あらすじ
中学を出て、その日暮らしを三年半。十代も終わりに近づいてきた北町貫多は、心機一転、再出発を期し、横浜桜木町に移り住み、これまでの日雇いとは異なる造園会社での仕事をはじめた。三週目に入って、事務のアルバイトとして貫多と同い年の女の子がやってきた。寝酒と読書と自慰の他に特に楽しみのなかった貫多に心を震わせる存在が現れたのだった。著者初の幻の傑作長編、ついに文庫化。(解説・山下敦弘)
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Posted by ブクログ
まあいつものお話だが、「苦役列車」の直後だけあって、まだまだ若い。19歳。ゆえに女に岡惚れする。
《根は眠れるスケコマシ気質》にできてるだけに、《ウルフのポーズで孤狼アクション》をとれば《中卒タフ・ガイ》としての面目躍如。
眼前の女の(呆れ)顔を見て、《(うむ。濡れたな……)との確信》を抱く。
で、まあ結句周囲の面々にさんざほき捨てて逐電、てなわけだ。
しかし今回は田中英光との出会いが描かれ、ここがいい。
《何んだってこの私小説家は、己れの無様な姿を客観的に、こうも面白く、そしてこうも節度を保ちながらの奔放な文章で語れるのか。だが、それが貫多にとっては泣きたいほどうれしく、そして実際に落涙するまでに、ひどくありがたくってならぬ。》
西村読者の多くが思っていたことでもある。
ところで新潮社、何年も文庫化しなかった(関係を断っていた?)上に「苦役列車」の件で愛憎のある山下敦弘監督に書かせるって……そしてこの解説がまた、決して悪くない追悼文になっているって、いい仕返しができたということか。