【感想・ネタバレ】沼地のある森を抜けて(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

はじまりは、「ぬかどこ」だった。先祖伝来のぬか床が、うめくのだ――「ぬかどこ」に由来する奇妙な出来事に導かれ、久美は故郷の島、森の沼地へと進み入る。そこで何が起きたのか。濃厚な緑の気息。厚い苔に覆われ寄生植物が繁茂する生命みなぎる森。久美が感じた命の秘密とは。光のように生まれ来る、すべての命に仕込まれた可能性への夢。連綿と続く命の繋がりを伝える長編小説。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

なんとゆうか、これは、語彙力を試されているかのような話だった。

あらすじをゆうと、主人公の叔母が亡くなり、一族の故郷の島にある、沼の成分が入った家宝の「ぬか床」を受け継いだところから話が始まります。

ぬか床って、わたしもかつて世話をしていましたが、毎日手を入れて底からかき混ぜて空気を入れないといけない、けっこう手間のかかるものです。
それを引き取るかわりに叔母のマンションも譲り受けるのですが、そのぬか床の手入れを怠ると、ぬか床から文句を言われたり酷い匂いがしてきたり、昨日まではなかったはずの卵がぬか床の中から生まれて、卵からは人が生まれて、それが子供の頃亡くなった同級生の男の子に見えたり、親友に見えたり、両目だけがあちこち浮遊している、「カッサンドラ」というのっぺらぼうな女の人が出てきたりと、奇妙なお話が続きます。
物語がぐっと動き出すきっかけは、主人公の両親は事故で亡くなったと聞かされていたけど、実は叔母とおなじ心臓麻痺だったということを知り、真相を確かめるために、男性の体だけど男性という性別を捨てた風野さんという人と一緒に故郷の島にいくところから。
そこで、沼の秘密とは。
自己とは何か。
自分と他者との境界についてや、生物が一つのものが二つに分裂していくことを繰り返す無性生殖から、二つのものが一つになる有性生殖が始まった起源を辿るような、まるで神話を読んでいるかのような壮大な物語と様変わりしていきます。

他の梨木さんの作品でも生きることや死ぬこと、などのテーマを扱ったものがいくつかあると思いますが、この話はその根源的なルーツにも思えるような感じがして、読み終わった後はしばらく呆然としてしまうようなお話でした。
なんとも奇天烈な話ですが、ずっと心に残る作品です。

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2025年03月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

‪沼地のある森を抜けて 梨木香歩‬
‪ぬか床から人がってのでファンタジー?と思ってたら人が死んでるってのでホラー?そこからトラウマとかルーツ探し?と読み進めると、最後壮大な生命と再生の物語‬
‪この最後を読む為に今までの鬱々としたのがあったのね、と‬
‪言葉にできないほどにカタルシス凄い‬


"解き放たれてあれ
‪母の繰り返しでも、父の繰り返しでもない。先祖の誰でもない、まったく世界でただ一つの、存在なのだから、と"‬

‪もういないのに傷つけられた記憶と対人恐怖症だけ残ってる私には‬
この本はとてもよかった‬

この壮大な再生を言葉で表現して本で主人公と一緒に体験できるのがすごい
ひっそりととても良い本ですと
万人向けではないかもしれないけど、こじらせてる大人にはオススメです

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2023年11月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ぬか床から始まる日常物かと思いきや、どんどん話が膨らんでいき、最終的には生命の深淵をのぞき、そして読者にも問いかけるような内容となっている。

後半から挿入される「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」はかなり抽象的だが細胞壁=ウォールを持つ生き物とそこに入り込んできた似て非なる生命のお話で(だと思っている)同じテーマをあつかっている。

もとはひとつの生命が生まれ、壁を作り、それを壊し、そしてまたひとつになることの不可思議さと奇跡、または呪いや祈り。
自分が何者かの定義の曖昧さもあれば、確固たる
自分の意思もあるような気がするその線引きの危うさと自由さ。
そういったものを深く考えさせられた。

誰もが良いと思う作品ではないと思うが、個人的に
忘れられない作品となった。

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2023年01月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・動きや感触の表現が、読み返したくなるくらい綺麗だった。
・何について語っているのかはっきりと示されていない章もあり、色々想像しながら読み進めていくのが楽しかった。
・自分の意思がしっかりあって、冷静に適切な言葉で相手に伝えられる久美ちゃんのような大人になりたい。
・久美ちゃんと風野さんのその後がすごく気になる〜気になる〜
・めちゃくちゃ現実の中にあるありふれた物にファンタジー要素を落とし込んでいるのが最高。

0
2022年05月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

沼地のある森を抜けて

先祖がぬか床を持って駆け落ちして以来、ずっと守られてきたぬか床。叔母の死をきっかけに、叔母のマンションと共にそのぬか床を継いだ主人公の物語と、ぬか床の中の酵母やら細菌やらから見た物語とが交錯しながら話が進んでいきます。
自分のアイデンティティ、命のはじまり、何故有性生殖か?、そして命は何を目指してどこにいくのか?
こういった問いが詰まった(結局結論は出ませんが)難しい話を、ある程度の難しさを残してはいますが、エンターテイメントにしてしまう著者の力量はたいしたものだなあと思います。
ぬか床が呻いたり、ぬか床の卵から人が出てきたりと幻想小説っぽいところもありますが、「家守奇譚」のようにそちらが主ではないので、さらりと現実的に描かれていて、その点も面白いなと思いました。
ちょっと残念だったのが、「おおーこの構造は、”世界の終わりとハードボイルドワンダーランド”(村上春樹)だー」とものすごく期待したのですが、2つの物語の絡み方や収斂の仕方が今ひとつだったのが、期待が大きかっただけに残念です。
もうすぐお盆なので、自らの自出やご先祖さんのことを、無い頭で考えてみている竹蔵でした。

