【感想・ネタバレ】悪を与えようのレビュー

あらすじ

高校生・二階堂京子の弟を襲った一つの事件。
次第に明らかになっていく真実、壊れていく家族、そして孤独。
家を出て障害者施設で働き始めた京子は、さまざまな出来事や人々との出会いを通して
「正しさとは何か」を考え始める。
最後に京子が導き出した「正解」とは?

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Posted by ブクログ

本書には以下の3つのキーワードが似合うと私は思う。
それは「新感覚」「狂気」そして「悪」だ。

「新感覚」それはこの小説の構成がそれを示している。
本書は「健常者と障害者の隔たり」を主なテーマとして扱っているが、それはあくまで「主な」ものであり、その他にこれでもかというほど「社会的問題」を盛り込んでいる。
その問題は一つのテーマですら一本の小説が書けそうなほど重たいものであり、それを盛り込むと言うよりは「ぶち込んでくる」という感覚で、怒涛の如く次々と主人公にふりかかってくる問題は読んでいてハラハラすると共に「気になって仕方が無くなる」という感覚を覚えさせる。淡々と、むしろ潔いくらい簡潔な文章でそれをやられるので、もっさりとした感覚がなく、読む手がよどむことがない。
そしてその「社会的問題」の数々は必ずどこか救いがあるようなラストを迎える。まるで読者を傷つけまいとするような作者の意図が感じられる。
この感覚が「新感覚」で、駆け足で問題を次々と「ぶち込んで」くるだけでなく、その上で優しく諭してくるような…不思議な感覚だ。最初は翻弄されたが、新しい小説の形態として見ても良いのではないかと思った。

次に「狂気」だ。
この作品の登場人物にはまともな人間がほとんどいない。教師と、主人公が通う道場主と、その道場生の主婦くらいで、その他は全員「狂気」をどこかしら持っていると思われる。しかしその狂気は秘められたものであって、前面に押し出されてくるものではない。一人称で語られる構成から主人公の「狂気」はよく理解しやすいのだが、その他の登場人物は「どこかズレている」というものを感じさせる。この「ズレている」という感覚は実は現実の日常生活にもよく潜んでおり、もしかすると登場人物ほとんど「狂気」という、どちらかというとニッチな作風が「リアル」に感じられてしまう。
むしろ作品の中に登場する精神障害者の方が「まとも」で、「健常者」と呼ばれる登場人物たちのほうが「狂気」のように描かれているストーリーは非常に考えさせられるものがある。「おかしい」とか「狂ってる」ってなんなんだろう?

最後に「悪」
これはすさまじいネタバレになってしまうので言及できないが、私は主人公の最後のセリフで「あぁ!」と声を上げてしまった。見事にタイトルを回収していて、そして、その意味をじっくり考え込んでしまった。
考察をここで述べたいところではあるが、ネタバレレビューにしたくないので、ぜひ友達に本を勧めて語り合いたい。

最後に、この本はとにかく衝撃的だった。
文章はとにかく平坦、作者の文章力は高いとは決して思えない。しかし(著者プロフィールを見る限り)作者は元新聞記者だったそうで、本来なら文章を書くのはお手の物のはずだ。それがこのような文体で淡々と書くので、むしろこれは「わざと書いているな」と思わせられた。趣向を凝らした言葉を選ぶより「狂気」は淡々と書かれていた方がゾッと感じられる。
健常者と障害者の隔たりというテーマも、その「狂気」があったからより生きた問題提議になっている。とかく、全てグチャグチャなようで全て丸くおさまっている稀有な作品だと思う。
最高におもしろかった!と言えばそうではないが、考えさせられた、心に刺さった、新しい小説感を提供してくれた作品には高評価を与えたい。

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2020年04月14日

Posted by ブクログ

職場にいる障害者の方の事を思いつつ色んなことを考えてしまいました。
良い悪いの2つだけでは言い表せない事や考え、そして常にそこに在りながら時折見せつけられる狂気や自分には理解できない感覚を垣間見た事で知見は広がった

0
2021年03月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書を入手する前に、牛島薫子さん(@Pro_Wresler)ご自身のnote「狂気とは何か」を読んでいたので(「『悪を与えよう』でまともな登場人物が少ない理由です。」とツイートで紹介されていた)、そういうバイアスもかけつつの読書でした。

何かわかりあえない。ちょっとズレている。
淡々とした京子の語り口に対して抱くのはまさしくそういった小さな違和感で、その違和感は時に耐え難いほど大きくもなるのだけれど、それでも彼女が何がしかの答えに辿り着くのを見届けたいという気持ちを失わずにいられたのは、決して他人事ではないからなのかも。私もまた、誰かに違和感やズレを感じ「させ」ながら生きているんだろうな。

また、本作最大のテーマは「障害者と健常者の分断」。
病気や障害に対する偏見と差別は社会の至る所に蔓延っており、そのような感情を原因とした痛ましい事件も数多く起こっています。少し前にもTwitter上で「『努力』しない障害者」への批判とそれに対するたくさんの反論を見ました。
様々な形で現れる社会の断絶に対し、著者は敢えて強烈な言葉を投げかけます。曰く、「障害者は生きていてもいいのか?」と。

誰もが答えるはずです。「いいに決まっている」
しかし、それは恐らくこう問い返されるでしょう。「どうやって?」
こうなると途端にしどろもどろになってしまう。「どうやって?いやその……そりゃアレですよ、十分な福祉を受けるとか、なんかこう、社会全体で支援していくんですよ。……多分」
社会全体と言いつつ、その「社会」には自分自身も含まれているという意識が自分には欠けていることを思い知りました。

臨床心理学を専攻していた学生時代に障害者施設での仕事も経験し、双極性障害の当事者でもある著者の手による劇薬のような小説。自分の中に新しい視点の芽が生まれたように思います。

と、ここまでつらつらと駄文を綴ってきましたが、実はわたくし京子の最後の台詞の意味が全く解っておりません。
え???「悪」ってなに???結局どういうこと???
彼女の言葉について、これからも考え続けていかなければならないなあと思う次第です。

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2020年03月17日

Posted by ブクログ

読みながら考え、考えながら読んでも一体何が正解なのか結論が出ない難しさを孕んでいてもどかしい。

主人公・二階堂京子はダウン症候群の弟が笑われた事で同級生の紫音に異常とも思えるダメージを与える。
そしてそれが悪だとは思わない。

障害者は死んだ方が楽だと断言し殺人を犯す者もいる。
私にはそちらの方が健常者であるとは到底思えない。

障害者と健常者、正しさと悪、両者には大きな壁があるようで薄皮一枚程度の厚みしかない。

誰もが病気や事故でいつ障害を持つ事になるかも分からない。

自分の事として捉え想像力を鍛える事の重要性を感じた。

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2023年02月15日

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