべての人にあまねく)迷惑をかける行為を想定しなければなりません。著者がそこでテーマに選んだことが「クラゲ乞いをして空からクラゲを降らせる」ことだった。現実世界ではなんにあたるでしょうか。それは、本書で図書委員である登場人物からたくさんの小説が紹介されていることから示唆されているように、「書く」ということなのかも知れません。
Posted by ブクログ
ふと、目にしたTwitterで知り何気なく借りた小説
・優しさの本質は他者への興味
・見た限りは話を聞いてあげるなり、諭してあげるなり、何か手を差し伸べてあげるべき
・ひとりは最も近くにいる気軽にやってくる地獄
これらの言葉が心に刺さる。
感動するオススメの本です。
Posted by ブクログ
「ひとりは、最も近くにいる、気軽にやってくる地獄」
「無関心であることは、人に優しくできないということだ。自分勝手であることは、感情の矛先を間違えるということだ。優しさの本質は他者への興味だ」
タイトルに惹かれて買った本だが、読後何とも言えないふわふわした感覚に陥り自分の心の中にもクラゲが降っているように感じた。登場人物がみんな優しい。主人公の亨は最初こそ他人にも自分にも無関心なタイプだったが、過去の父とのやりとりから人を傷つけたくないから無関心になっただけで、ずっと優しい。小崎ちゃんはクラゲを呼んでる不思議ちゃんかと思いきや、理由が余命わずかな親友との約束で世界に反抗するためだったのが切なかった。遠藤も関岡さんも真逆に見えて、実はとっても似てる2人だなと思った。そして、矢延先輩…こんな人が身近にいたらもっと本を読むのが楽しいしぜひ友達になりたい。
クラゲを降らせるのなんて突拍子もないと思ったけどそういった現象はちゃんとあって(ファフロツキーズ現象)、ファンタジー要素もありつつ実際にクラゲを降らすこと(しかも2回も!)あったのは結構グッと来た。こういうのは小説の中でも"起こらない"が多いと思うけど、小説はフィクションなんだから、起こり絵なさそうなすごいことが起きてもいいじゃないか!世界への反抗がクラゲを一日中降らせるなら、みんなが綺麗だと、少しでも空を見上げて今日はもう休もうか、と思えるような反抗なら、いくらでもあっていい。最高だ。
そして、この小説の中で知ってる本がたくさん出てきて、自分も語りたくなったし、知らなかった本は読んでみたいなと興味が湧いた!読書家の方ほど読むのが楽しい小説!
Posted by ブクログ
もしかして窓を開けたらクラゲが降ってるんじゃないかと透明感あって、伝えたい物語のメッセージ性も好きな作品だった
高校生活、SF?敵は世界?そんなどこかワクワク感がありつつ、ぐはーってきた
誰しもがクラゲを呼んでみたい、呼ぶべきだと思ったことがあると思う、そんな不思議ちゃんにもそこには理由があって真っ直ぐでいいキャラ
主人公は自分の性格と似てて嫌気が…今更だけど学生時代をやり直して、あの時声を掛けてあげれてたらと思わずにはいられんかった
いろいろ登場する純文学の作品も少し読んでみたくなったし、プラネタリウムの何とかて作品も気になった
好きなフレーズ引用
夏の深い青は底のない海のようだった 雲ひとつなく 世界を呑みこもうとしていた 上下が逆さまになって僕は天空へ向かって落ちていく
優しさの本質は他者への興味だ
ひとりは凍えそうで息苦しくて最も近くにいる気軽にやってくる地獄なんだ
Posted by ブクログ
p13「春の空は柔らかく、引きちぎられた綿菓子のような雲が青の半分を占めていた」
とても良い表現!好き。空をこんなにきれいに表す言葉、初めて。
p182「無関心である事は、人に優しくできないという事だ。自分勝手である事は、感情の矛先を間違えるということだ。優しさの本質は他者への興味だ。」
先輩が読書家で、よく本に出てくる言葉を言うシーン。本好きな人って、語彙力高そうで憧れる。
p246「小説は現実に影響を及ぼすよ。人の考えを変える力がある。」
p285「小説はいいよ。真っ白な紙にインクで文字を写しただけなのに、人の心を動かす。魔法みたいなものだ。生み出される意味があるものだよ。」
p333「あとは、ほら自分がぐんと広がる気がするでしょ。視野が広くなる。登場人物を追いかけながら、そんな考え方もあるんだなあって。」
Posted by ブクログ
たった2冊の売れない本を残した作家の言葉は呪いか、標か。様々な理不尽に抗う高校生の青春群像。
そぉかぁ、くらげ、降るんだ…。 ま、いいか。
亨くん、いつか「未完成本」を完成させるんだろうな。
Posted by ブクログ
表紙の装丁が素敵。
実在する小説が出てきて、この本読んだことある!と思ったり、読んだことのない本に興味をもったりした。
心に残る文章やセリフがたくさんあった。
この作家さんの他の作品も読みたい。
Posted by ブクログ
作品内に、実在の本が色々出てくるので、同じ世界線のどこかで、このお話が実在しているように感じられる。
ヒロインの「くらげを降らせる」というちょっと変わった目標をきっかけに主人公が少しずつ変わっていく様子は心温まる。そして主人公を取り囲む人々が、大人も含め、心優しい人が多くて嬉しくなる。「目撃者の義務」の話がとても心に残る。
Posted by ブクログ
新刊の時に読んでて
めちゃくちゃ面白かった!