竹蔵

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2024年06月07日

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ネタバレ

うむむむむ、難解・・いやいや、私の読解力や知識が不足しているだけ・・・

初めの、フリオの話は面白くて一気に読んでしまった。
梨木さんってこんな物語も書くんだ?と思いつつ、
久美の自問自答がちょっとおもしろいところもあって、
クスッと笑ってしまった。
いやー面白い、と思いながら読み進めると、一気にトーンというか景色というか、物語の色みたいなものが変わる。

カッサンドラの話は、口だけの三味線女がでてくるなんてホラーでしかないんだけど、叔母だけでなく両親の死までさかのぼって真相を、となると、もはやミステリーのようにもなってきて、心がかき乱される。後々わかったけれど、カッサンドラが久美にとってジョーカーで、ジョーカーを消したことで、ぬか床やその元の沼に変化が起きたってわけなのだな(と、書いておきながら、本当にその解釈でよいか、自信がない)。

カッサンドラがそんな感じだったのに、次のシマの話。
え?村上春樹?違うな。カズオ・イシグロ?(←ひと作品しか読んでないのに)小川洋子?と読書家の皆様から激怒されそうな的外れなとまどいを覚えつつも、そうか梨木さんには「裏庭」という長編ファンタジーもあったな、と思い出して、少し心が落ち着いた。

クスッと笑えたフリオの話から、菌類、無性生物と有性生物、全宇宙のはじまり、最初の細胞の孤独、などなど、どんどん壮大な話へと広がっていき、「これは何のこと?何を表現しようとしているの?」と自問することをやめ、そのまま、文章通りに受け取ることにした。

あらゆる生命体は、意図せずとも「孤独」を感じ、それゆえに繁栄へ向かっていくものであり、その過程で必ずやそのもの自身やまわりの環境に変化というものは訪れ、それはどうにも止めようのないもので、いずれは死、無に終着する。「生」の期間、自分と他者をどう区別しているのか。自分と他者を隔てるものは何なのか。

などなど考えながら読み進めたけれど、やっぱり深くは理解できなかったと思う。
ただ、読んで面白かったか、面白くなかったかと言われれば、面白かった。

いつも思うけれど、梨木さんの頭の中の思考はどうなっているのだろう。

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2022年10月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

梨木さんの本は何冊か読んできたけど、中でも少しハードな題材の物語だったという印象。
自己、生殖、性、生命、循環…。
幻想的ではありながらも、SF的な要素もあって新鮮な読み心地だった。

風野さんの「性別への嫌悪感」みたいなものがすごくリアルで共感した。私自身も「男の子になりたい」というより「女の子をやめたい」と思ったことが何度もあったし、「みーんな細菌になって無性別になればいいのに」って思っていたこともあったので、風野さんの考えを馬鹿らしいとは思えなかった。

特に印象的だったのは、最後の沼地での富士さんのセリフ。
『沼地は、もう、前のような方法では生殖を行わないから、彼らはこの種の、最後の人たちとして、ここで平和に滅びてゆくんだ。』
何故か分からないけれど、地域猫のことが頭に思い浮かんだ。
ずっと古代の頃は野生で、人間の事情でともに生きるようになって、ここ数年で人間の事情で野良猫は許されない存在になった。地域猫たちは避妊・去勢手術をされていることが多く、彼らの命は1代限り。いろいろな事情で昔のままではいられないからしかたがない変化ということはわかっている。ただ、彼らの最後も平和であってほしいと町で見かけるたびに思う。

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2025年01月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

始まりはぬか床、ぬか床が生み育むのは美味しいぬか漬けや発酵菌だけではなかった。そこは豊穣たる命が宿り、生み出す世界。

…お漬物マニアなら、こんなこと考えたりするし言うだろうけど、まさかこんな惹句が400Pを超える長編小説になりうるとは…梨木ファンタジーさすがである。

時々引用される、男の子の物語とオーラス50Pほどについていけなかったのが残念。ここは完全に好み、で、俺がえらばれなかっただけ。及び腰になってしまったこの2つにがっちり嵌れたら、この小説は手放せなくなること間違いなしだと思う。

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2022年01月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

前半と後半の印象が違う。
怨念や呪いのような絡みつく繋がりは、それだけでなく暖めも育てもする、ような複雑な成り立ちにそういうものかも、と思う。
最終的な結末が意外であり、物語的にはそうでなくては成らない決められていた結末にもみえる。
前半が好みで、後半はちょっと苦手。
次に読んだときは印象がかわるかもしれない。

再読。
最終的なまとめかたが結局男女だから子孫を残すというのが、新鮮さが足りないと思ってしまったのかも。強引さを感じたのか。
二人の性格が、少し世間と外れているのだから、せっかくだから新しい形の子孫繁栄?がみたかったのかも。

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2021年09月09日

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