あらすじ
17歳のかんこたち一家は、久しぶりの車中泊の旅をする。思い出の景色が、家族のままならなさの根源にあるものを引きずりだす。50万部突破の『推し、燃ゆ』に続く奇跡とも呼ぶべき傑作。
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Posted by ブクログ
父方の祖母が亡くなり、かんこと両親は車で祖母の家へ向かう。
車中泊をしながら。
家を出て暮らしている兄と弟もそれぞれやってきて…という話なのだが、彼女の作品を説明するのに、あらすじなど書いたところでしょうがない。
傍から見ればかんこの家族は壊れている。
些細なことですぐかッとし暴力をふるう父、脳梗塞で倒れて以来自分の感情を持て余すかのように時々爆発する母。
家を出て自分の力で生きている兄と、遠くの高校へ通うために家を出ている弟。
家族それぞれが傷つけあい、血を流しながらも愛している。
それは歪なこと?
逃げ出さなくてはならないこと?
かんこはそうは思わない。
”もつれ合いながら脱しようともがくさまを「依存」の一語で切り捨ててしまえる大人たちが、数多自立しているこの世をこそ、かんこは捨てたかった。(中略)むしろ自立を最善の在り方とするようになったこの現代社会が、そうでなければ大人になれないなどと曖昧な言葉でもって迫る人里の掟じたいが、かんこにとってはすでに用済みなのかもしれない。”
それでも、このもつれあった家族の「依存」は解消されねばならないと私は思う。
痛みをなかったことにするのではなく、痛みを痛みとして感じながら、少しずつそうしなければならないと。
だって、かんこの家族は誰も幸せではないもの。
かんこは、両親の子どもでありながら、両親を守る存在でもある。
親も完全な人間ではない。
でもやっぱり、泣きながら子どもにすがってしまうのは違う。
だって、親を愛している子どもは、親を守ろうと歯を食いしばってしまうもの。
亡くなった父方の祖母というのも、当時には珍しい自分ファーストの人で、そのことで傷ついた父の痛みが、発作的な暴力を起こさせるような気はしていたが、物語の最後に父親は決定的な痛みを受ける。
母の愛を満足に与えられず、歯を食いしばって自分一人の力で生きてきた(と自負する)父は、最後の最後に「なんで生きてきちゃったんだろうな」とつぶやくはめになる。
自分一人の力で生きる能力を持っていたことを、誇ればいい。
そんな子どもに気付かない親なんて、心の中から消してしまえばいい。
思い通りにならなくても、反抗的な態度を取ることがあっても、少なくとも娘は自分のことを愛し守ろうとしている事に気付かなければならない。
じゃないと父は、自分が母親にされたことを娘にしてしまうことになる。
”横断歩道を人が悠々と通っている。父はアクセルを踏まない。誰も心中しない。道は光を受け、春だった。”
宇佐見りん、天才だな。
Posted by ブクログ
声にならない痛みを全身で叫んでいるような作品だった。
なんでもないかのように振る舞う主人公につられて、そういうものかと読み進めていったら、家族はとうに崩壊していることが徐々に明らかになってくる。
父と母と娘、もはや自分たちだけではどうにもできない状態なのだが、主人公は当事者であるため冷静に考えることができていない。それは無理もないことで、親への愛情も愛着もあるだろう。たとえそれが最善だと言われても、両親を置いて離れることに苦痛を感じているようなのが、また悲しかった。
家族間の長年かけて築いてきた空気感が見事に表現されていて、ほんとうに苦しかった。死は思ったよりもすぐそばにあるが、今この瞬間は平和だと感じている主人公の感覚が鋭くて、ハッとさせられる。
Posted by ブクログ
辛い時に自分をものだと思うとか、痛いほど共感できる。こんなものを書きたい。自分に足りないものを一々考えさせられる。自然、光の描写が多い。
確かに、「自分は自分で守れ」は、見捨てられる側にとっても残酷な言葉。
