あらすじ
名誉も誇りもない、そして戦闘を前提としていない、世界一奇妙な軍隊・自衛隊。世間が高度成長で浮かれ、就職の心配など無用の時代に、志願して自衛官になった若者たちがいた。軍人としての立場を全うし、男子の本懐を遂げようと生きる彼らを活写した、著者自らの体験を綴る涙と笑いの青春グラフィティ!
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Posted by ブクログ
最初は正直、なんだこの組織は、体罰かよ、と思ったのだが、読めば読むほど、人間の温かみがあった。最初ひどいなと思ったやつも、それだけではなかったし、短編ごとに主役が変わるから、見える面が違う。正直、読み始めは面白いとは思わなかったけど、読み終わったらもう少し彼らの人生が気になると思えた。とてもよい1冊だと思う。
Posted by ブクログ
変わりゆく時代の中で、反動と言われようが偏屈者と呼ばれらようが、かつて、軍人であった矜りを捨ててはならなかった。銃も剣も国に返したが、返納してならぬ歩兵の本領を、おいても尽きぬ背骨に、私はしっかりと刻みつけていた
しかしながら、変わり、ゆく時代に逆行するように、変わらぬ何かがあるはずだ。本作は、歩兵の本領ならぬ、まさしく作家の本領を見せつけた作品と言えるだろう
よくも悪しくも古き良き時代の自衛隊は終焉を告げた。いよいよ次の時代に突入したわけだが、この作品に描かれていた頃の自衛隊が、実は1番良い時だったなと言うようなことにならないようにしたいものだ
Posted by ブクログ
目次
・若鷲の歌
・小村二等兵の憂鬱
・バトル・ライン
・門前金融
・入営
・シンデレラ・リバティー
・脱柵者
・越年歩哨
・歩兵の本領
1970年頃の自衛官たちの物語。
ゲバ棒を持った大学生も、ラブ&ピースのTシャツを着た若者も、それなりに就職していい暮らしをしているときに、それぞれの事情で自衛隊に入らざるを得なかった若き自衛官たち。
理不尽なしごきやいじめに涙を流し、戦争に行くことのない軍隊生活を嗤う。
自由がなくて、安月給で、慢性的人員不足のせいで、やらねばならないことだけはいくらでもある。
けれど自衛隊にいるのは彼ら若者たちだけではない。
もう何年もこの生活を続けている先輩兵。
旧陸軍の生き残りの古兵。
著者はきっと、自衛官だったときは自衛隊を好きではなかったのではないだろうか。
痛いし、苦しいし、理不尽だし。
青春の苦しさだけではなく、生きていかねばならない大人の苦さ。
それに気づいた時、作者のまなざしは優しいものになったのではないのかな。
存在の是非ではなく、現実にそこにある存在として、生き延びるための術がある。
自衛隊には落第生がいないのだとか。
ひとりの落第生のために全滅することもあるから。
“だから軍隊というのはどこの国でもそうだけど、優秀な兵隊を作るんじゃなくて、クズのいない部隊を作ろうとするんだ”
なるほど。それは気付かなかった。
けれど行き過ぎたそれが、往々にして全体主義になっちゃうんだよね。
「若鷲の歌」に出てくる川原准尉。
昭和20年8月15日の日付が入った、自分の位牌を持つ。
「日輪の遺産」に出てくる真柴少佐のモデルなのかと思ったり。
“川原准尉の小さな体は、少年飛行兵のまま成長を止めたのだと思った。その夜、私はこの世で最も気の毒な、最も救いがたい、どんな念仏にも祈りの言葉にも成仏することのできない幽霊を、この目で見た。それは、勝手に戦をして、勝手に負けて、その理不尽なツケを私たちの世代にそっくり押しかぶせた軍人のなれの果てには違いなかった”
こーゆー書きぶりが、ほんと、上手いんだよな。