あらすじ
★「ブラックボックス」で芥川賞を受賞した作家の衝撃作&デビュー作が合本に。
ロシア軍が北海道に上陸。自衛隊の3尉・安達は敵を迎え撃つべく小隊を率いて任務につく。避難を拒む住民、届かない敵の情報、淡々と命令をこなす日々――。そんな安達の”戦場”は姿を現したロシア軍によって地獄と化す。「自衛隊の戦争」を迫真のリアルさで描く表題作ほか、元自衛官の芥川賞作家による戦争小説3篇。
【収録作】
「小隊」(第164回芥川賞候補)
「戦場のレビヤタン」(第160回芥川賞候補)
「市街戦」(第121回文學界新人賞受賞)
※この電子書籍は、2019年1月刊行の単行本『戦場のレビヤタン』、2021年2月刊行の『小隊』、「市街戦」を収録した文庫版を底本としています
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Posted by ブクログ
世の中にはリア充という言葉があるが、充実した生について考えてみたい。テレビを見ると、仕事終わりに、ビールを買って帰る男、女、(ビール会社のCM)から子供と遊ぶ妻を見て満足そうにうなずく男(住宅メーカーのCM)このように充実した人生は、売っているものなのだが、K(戦場のレビアタン)はそう思っていない。「我々は、よりよい生活とか未来、そうでなければ、貧困という仮想敵をイメージして生きている。」しかしこんな生き方は、p194「肥大化して動けなくなった豚のような生だ」という。
p181「仕事と知人と女と金、あるいは車の話....そうでないときは仕事してるだけの日々」こんなものが充実した人生といえるだろうか?
では、生とは何か?
よくは分らないが、死を背景にしたときにシルエットのように浮かび上がってくるものではないか。戦場ではp195「バッドマンは死をしっかりともたらしてくれる」そこで、防御行動をとる自分は、充実した生を生きていると言えるのではないか。売っていない、自分だけの生にたどり着けるのである。
茶道で、「一期一会」というのがある。言ったのは、井伊直弼と言われているが、もう、主人と客として会うことがないかもしれないと思い、できるだけのことをして悔いがないように生きようというのがある。これと同じことだと思う。
戦場では、立ち上がったら、死ぬ、伏せていなければいけない(防護行動)伏せた自分は、生きる方を選んでるのである。これが生だ。
だから、敵を憎んではいない。死を望んだ時に確実に死を与えてくるル大事な存在なのだから。生きているか死んでいるかわからない、身動きできない豚のような生き方だけはしたくない。
レビアタンとは海の怪物リバイアサンのことであるらしい。ホッブズで有名であるが、この場合は、戦場での死を表す。
KはバディのSほどは店の女に興味を示さず、(p271)生きがいをさがしている、喜ぶのは、「小隊」の小隊長の仕事を全うして、水浴びするときである。(p135)逃げた古参兵の小熊のようにならなくてよかったと思いながら。
Posted by ブクログ
『小隊』
文藝春秋の砂川さんと小泉悠さんの対談で兼ねてより読んでみたいと思っていた作品。
2022年にウクライナで戦争が始まったことはひどくショッキングでありセンセーショナルであったので、日々戦況や惨状を割とニュース等で追っていたが、そこで戦っている人の様子はなかなか想像がつかなかった。この作品を読んで、戦場での個人の目線を一つ与えてもらえたように感じた。
死が紙一重に隣接する戦闘の中で、頭中沸騰しながらも訓練で培われた戦闘所作はオートマティックに体を動かし、そして時々私生活のあれこれが思考に去来する。何日も風呂に入れず痒い全身、体を締め付ける重い装備、散らばった肉片のディティールや、集団内における個人の打算への怒りと葛藤。
戦場には多数の確かな個がいながら一度向かい合えばこれもまたオートマティックに味方と敵に別れてしまう。外にいれば分からない、これが戦争が絶えない理由の一つかもしれないと感じた。
『戦場のレビヤタン』
傭兵としてセキュリティー会社からイラクの施設に派遣される元自衛官の話。「イラクの砂漠に伸びる果てしない一本道と、十勝の雪原の風景とがオーバーラップした」
『市街戦』
自衛官の幹部候補生の演習中の話。舞台は九州は佐賀から長崎にかけて、行軍・戦闘演習が行われる。Kはリーマン・ショック時代の就職氷河期世代のようだが、就職難から自衛官になったのではない様に思われる。正直Kにドン引きしてしまうシーン(回想または白昼夢?の内容)もあったが、自分が生きる場所がここではない感という点では理解が出来る気はした。そして、一種エマージェンシーな状況のほうが生を感じられているのではないかという体験はわずかながらにも自分にもあった。(今となってはPTSDに近いものもあるので二度とごめんだが)
現在、高校世界史の勉強を今更ながらしている。(高校地理選択で歴史がさっぱりなのだが、歴史的文脈が分かれば日々目に留まる情報がもうちょっとは面白くなるかもと、今更ながら)安直だが、人間が幾多の戦いの末勝ち残ってきた生き物であるならば、緊急事態に生を見出すことは生物的にはあり得るのかもしれないとも感じた。
3作品を通じて…
専門用語が多いので都度検索しながら読み、大変勉強になった。2025年現在の世界の価値観は少し変化してきているように感じられる。力(軍事や経済)の論理を良しとする傾向を感じるが、戦争が良しとされる世の中にはなってほしくないと思う。
Posted by ブクログ
とにかく鬱!内容はロシア軍が北海道に攻めて来るという、タイムリーな内容。ロシア軍の圧倒的な兵器の前に日本軍はなす術無くジリジリと敗北していく様が描かれている。グロい表現が今でも頭にこびりついてるほど生々しくて気持ち悪かった。作者が元自衛隊という事もあって、戦争描写もリアルで読み応えがあった。