【感想・ネタバレ】邂逅(かいこう)の森のレビュー

あらすじ

山の民「マタギ」に生まれた青年・松橋富治は、身分違いの恋が災いして秋田の山村を追われ、その波乱の人生がはじまる。何といっても圧倒されるのは、山のヌシ・巨大熊とマタギの壮絶な対決。そして抑えつけられた男女の交情の色濃さ。当時の狩猟文化はもちろんのこと、夜這い、遊郭、炭鉱、男色、不倫など、近代化しつつある大正年間の「裏日本史」としても楽しめる冒険時代小説です。長篇小説ならではの面白さに溢れた、第131回直木賞受賞作!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

近年のライトノベルでは「異世界転移モノ」が活況だそうで、本作もある意味で異世界転移モノといえる。
主人公は親に倣いマタギとして狩りに出始めた若者であったが、とある事件により故郷を追われ、同じ山でも鉱山という別世界に飛び込む羽目になった。
なんとか鉱夫として独り立ちし、弟分もできて落ち着いてきた頃、その弟分が休みの日に山に入り猟をしていることを知る。
主人公はマタギの世界ではほんの駆け出しであったが、装備も狩りもおぼつかない鉱夫たちからすれば「狩りの達人」となる。
このギャップにより「異世界に転移して無双」へ至るという展開がとても自然であり、その一方で「前奏が長い」みたいなテクノサウンドへの心無い批評みたいなことにもなる。
(個人的にはこれくらいの前置きがあってもいいと思うのだけど、実際にはいろいろと難しいのかもしれない)

東北地方の鉄道網の延伸がところどころで出てきて、これが自然と文明のせめぎあいのひとつの象徴として描かれている。
民俗史的な裏付けもかなり取材しているようで、当時の奔放な性愛についてもかなりストレートな描写がある。
特に妻となるイクに関しては、魔性の女が婚姻を経て良妻賢母へ変貌するあたり、ある種の神話を髣髴とさせる。

今年は「真田丸」や「シン・ゴジラ」、「この世界の片隅に」などの徹底的にリアリティを追求した作品が話題を呼んでいることもあって、こういう静かに、しかし懸命に生きていく人の話はもっと注目されてもいいのかも知れない。

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2016年11月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

直木賞アーンド山本周五郎賞受賞作です~。
大正時代の東北を舞台にした猟師マタギの生き様を描いた長編小説です。

いや~~~~~。
これは凄かった!!

最初読み始めたときは
「え~?猟師のはなし~?」てな感じでちょっと躊躇したのよ。
でも、それがどっこい。
こんなに奥の深い小説を読んだのは初めてです
かなり感動してて興奮してて、何から感想を述べていいのか分からない。

まず、驚いたのはマタギという仕事が、こんなにも神聖で先祖から仕来りや技、意志を代々受け継がれている仕事だとは思わなかった。ただ単に動物を殺して売りさばいてる仕事としてしか知恵がなかった自分を恥じました。
殺生な仕事だからこそ、そこには山の神様との関係が根強くあり、それを大切にとりもって仕事が出来るのだと思う。

そして、親子の絆と夫婦の絆。
親が子を思う気持ちほど大きいものはないし、愛し合った夫婦こそ絆の強いものはない。
村を追い出され何十年かぶりに帰郷した富治を見た富治の母親の姿。
子供のために身を削ってまで働いて娘を嫁に出した富治夫婦。
富治の初恋を成就させるために、自ら身を引こうとしたイク。
村の区長に言われ、なんとなく結婚してしまった富治とイクだったけど、長年連れ添った仲でいつの間にかお互いに大切な存在だと気づいた富治とイク。
富治がイクを探しまわって、最後に見つけた因縁のあるお店での再会。これには泣けました。
なーんかね、「ああ、夫婦っていいな~」って思っちゃった。

何度もクマを撮り、最後クマに足まで食べられながらも、最後はクマに助けれるところも感動。

そして、出てくる登場人物もみーんな味があって良い!
もうね~、1ページ1ページに読んでる意義があって、この一冊で人生を学べた感じがする。
もっともっと言いたいことがあるのに、何を言っていいかわからない。
大声で泣きたい心境です。
ほんと感動した。感動して泣きたい。

これは是非いろんな人に読んでもらいたい本です。

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2012年11月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本を広げると、大正三年とある。昔の話かぁ、しかもテーマがマタギって、どんだけとっつきにくいんだよ、と思いながら最初のペースは妙にゆっくり、読み返しながらなんとなーく世界観が分かりだす。
そう、舞台は東北。出だしは山形県の月山麓、肘折温泉とあるものだから、妙に親近感が沸き、会話も東北弁。そのまま読んでも理解できる(笑)。

