【感想・ネタバレ】啓蒙思想2.0〔新版〕 政治・経済・生活を正気に戻すためにのレビュー

あらすじ

世界はもはや右翼/左翼ではなく、狂気/正気に分断されている。保守主義や認知科学を動員した、新しい啓蒙思想。解説:宇野重規

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書の中心的なテーマは、政治における右派(保守派)と左派(改革派)の根本的な非対称性
 進歩的な社会変革は、複雑で達成しがたく、妥協、信頼、集団行動が求められ、膨大な量の「頭」を使わなければならない。それに対し、右派の運動は、直感的で感情に訴える方法で形成することができる。例えば、税金に関する政策に対して「皆さんが苦労して稼いだお金を政府は奪うんです!」といった直感的に誰もがイメージできる言説で大衆の賛同を得るような運動をイメージすればわかりやすいかもしれない。

 本書は人間の脳がいかに合理的な思考を行うのが難しく時間がかかるか、従来の社会改革が人間の理性を過大評価してきたかを述べ、私たちの脳が得意なことと苦手なことを理解した上で、それでも人間は理性によって正気を取り戻すべきであるとし、理性を個人に求めるのではなく、人間の合理的な判断を促すような社会設計、制度設計が必要であると説く。

 実際に政治家の発言やテレビのワイドショーなどは、インパクトのある扇動的な表現を繰り返し、多くの人の感情を揺さぶるように設計されているなと思った。本当は熟考型の議論こそが必要であるはずが、多くの人の心を動かし、政治的な票につなげるためには上記のようなやり方が最適解として実行され、SNSの浸透でその流れにさらに歯止めが効かなくなっているというのが昨今どこの先進国でも見られる現象であると感じた。

 個人的には「学校とは、カリキュラムだけではなく、“社会環境”として機能している」という内容の箇所が印象に残った。著者は、学校は知識を得るための場所であると同時に、社会的な環境を提供する場所であり、 教室管理、読書課題、しめきり、テスト、成績評価は、集中力や計画性、目標達成に向けたセルフコントロールの不足を補うための外部足場であるとし、教室というリアルな場での対面の授業を評価している。オンラインによる授業スタイルが、コロナ禍を経て再び盛り上がりを見せているが、「授業を録画して配信することで、学校教育を届けることができる」というプロジェクトは、過去に完全に失敗しているとし、また独学者は、確証バイアスと陰謀論に陥りやすいということも述べている。これらは学校教育が子どもの理性的な思考の形成過程において必要な環境を提供する場であることの説明として説得力があると感じた。

0
2024年12月06日

「学術・語学」ランキング