あらすじ
西欧や中国の美術はいわゆるファインアート、権力者による威圧的な造形を主流としているが、日本美術は違う。例えば鳥獣戯画や伊藤若冲の作品のように、遊び心にあふれ見る者を楽しませる造形によって鮮烈に彩られ、「真実」よりも「美しさ」を追求し発展してきた。「わび」「素朴さ」「デザイン性」「文字との融合」「多様性の競演」……世界に類のないそのオリジナリティを、本書では縦横無尽に読み解いていく。世界の周辺文化のトップランナーとしての日本美術の唯一無二性を解析する一冊。
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Posted by ブクログ
美術と言っても文化が違えばいろいろな形がある。著者は西欧や中国の美術について、権力者による威圧的な造形が中心であるのに対して、日本は遊び心にあふれ見るものを楽しませる造形と見ている。
「庶民ファーストなアート」として日本美術を捉える著者は、例として江戸時代の宗教美術を挙げている。
絵馬は、絵画の庶民化においてとくに重要と見ている。江戸時代の中期以降になると大絵馬の奉納は全国で盛んになった。小さな寺社の絵馬は、浮世絵師として成功しなかった者や、素人絵師が描いた大絵馬が多い。
見るものに爪あとを残す地獄絵もそうだ。近世後期になると派手な色彩を使ったドラスチックなものが主流になった。著者は江戸時代後期に描かれた長徳寺の六道絵を例に上げている。
日本美術を一味違った視点で見るとまた興味深い。
Posted by ブクログ
<目次>
第1章 入ってきたもの・出ていったもの
第2章 デザインへの傾斜
第3章 そこにあるのは「美」か、「真理」か
第4章 教養があってこそ味わえる
第5章 文字と絵の幸福なコラボレーション
第6章 素朴を愛する
第7章 わびの革命
第8章 庶民ファーストなアート
第9章 多様なスタイルの競演
第10章 周辺のオリジナリティ
<内容>
もと松濤美術館学芸員で現在大学教授の著者の本。西洋美術と日本美術の比較を、「ファインアート」とそうではない日本美術。視点は縄文土器から大津絵、浮世絵(西(錦絵)、円空仏や木喰仏、近代の版画、昭和期の「かわいい」系(竹久夢二から)と続く。また茶の湯の「わび」もその流れにあるという。日本の美術が、リアルをはずすように発展してきたと説くのは、面白かった。
Posted by ブクログ
高い完成度を誇り見る者を威圧するいわゆるファインアートに対して、中核文明の周辺に位置した日本の美術のオリジナリティは、そこからはみ出したところにあるのではないかとの仮説に基づき、本書では実際の作品の特長を読み解いていく。
「デザイン性」、リアリティーよりも見た目の美しさを追求する各種画法、文字と絵のコラボレーション、素朴さ、庶民フォーストといった切り口から、著者はそのオリジナリティを明らかにしていく。
これまでに観たことのある作品から、本書で初めて知ったものまでいろいろあったが、新しい角度から作品を見ることの愉しさを十分に味わうことができた。
ファインアートの代表として、西欧大陸諸国と中国が位置付けられているのだが、絵画、彫刻、建築といったら膨大な数があるだろうし、現代にまで残って高く評価されているものと対比した形で、周辺地域の作品のオリジナリティを導き出すというのは、研究者のかなり主観に依存するところが大きいのではないだろうかとの疑問は残った、特長という程度のことならば、何となく納得できるところではあるが。