「邂逅の森」は秋田県阿仁町打当のマタギ・松橋富治の生涯を描いた長編小説である。

一流のマタギの組に属し、だが、まだまだ一人前になっていない富治が今の生活を続けることができなくなる。
鉱夫になり、小太郎と出会う。そこで、小太郎が隠れて狩猟をする姿を目撃し、ここぞとばかりに小太郎にホンモノのマタギとは狩猟とはどういうものかを教える姿、そして、「見本」を見せるところなどは爽快な読み心地だった。

やはり、マタギの世界に戻ろうとした富治は小太郎の姉を嫁にもらい、17年の月日が流れる。娘を嫁に出した後の描写はあれど、娘に対しての描写が一切なかった。

さあ、ここからどんな展開が待っているか。本はまだ三分の一は残ってる。

予想通り出てきましたね。恋焦がれ、忘れることのできない愛しい女性・片岡文枝。久しぶりの再開にこれも予想通り、でもお互いいい歳だからないのかな、と思いながら押し倒し系(笑)。
難波イクの存在が当たり前だが家族となり、愛し続ける存在だってことが分かる部分は素敵だなと思った。

この小説から感じたものは、マタギという本能的な「狩」と近代において必要となった鉱夫との対照、そして富治のなんと男らしいこと。

現代の草食系男子に読んで欲しい一冊ではないだろうか。

浅田次郎氏は「本書は去勢された男たちのための、回復と覚醒の妙薬である。男とは本来どういう生き物なのかを、読者は知るだろう」と語っているそうである。

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2012年11月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マタギ×クマ。
っていう大好きなジャンルなので前から読んでみたかった。予想に反して一人の男の波瀾万丈の半生記で読み応えたっぷり。深夜に「ちょっとだけ読み進めておこうかな~」と思って開いたら、最後までやめられず朝になっていたくらい。
マタギ言葉とか風習とかの描写が細かくて、かなり綿密かつ専門的な調査の上で書かれた作品と思われます。それだけでも読んだ甲斐があった。あと、山での張りつめた空気がいい。東北出身の作家でないとこの空気は出せないと思う。
しかし気になるのはこの男、下半身で生きてるんじゃあ・・・という傾向がなきにしもあらずで。とくに後半。いや決して下品とか好色とかいうわけじゃないだけど、女に対する評価が「結局それ?」な感じで納得できなかったんだよなあ。女側からすればこれ以上勝手な男はおらんというか。文枝さんやイクさんみたいに出来た女ばっかりじゃないぞ。
ただそういう俗世のドロドロな人間ドラマを振り払うくらい山での彼は魅力的。最後のほうで再会したマタギの頭領さんが言う台詞も重みがあります。

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2012年06月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

骨太というか重厚というか、読後にいろんなこと考えさせる書物です。

時代は20世紀初頭、今から100年ほど前の東北地方。自然に翻弄されながらも自然に寄り添って生きるマタギの若者が主人公です。

失われた日本の風土の中で、因習に囚われ、過酷な運命に抗いながらもマタギであり続けようとした主人公富治の生き様は、現代の男性には稀少となってしまった獣性を感じさせながらも、一本芯の通った男気を見せてくれました。人としてどう生きていくのか?富治は絶えず問いかけながらも、獣を狩るマタギ仕事に己の答えを見出そうとしていたようでした。

序盤はマタギの狩猟について細かい描写がされており、冬山の寒さに凍えながら一緒にアオシシ(かもしか)やクマを狩る興奮に身体を熱くさせるほどでした。

中盤では運命に翻弄される富治の苦悩と、己の居場所を再びマタギに求め復帰するまでの道のりが描かれてます。一人の女に心奪われたことによって心ならずもマタギ仕事を絶たれ、村さえ追われ炭鉱夫として働き始める富治ですが、そこでの出会いがマタギとしての再スタートにつながっており、終盤に向けて富治が悟る(?)己の存在理由についても様々な伏線が張られているようでした。

全編を通して日本の山村の風習、因習、マタギの掟、狩猟などなど語られており、近代日本が帝国主義を突き進んでいった時代を、東北の山村視点で描かれていて、歴史視点でも楽しめる内容です。さらに主人公富治をめぐって二人の女性が登場しますが、性についての描写も多々あるものの、そこにはエロスを匂わせるものでなく人間の営みとしての性、生きる本能というか、男も女も理性でなく本能で感じたら交わる、というような、『おおらか』というか?個人的に感じました。ちょっと言葉にしずらいです。

終盤、マタギとして大成し壮年期の富治にも、自然の脅威とは別の脅威、戦争の道を進む社会、乱獲による獣の減少、そして過去から現れる女と、己の存在理由を揺るがす事由に直面していきます。マタギとして生きてきた彼はその答えを『山の神様』に求めようとし、クライマックスの『ヌシ』と呼ばれる巨大なクマとの一騎打ちへなだれ込みます。

ラストはとてもキツく感じました…しかしながら感じたことは、人間は生かされている!という自然や社会の厳しくも慈悲深い真理であると自分ながらの理解に至りました。

山本周五郎章、直木賞ダブル受賞の栄誉は納得の感動巨編でした。

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2012年08月18日

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