母の病気がきっかけと言っても、それは母のせいでないから父が悪いと。弟に「だからいじめられるんだ」、かんこの鬱を責めるのはひどい。でも作中にあった通り、それは祖母のせいであり、それも遡れば原因はあり、それ以外にもきっと原因はある。
「なんで生きてきちゃったんだろうな」
車で住むようになって学校に行けるようになったのは両親と離れたからだと思う。それでも兄弟の中で1番見放さないかんこは偉い。
前2作より感情表現がストレートにあると思う。
死にたい。
かんこは高三。ウツになり学校へ行けない。
母は脳梗塞の後麻痺と記憶障害(前向性健忘)が残り、今幼児化し酒を飲むと暴れる。元々優しい人で、人の苦しみまで自分の苦しみになる人だった。
父は理不尽で暴力を振るう。勉強を教えてくれるがそれは修業の様で兄弟、最後にかんこが逃げた。
兄は大学を辞め夏と結婚した。家族を避ける。
弟は高校から母方の祖母に引き取られた。
昔は車中泊で旅行に行くほど仲良い家族だった。
父方の祖母が亡くなり葬儀に向かう。
祖父は自殺未遂をした。祖母は遊び続け、四人兄弟の伯父伯母ばかり可愛がった。1番上の家出した姉と父は祖母を許さなかった。母も詰った。かんこは「ものしずかだけどきままな」祖母しか知らない。
帰り母は遊園地に行きたいと言い出す。喧嘩が起きる。母は昔に戻りたい。父の弟への発言はが見逃せない。私のせいなら私が終わらせると母は心中しようとする。それすら記憶から流れていこうとする。
遊園地で母はメリーゴーランドで家族写真を撮りたがる。かんこだけが休止中なのに乗り込んでピースする。その日帰ってかんこは車で生活を始める。
父は祖母の家を兄弟と片付け始める。四兄弟で父の分だけ見つからず父はかんこを車に乗せ泣く……
Posted by ブクログ
「あのひとたちはわたしの、親であり子どもなのだ、ずっとそばにいるうちにいつからかこんがらがって、ねじれてしまった。まだ、みんな、助けを求めている。相手が大人かどうかは関係がなかった。」
繰り返される地獄の渦中で育った一人として、溢れる涙を止められなかった。ここまであの地獄とその中の愛を言語化している小説には今まで出会ったことがなかった。
Posted by ブクログ
しばらく読みづらかったけど、半分過ぎたあたりから入り込んで読んだ。
「機能不全家庭」「ヤングケアラー」という言葉が頭に浮かんだ。
こんなにも娘に愛されているのに、この父親ときたら自分の傷にしか目がいかない。可哀想な生い立ちだったとは思う。結局、受けた傷や空虚感や渇きはその人の中に残り続け、貰えなかった愛情を死ぬまで欲しがるようになってしまうんだろうか。私は自分を省みても、自分の親のことを考えても、そう思ってしまうのだ。
かんこは最後、車で寝泊まりする事によって両親から物理的に少し距離を置けた。それによって見なくていいもの聞かなくていいものをある程度避ける事が出来るようになり、自分の生活に集中出来るようになった。それでも父は「俺の傷を見てくれ、かわいそうだろう」とやって来る。かんこはこの父の人生の成功の証明なんかじゃない。かんこの人生を生きていい。親のことなんてちょっとしか考えなくていい、自分のことを考えてほしい。かんこの心を縛る権利は誰にもない。それを教えてあげたい。お兄ちゃんもう少し頑張ってくれや…と思うけどこの兄もまだかんこを助け出すほどの余力がないのだろうな…。
男は、社会的にも身体的にもある程度強くある事が求められる。生物的にも雄は競争するものだ。その生まれながらのプレッシャーの代償みたいなものが周囲への共感力の無さになり、それをカバーするのが女の役割になりがちであると思う。基本的に女の方が情緒的であり共感能力が高く、力がなく、社会的にに出世しづらく、ケアラーに向いているからだ。兄も弟も自分のために限界を感じ親を見捨て家を出たのに、娘のかんこだけが両親を見捨てられず、家族という車から降りられない。
