あらすじ
自宅前で航空券を拾ったら、なぜかモデル事務所に拾われた。
フラれること13回、借金は膨らみ、オーディションには落ちてばかり。
それでも男は人との縁を繋ぎ、やがて本当の恋をし、大役を射止める。
そんな折、アメリカから一本の電話がかかってきて……。
俳優・松尾諭の笑いと涙のシンデレラ(!?)ストーリー。巻末に俳優・高橋一生による「松尾くんの自伝に寄せる文」掲載!
自称・本格派俳優の自伝“風”エッセイ
ディズニープラスで2022年6月下旬配信開始予定
ドラマ化決定!
主演 仲野太賀
『拾われた男』を読んで、(中略)
彼に出会うずっと前から、拾われた男は
僕の友人だったのではないかと錯覚すらするほど、
益々気を許してしまう人になってしまった。
――高橋一生(拾われた男の友人の役者)
※この電子書籍は2020年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
巻末の「文春文庫最新刊」という広告には「自伝風エッセイ」と紹介され、解説の次のページには「このエッセイは史実を元にしたフィクションです。」という注意書き。
…エッセイでフィクションてあるんだっけ(そもそもエッセイってなんだっけ)?
先にドラマを観始めて、面白かったので読んでみた。元々は松尾諭の話なのに、読んでいてすっかり仲野太賀のイメージになってしまい、松尾諭をテレビで見ると「あのエピソードは本当はこの人の…」と不思議な気持ちになる。
俳優のエッセイだけあって、固有名詞はぼかしてあるが撮影や共演者の話などが出て来て、これはどの作品のことだろう?京都で好きになった女優さんて?とミーハー心がくすぐられる。一つの話が短くて読みやすいし、締めの言葉、「それはまた別のお話で。」にもそそられる。
そして後半の要である兄の話。時には他人より遠い兄弟の距離感、わかるような気がした。また、兄に自分の知らない顔があって、それが皆に好かれるような顔であったことを知る、というのにはグッときた。
どのあたりまでがフィクションかわからないが、航空券を拾ったことで運命が展開していくのは、まるでドラマのような展開だった。
巻末の高橋一生の解説がよかったので引用しておく。まさにその通りの読後感。
「彼が自分の周りの人間に生かされてきたことを常にどこかで感じていることと、その周りの人間への感謝が、今の彼を形作っているんだと思えて、なんというか、嬉しい気持ちになった。」
ちなみに一番笑ってしまったところは、「Redford escape」!
Posted by ブクログ
拾われた男
著者:松尾諭
発行:2020年6月30日
文藝春秋
初出:文春オンライン2017年4月30日~(加筆)
松尾諭という俳優は、今、テレビドラマに出まくっているような印象があるが、比較的最近まで、生活が安定せず、アルバイトもしていたようだ。彼の顔が売れたのは、深夜ドラマだがヒットした「SP 警視庁警備部警護課四係」(2007~2008年)だが、そのドラマ以降も次々と仕事が来ることはなく、一度やめたアルバイト生活をもう一度していたらしい。印象的な顔なので、アルバイト先で顔が割れることはなかったのだろうかと疑問になる。
現在、NHK総合で放送中(BSでは放送済)の同名ドラマの原作。兵庫県尼崎市出身の著者による、「史実をもとにしたフィクション」として書かれたエッセイ。思った以上に面白かった。
この原作では、有名人の名前や番組名、会社名などは伏せているが、バレバレ。NHKのドラマには、本書で名前を伏せている有名人がじゃんじゃん本人出演している。著者は所属事務所の新人女優である「ハルコ」さんの運転手兼付き人のアルバイトを事務所から言われて2度ほどしていたが、彼女は井川遥であり、ドラマにも出演している。新人時代と彼女が売れっ子になってからと、2度の運転手をしているが、新人時代に彼女から「癒やし系なんだね」と言われたことがあるという。そして、癒しの女王に癒やし系と言われるってことは日本で一番の癒やし系じゃないかと少し嬉しくなった、と綴っているのがおもしろかった。
東京で家賃格安の事故物件に住んだ話では、部屋に鏡がひとつもなかった、なかったというより、本来あったであろう場所から取り外された形跡がある、と書いている。この辺りは、松原タニシが「恐い間取り」で書いていることと通じるものがあり、ちょっと恐かった。
著者にはお兄さんがいたが、アメリカに留学したまま行方不明で、祖母が余命いくばくもない時に会いたがっていたのでメールを出したが、結局、帰ってこなかったし、もう縁を切っているような状態だった。そんな彼が、アメリカで脳出血により倒れ、手術が必要だが家族の同意がいるという連絡が入る。著者が行くと、その時点ですでに10万ドル(100円換算で1千万円)以上の医療費がかかっているという。これから必要な手術や治療を受け、飛行機に乗って帰国できる状態になるまで、さらに医療費はかさんでいくという。もちろん、保険に入っていないし、パスポートもビザも切れた不法滞在状態だった。
著者はその時点でほとんど蓄えもなく、1千万円であってもとても払える状態ではなかった。暫くたち、大学病院に移って手術や治療を受ける。概算では、著者が一生かかっても支払えないような金額に膨れ上がっていた。しかし、アメリカ政府かミシガン州か病院かは不明だが、低所得者を救済するプログラムがあり、なんと、全部無料になったという。さらに、日本までの付き添い看護師2人の飛行機代も病院が負担してくれた。
究極の自己責任社会のようなイメージのあるアメリカだが、実際はそうではない。結構、貧乏人にも優しい国なのである。しかも、外国人であり不法滞在だった人間に。保守的な言動をしている日本の人たちに、ぜひ、こうした事実を知って欲しい。