あらすじ
戦争・ウイルス・自然災害・経済危機…… この世界の次なる「破滅」とは? ネットワーク理論やカオス理論で迫る文明の脆弱性。
伝染病のパンデミックや飢餓、戦争は天災か、人災か? 大惨事(カタストロフィ)の責任を負うべきは一握りのリーダーか、あるいは組織の管理職たちか?
大地震や火山の噴火、2つの世界大戦、中国の大躍進政策による飢餓、チェルノブイリ原発事故、スペースシャトル「チャレンジャー」の爆発事故など、人類が被ってきた大惨事や事故に共通する構造を、ネットワーク理論やカオス理論などの最先端の知見をもって明らかにし、この世界や組織が抱える脆弱性と回復力(レジリエンス)に、今、最も注目される「世界の知性」が迫る。
ニーアル・ファーガソンは、コロナ・パンデミックを幅広い歴史的なパースペクティブに置き、今回の危機は人類が初めて挑戦した大惨事ではないことを思い起こさせる。グローバルな歴史を深い知識とともに描きつつ、人類が直面した脅威を列挙し、人類がどのようにそれに対処してきたかを機知に富んだ方法で示してみせる。――フランシス・フクヤマ(『歴史の終わり』著者)
本書でニーアル・ファーガソンは、人類が経験してきた大惨事の広大な景色を、注目すべき批判的な視線で見つめる。そして、次のパンデミックや厄災を理解し、より良い未来を創造するのに役立つであろう、過去から得られる深い洞察を提示する。――マーク・ベニオフ(セールスフォース・ドットコム会長、共同CEO兼創業者)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
歴史的な大惨事(カタストロフィ)は予測不能である。これが本書の要点だろう。ほとんどの惨事は正規分布しておらず、ランダムもしくは冪乗分布している。
もちろん、ある程度予測できる出来事(灰色のサイ)もある。また、予想を超えた惨事(ブラックスワン)がある。そして、手のつけられない大惨事(ドラゴンキング)・・。これらを予測することは不可能だ。そしてこれらの災害は、「天災」とも「人災」とも区別がつかず、重層的に絡み合っていることが多い。所謂複雑系であり、完全に防ぐことはもとよりできない。
人類の歴史は、まさにカタストロフィの歴史であったわけだが、我々の未来はどのような展望を描くのか。当然の帰結として、予測不能だということだろう。著者は、せいぜい社会や政治制度がレジリエンスのあるものにすることくらいだ、と述べている。
平和な世の中で過ごしていると、人類の歴史は良い方向に進歩しているような感触を知らず知らずのうちに持ってしまいがちだ。そう思うのは私だけだろうか。本書はそのような考えに一石を投じているように思う。振り返るに、我々の世代もブラックスワン級の災害を経験している。その時の社会を支えている私たちの在り方が、突如現れるカタストロフィに対してもある程度のレジリエンスを持って社会を維持していく鍵になるのだろう。
Posted by ブクログ
ボリューミィな歴史学。
本書では為政者、特に近年の大国の為政者を痛烈に批判する。
それだけではなく、たとえばコロナパンデミックを少数の邪悪な大統領と首相の愚策によるもののような報道をした機関のことも。
まさにコロナパンデミックの渦中にいる私たちは、本書をよく読み込むことが必要だろう。
また、各地で起こるホットウォー(武力を用いて互いに血が流れる「戦争」のこと)についても関心を高める必要があるだろう。
本書中で心に残るのは、ユドコウスキーの言葉を引用したもの。
503頁に記載されるそれは、世界を破壊するのに必要な最低限のIQは、1年半ごとに1パーセントポイント下がる、というムーアの法則の修正版について示す。
かつてリスクは一部の人を規制すれば良かったが今では多くの人の手、つまり、私にも、あなたにも握られている、というのは恐怖でしかない。
第8章の「惨事に共通する構造」は本書の中では最も面白く、また興味深いテーマだった。
失敗が起こる箇所は中間層にあることが多い、とか、管轄権の重複や責任の所在の不明瞭さ、過度に複雑な規則が失敗を招くという事実は、心得ておくべき事項だ。
ヒンデンブルク号、タイタニック号、チャレンジャー号など、既に知られている大きな事故が題材となっており、身近に感じられる。
私自身も安全を第一にする場所に勤めているので、その悲劇は人ごとではない。
自分にひきつけて考える、それができれば大惨事は軽減されるのかもしれない。
であれば、私たちはまず何から始めれば良いのか。
破滅させようとする知性に対抗するためには、知っておかねばならない。
本書が語る、大惨事とは何かを。
そして何をなすべきかを自ら考えるべきなのだ。
Posted by ブクログ
・前半は少し冗長な印象だが、これは自分の歴史的な基礎知識が不足しているからかも知れない。その証拠に、1970年代以降に入って、自分にとって馴染みのある名前が出てくるようになると興味深く読み進められるようになった(苦笑)。
・人類史における惨事というのは戦争と疫病。それ自体は新しい知見ではないが、本書の特徴はどこにあるんだろうか?
・惨事の原因は、たとえそれが天災であってもこれだけネットワーク構造が発達した社会にあっては必ず人災の側面を持つと主張しつつ、だからと言って、トップ(大統領とか首相とか)にすべての責任を負わせるのは正しくないといい、安直な犯人探しに偏る報道の仕方に警鐘を鳴らす。「惨事で失敗が起こる箇所は上層部(「後方」でも「前線」でもなく)、中間管理層の中にあることが多い(第8章)」、つまり文字通り、事件は現場で起きるわけだ。そして、ネットワーク構造と官僚制の機能不全についての理解を、今以上に深める必要がある、とするのが本書の特徴ということになるだろう。特に「官僚制の機能不全」と言うのは、安直な魔女狩りに陥ることなく、正しく、そしてより善く解き明かしたいところだ。
・また、今のコロナ禍で、効率的な対応には全体主義が有効というような説も出てきているが、過去の大惨事には、全体主義によって引き起こされたものもあることを忘れてはいけないと指摘する。ましてや、今のテクノロジーは、既に強烈な監視システムを構築できるわけで、その危険性と、来たるべき惨事に対して備えるために、SF的想像力が大切だと力説を始める。本書の最終章辺りは、SFのオンパレード(HGウェルズからディック、「ニューロマンサー」から、何と「三体」まで!)。「SF作品は私たちが未来について明確に考えるのを助けるうえで、重要な役割を果たすことができる。(P516)」とかなりの推し具合だ。
・「今日のアメリカや世界を中国がどう見ているかについて最も深く知る手掛かりとなる本」として「三体 黒暗森林」を挙げているのには驚かされた。確かに、そこで描かれていた宇宙の公理は印象深かったが、それを「今の中国の世界観」にまで敷衍するとは、慧眼なのか、こじつけなのか。いずれにせよ、結果としてファーガソンの歴史本が好きな層に、最新のSF状況をアピールして寄与するところ大だ。素晴らしい!
・オーウェルの「1984」なりハクスリーの「すばらしい新世界」が出てくるのは定番として、ザミャーチンの「われら」に特にスポットをあてているのにも少し驚かされた。この本については、ちょっと描写的によく理解できない箇所がありつつ、自分は不思議な印象を持っているのだが、なぜ、わざわざザミャーチンを推すのかと思わんでもない。「習近平が支配する中国からは、エヴゲーニイ・ザミャーチンの非凡な小説『われら』が、ますます頭に浮かぶようになる。(P511)」とのことだが、これは中国に対するファーガソンの視点が少し偏っていることを示唆しているかもと感じた。