この父は、母に話せばいいのに、母がケアラーとして役に立たなくなったから娘の所に来ているのだ。最後のアルバムの話は涙が出るほど可哀想だと思い同情するけど、父は自分で自分を癒さなきゃダメなんだ。お前と子供達は別の生き物だと誰か教えてやってくれ。そしてそれがいくらか叶うのは、恐らくかんこが家を出た時だと思う。まぁこの父も母も連絡して来るし会いに来るだろうけど、それでもいつでも当たったり甘えたり出来なくなるのは大きい。自省に期待するしかない。母も気の毒だけど、自分を自分でコントロールしなきゃならないし、子供のように泣き喚いたとて、娘に出来ることなんてないだろう。残念だけど子供や犬と同じで、あまり構うとつけ上がるというのは本当だと思う。そしてきっとかんこの労力や失ったものに見合うほど、将来感謝されない。
父の期待を背負って進学校に進んで限界が来たのに、それで殴ったり罵倒するなんて何事かと思う。いくら可哀想な過去があったって、高校生の娘にこんなにたくさん背負わせる親なんて本来の親じゃない。
愛しているがゆえの家族の苦しみを描いた話だったと思う。そして作者の答えは多分一つ、根本的解決策はない。離れろ。……と私は読み取った。
このお父さんは自分の母親はクソだったと認めて、ちゃんと悲しんで、あんなやつの愛情も賞賛もいらねぇと思えたらいいんだけどね。妻子にこんなに愛されているのにダメなのかなぁ。この中でカウンセリングに行くべきはパパなんだよ。
しんどかったし、面白くはなかったけど、読んでよかった。作者さんが、同じような境遇の人のために、客観的に見られるように自己体験を交えてこの作品を書いてくれたなら、それは恐らく大成功で、ありがたかったです。
Posted by ブクログ
表現豊か!!!!すごい。99年生まれの作者と知って驚愕したけど若いから表現が生き生きしてるのか?思い返すとそんな気がした
主人公かんこの脳内葛藤をそのまま書き散らしたようでもある。なんか考え事してると自分でもよくわかってない境地に行ってたりするし
兎に角かんこはつらい、ヤングケアラーの一つの形か。父も母もかんこがいなくなったらどうなってしまうんだろ。残されたかんこ。可哀想だけどかんこ自身は可哀想って思われたくもないんだろうね
結局なあなあになってしまう怒りの矛先
被害者と加害者の記憶のギャップ、被害者は延々と尾を引いて。やった側はそんなことあった?レベルなことも。
自立している人が多数派な社会では自立が当たり前に求められること、できないやつは当然の如く切り捨てられること、そして自立できない人の自己否定が強まってしまうこと、確かに辛い。自立が社会の掟、そんなの糞食らえ的なかんこの叫びは響く。
この家族の楽しい場面とそうでないところはジェットコースターくらい目まぐるしく描かれる
過去に何度も縋ろうとする母は幼い。子供達に自分を重ねて幸せを実現しようとしてる父も幼い
こんな子供達の母にかんこはならざるを得ない
辛い時はモノになる
肉はミンチになるから叩かれるのは当たり前。モノだから気持ちはない。少し楽になれる
17歳の少女がこんなことを考えていることを思うと辛くなる
形骸化
本来の目的が失われて、形だけになってしまっていること
Posted by ブクログ
両親と弟と車中泊をしながら祖母のお葬式の場所まで向かった。
父は幼少期に家族に恵まれず孤独な日々を過ごしてきたが学力で努力して自立していった。
父の勉強術で兄と弟とかんこは、たくさん勉強して、かんこは私立の中学に入り志望校にも合格できた。
だけど、高校生になって学校についていけなくなったかんこ。
酒を飲むと悪酔いし、脳梗塞で体のマヒが残る母と、怒ると人の内側を言葉でえぐり殴る父。
何度も喧嘩した日々。互いを傷つけながらも必要としている家族。
祖母のお葬式から帰ってきてから、かんこは家に入れず車の中で生活するようになった。
いびつな依存しあう家族。
その違和感をはっきりとは書かない感じがリアル。