あらすじ
阿片に溺れた友人の謎、遺書が語る恋と殺人、妻への妄執が生む惨劇――。江戸川乱歩が「大正期文壇の一角に燃え上がった、かくの如き犯罪と怪奇への情熱」と評した幻のミステリ特集号、「中央公論」秘密と開放号(大正七年七月臨時増刊)を現代に復刻。七編の創作と佐藤・乱歩の随筆を収録したアンソロジー。〈解説〉北村 薫
◆目次
・一般文壇と探偵小説/江戸川乱歩
・指紋/佐藤春夫
・開化の殺人/芥川龍之介
・刑事の家/里見弴
・肉屋/中村吉蔵
・別筵/久米正雄
・Nの水死/田山花袋
・叔母さん/正宗白鳥
・「指紋」の頃/佐藤春夫
・解説 大正七年 滝田樗陰と作家たち/北村 薫
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Posted by ブクログ
総じてミステリーとは言えない。
江戸川乱歩以前の時代の雰囲気を感じられる。らんぽがウケるわけだ。
「指紋」佐藤春夫
他のを読むとこれが一番ミステリーしてたな。最初に読んだ時は、この程度で良いの?と思った。友人が建てた家になにか仕掛けがあるのかと思ったら全然無かった。
映画で見た指紋と阿片窟で見た指紋が一緒だから犯人はアイツ!というひどく短絡的な、ただただすごいなの気持ち。指紋なんて覚えてられないのが普通なのに覚えていられるのか。すごいな。
「開化の殺人」芥川龍之介
あまりの読みづらさにぶん投げたくなった。
この文体含めてこの北畠という医者は鼻持ちならない奴だったのか?
従妹のために殺したけど従妹が手に入らないことがはっきりわかって、結婚相手を殺すか自分が死ぬかで自殺を選んだという手紙を送り付けてくるの甚だ迷惑でしかない。
夏目漱石のこころって面白かったなあ、開化がミステリーならこころもミステリーだよの気持ち。
従妹と脈有りみたいな描写も全然無いので、いきなりこの手紙でバラされても困る。すごい。なんだこの独りよがり。
開化というのは文明開化=西洋化で、北畠もキリスト教に傾倒してて自殺は出来ないけど結局する。自殺=他殺の一種にしたい!または宗教よりも愛のために死ぬ!という演出?
「刑事の家」里見弴
別荘使おうと思ったら貸してる家族と一緒に一夏過ごすの気まずいけど、なんかみんな自由に過ごしててその雰囲気は良かった。
結局子供が犯人だけどうまく落語のオチにして犯人探しはやめようっていう話?
「肉店」中村吉蔵
スピード感がすごい。
動機として、殺すまでの段階はちゃんと描写されていたがそれでもすごい。
お店どうすんの……店員可哀想…。
「別筳」久米正雄
裏話を知ってしまうとなるほどな。
緊張感はあって面白いが、みんな自分のことしか考えてない……すごい…。
「Nの水死」田山花袋
タイトルからして、だろうなと思ったらその通りで、普通。開化の殺人もそうだけど、自分が楽になりたくて語るという男のエゴさよ。こころはそこら辺男同士で完結して奥さんには何も伝えずに死のうとしたのが面白いのかも。関係性にもよるが。
「叔母さん」正宗白鳥
親戚の家に言ってちょっと気まずい思いをするの面白いな。叔母さんの娘狙いできたら当てが外れて、叔母さんが自分に色目を使ってる気がするけど今はもうそうでもないから、旦那さんと喧嘩してても別にという話?
特にオチがない。これで良いのか。
解説の北村さんがいっぱい語ってくれたのでわかりやすかった。乱歩や佐藤春夫自身でも語ってるのも入ってるので、こういう話なのか、こう読めば良いのかとわかって面白い。
乱歩以前の探偵小説ってこんななんだなあとわかって面白かったが、作品レベルとしてはあんまり自分には楽しめなかった。
Posted by ブクログ
乱歩の評論で、探偵小説隆盛前、一般文壇において谷崎、芥川、佐藤春夫らが探偵趣味の小説を書いていて、それに刺激を受けたということは読んだ記憶があった。
そこで取り上げられていたのが、大正7年夏に発行された、中央公論臨時増刊「秘密と開放号」。
本書は、増刊号掲載の創作8作から、谷崎の「二人の芸術家の話」を除いた7作と、ボーナスとして乱歩と佐藤春夫の関連する随筆2篇を収録したものである。
"乱歩も耽読した異色の競作が、一〇四年の時を超えて甦る!"というオビの煽りがまたすごい。
読んだことのあったのは、佐藤春夫の『指紋』だけ。芥川の『開化の殺人』さえ、タイトルしか知らなかった。それ以外は初めてのものばかり。
『指紋』は再読になるが、初読のときは映画でクローズアップされる指紋を見てその一致が分かるものかと、設定の不自然さが気になったが、阿片に惑溺する人間であればあり得るかもしれないと思わせる筆力はさすがである。
里見弴の『刑事の家』は、確かに秀作。別荘に避暑を決め込んだ主人公たちに対し、その留守番役の警察官一家。ところが、どうも米が盗まれているらしい。盗っているのは誰なのか。真相が明らかにされそうなときに、意外なラストが。
中村吉蔵『肉店』。作者は島村抱月の芸術座にも作品を提供していた戯曲家。嫉妬に狂った肉屋主人の過ちが明らかになっていくところはドラマティックなのだが、グロテスクさが際立ってしまい、作品からカタルシスを受けないのが難点か。
田山花袋『Nの水死』。花袋と言えば、『蒲団』、せいぜい『田舎教師』くらいしか読んだことがなく、こういう作品も書いていたのかという感想。秘密を抱えた主人公が、死に際して妻へ告白をする。その内容自体はかなり早くから予想できるのだが、この告白は妻に対する関係ではどうなのだろうか?
正宗白鳥『叔母さん』。主人公と叔母さんの、それぞれに対する気持ちが、分かったようで良く分からない。
解説は北村薫さん、今回もいろいろなことを教えてくれる、とても勉強になる内容満載。
Posted by ブクログ
明治大正に活躍した作家が書いたミステリ作品をまとめたものです。
まだ推理小説やミステリといったジャンルや作家が、現代のように確立されていない頃の作品が集まっています。
現代と違ったミステリ作品。
味わい深い文章を読むことができます。