けど内容ちょっと忘れてたので文庫本版も購入
やはり良い話だ
こういう世界ならば
この前の様な悲劇は起こらなかったであろう
これが受賞時は大学生だっというのも凄い話
Posted by ブクログ
最近、気になっていた作家さんだったため、お試しがてら本作を手に取りましたが、青春真っ盛りな感じが好みでした。
無気力な主人公、クラゲを呼ぶ後輩、運動部で明るい親友、図書室の主である先輩など、どこかベタではあるけれども登場人物のキャラクターが粒立ってて魅力的でした。
ところどころ陰りが見られますが、全体的に明るくてホッコリするような作品であったと思います。
Posted by ブクログ
個人的にすごくじんわり温かくなったな、と。
はじめはクラゲを呼ぶ?降らせる?ってファンタジー要素にちょっと読む手が遅くなった部分があったけど、読めば読むほど、本の本質的な部分がみれたきがして、
優しさってなんだろう
なんで人は小説を読むのだろう
答えのない、何時間でも考えられるお題に関して少しずつ自分なりの考えが出てくるような
優しくて、温かくて、
こんなに大事に文字を読んだのは久しぶりな気がしました
Posted by ブクログ
大好きな『四畳半神話大系』(以下、四畳半)が出てくると知り、ウキウキで手に取った本。似たような文体なのかな、同じようなストーリーなのかな、と淡い期待に胸を躍らせ読み進めていくと、アラ不思議。
汚い汁を汚い汁で洗う、不満ばかりで閉塞感のてんこ盛り、けれども憎めない〈私〉の姿がどこにもない!そこにいるのは、孤独で達観し(た気になっている)、斜に構えた男子高校生だった!!
どうしてか彼に共感めいた感情を抱いてしまう。それはきっと、僕も彼と同じように生意気な高校生だったからに違いない。自分が正しいと信じて疑わず、猪突猛進、叩かねば渡れない石橋を駆け抜けてきた。
若さゆえに何とかなった部分もあったろう。だがその大半は先生や親、友達の助けがあったからだと今ならわかる。
さて、回顧録はこの程度にして。
本書の主人公・越前亨は「まったく、俺って孤独だぜ…!」という典型的なイタイ奴。まあ高校生であればあるあるの話だ。
彼はある日、「不思議ちゃん」こと小崎優子と出会う。図書委員として巡り合った彼女のどこが不思議ちゃんなのか。それは彼女が毎日屋上でクラゲ乞いをしているからだ!
クラゲ乞いとは読んで字の如くクラゲを降らせることだ。雨のように。なぜそんなことをするのか。第三者的に見れば、イタイのは彼女の方である。
しかしその行動の裏には彼女なりの信念がスカイツリーのように聳え立っている。クラゲ乞いという一見アホの所業にも感じられる戯れも、彼女の思い・考えを知ればひとたび違って見えてくる。ハムスターのような可愛い後輩の奥底には、岩のように動かし難い信念があることがわかる。
しかし、自称「孤独な俺」である亨は、小崎の真意を読み取ろうとしない。それは亨にかけられた「呪」が原因でもある。この「呪」を解かぬ限り彼は一生孤独なのだ。
この「呪」を解くキーマンは、図書室の生き字引こと矢延パイセンだ。彼女(だっけ?)はことあるごとに書籍を引用し、それとなく亨を導いて行く。
そう、これは亨が「呪」を解くお話でもあるのだ。
小崎がクラゲを呼ぶ理由は何なのか。それは世の理不尽に対抗するためだ。人生というは本当に厄介で、真っ当に生きていても酷い目に遭ったりする。むしろその方が多い。
だから小崎が「理不尽には理不尽を」という考えに至ったとしても何ら不思議ではない。そしてその手段が「クラゲを降らせること」だったのだ。
果たしていったいなぜクラゲなのか。
理不尽に対抗するための理不尽であれば、槍を降らすでもオオナマズを呼び起こし大地震を起こすでも良い。クラゲに拘る理由は何なのか。
彼女の考える理不尽とは「社会に迷惑をかける」ことであるらしい。その点、クラゲを降らせることで社会に迷惑をかけられるかと言われれば、断言はできまい。迷惑がかかるかも知れないし、かからないかも知れない。
亡くなった小崎の親友が「クラゲが降っているのが見たい」と言ったとしても、彼女はなぜその光景を見たいと思ったのか。
彼女たちにとってのクラゲとは果たして何を象徴しているのか。
一読しただけではそれは分からずじまいではある。しかし、程良き理不尽にクラゲを降らせるという選択は純粋な高校生らにとって妥当であるとも思える。
もし槍を降らそうものなら、社会は地獄絵図と化し迷惑どころの話ではない。一瞬で世の中は血の海になる。
クラゲならば、なんだかフワフワした動物だし毒も(ちょびっと)ある。もし実現すれば本人たちからすれば達成感と高揚感で舞い上がるだろうし、社会に対してそれなりの「迷惑」をかけることもできる。
現に、本書の最後では、降りゆくクラゲを世の人が見上げる結末となっている。なんだか優しい海の中に社会が沈んでしまったようだ。こんなにも優しく包まれてしまっては新たに「理不尽」を望む気も起きないだろう。うまい具合に負の連鎖を断ち切ることに成功している。
まあ、そんなこと、彼らにとってはどうでも良いことなのだろうが。
Posted by ブクログ
真面目にくらげを降らせる方法や手段を考えている純粋さって、誰にでも出来る事じゃないよな、と思った。
周りの環境や人に左右されやすい時期のなか、コレと信じて行動できる原動力に惹かれた。
失敗してから気づくこともあると思う。そこからどう関わっていくか、考えることが大事なんだろうと思った。