あらすじ
昭和18年、戦時下の日本。国家のために死ぬことを夢見る軍国少年・勇二が出会ったのは、歴史学者の娘・涼子。
日本が戦争に負けると言い放ち、自由奔放に振る舞う不謹慎な彼女が、大学生の兄の恋人だと知ったのは、学徒出陣が近付く頃だった…。
「どうして俺が生き残っちゃったんだろうな」
「生き残ることは罪じゃないでしょう」
自由が統制され、夢を見ることさえ叶わない社会で、少年少女はどこへたどりつくのか。
秘密の図書館、真夜中の帝都、出征の朝、西へ向かう夜汽車、真っ白な日の丸。
『平成くん、さようなら』の著者による書き下ろし青春小説!!
感情タグBEST3
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「他人の心がわからないというのは、人間に与えられた一番の贈り物かも知れないな(P193)」
戦時下の日本を描いた古市憲寿さんによる恋愛長編小説。古市さんの小説は全部読んでいて、これまではサブカルネタ満載の現代小説だったが、今作はサブカルネタは封印。戦時下の少年と少女の恋模様を描いた作品だが、ストーリが滅茶苦茶練られていて、最初と最後が美しく繋がっている。読んでいくうちに戦時下は今のコロナ禍になんとなく似ていると気付いた(だからあえてこのタイミングで出したのかな?)。これまでの古市さんの作品とは全く違うが、個人的には一番好き、なんか直木賞あたり取りそうな感じ。
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『好きって感情は魔物だからな。手懐け方を覚えておいて損はないぞ』
『学校で習うことなんて、常識が変われば役立たなくなるんだから。あらゆる知識は相対的なものだと思っておいたほうがいい』
『誰かの間違いを見つけて揶揄したり、糾弾するのは、とても簡単なのに気持ちいいの。知識なんて暗記さえすれば誰でも身につくでしょう。創造的才能のない人ほど、生半可な知識を楯に他人を批判する』
『幸福だから笑うわけではない。むしろ笑うから幸福なのだ』
『人間とは徹底的に好意に弱い、極めて単純な生き物』
『自分の思想を再確認して安心するような本を百冊読むよりも、常識を揺るがしてくれる本と一冊でも出会えたほうが価値がある』
『他人の心がわからないというのは、人間に与えられた一番の贈り物』
『誰かの自由に干渉できるのは、自分に害が及びそうな時だけ』
『解釈の違いを許容するというのは、戦いを避ける一つの知恵』
『お金の貸し借りと違って、暴力に貸し借りなんてない』
国家の為に死ぬのは本望、そう心から願う愛国者の少年・勇二。
魔女と呼ばれていた女の子・涼子。歴史学者の娘であり、長い黒髪に大きくて彫りの深い瞳に狐のような尖った鼻、まるでギリシャ石膏像を彷彿させる彼女に勇二は惹かれていく。
しかし、涼子は大好きな兄・優一と恋仲であった。
昭和18年、戦争下の日本。思想、自由が統制され、夢を見ることさえ叶わない社会。
少年少女はどこへたどりつくのか…
『あなたの知らない誰かが始めた戦争に、あなたの未来を決められていいはずがありません。かなたの未来を決められるのは、あなただけです』
『生き残ることは罪じゃない』
推しの著者・古市憲寿さんの最新本格青春小説。
この作品が先に発表され、芥川賞のノミネートされていたらもしかしたら…そう個人的に思います。
早くも2022年最高の作品に出会えた予感
Posted by ブクログ
今の世界情勢とつい照らし合わせずにはいられない。
戦時中の日本にたくさんあったであろう物語のひとつ。日本にもこんな時代があった。そして、戦時中であっても、コロナ禍であっても、そのどちらでなくても、人や世間というものはあまり変わらないのかもしれないな、と思った。
そこにちょっとだけがっかりしつつ、それでも涼子と勇二、そして優一の存在に明るい希望を感じながら読み進めた。
古市氏の小説は初めて。
表紙をめくった1ページ目で、読み進めていく先々で、人に対しての誠実さを感じた。
テーマとは裏腹にとても優しい物語だった。
そして驚いたのが参考文献の数。
物語に対して感じた優しさや誠実さは著者自身が持っているものが滲み出た結果なのかもしれない。
Posted by ブクログ
プロフィールによると作者は哲学者とある。
う~ん難しいのかな・・・
しかし話はわかりやすく、内容にもすんなり入っていける。
昭和18年、大学生の兄を持つ勇二は、国家のために命を捧げると公言する中学生。
ある日であった少女は、日本は戦争に負けると言い放ち、自由奔放に振る舞う。
反発しながらもいつしか惹かれていく勇二だが。
戦局は悪化し、自由は統制され、未来さえ見通せなくなり、
自分の向かうべき道もわからなくなり・・・
愛国精神に満ち溢れた若者目線で書かれた一風変わった反戦小説だが、これはそんな中で揺れ動く繊細な恋愛小説でもあると思う。
Posted by ブクログ
物語の構造が良いなと思った。
プロローグで始まり、物語が終わり、エピローグでプロローグに戻る。
しかし、小説を読み終わるとプロローグの同じ情景が違って見える。
そういう仕掛けのある構造は物語としてストンと落ちる。
話としても対照的な兄弟の物語。
終戦中、帝国男子の規範を目指す頭の固い弟勇二と、仏文科に進み自由な思考の持ち主の兄雄一。
その間にいるのは、やはり自由な思考を持つ女子、涼子。
戦争は進み、やがて雄一は学徒出陣の一員として航空機整備兵となる。
一方、非国民のレッテルを張られて村八分に置かれる涼子に対して、勇二は何もやましいことはないのに非難の目を誰かに向ける世間に対して義憤を抱く。
戦争という時代があった。
時代の流れは、常識も、思想も、世間も変える。
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悔しいけどこれも読み出したら止まらなくなった。戦時下の青春ラブストーリーって感じは確かにした。でも、なんか質感がしっくりこないのはなんやろ。CGアニメっぽいねんな。
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考え方が違っても、人は人を慈しむ事が出来る。
多様な考えを一歩引いた視点で包括するような物語だった。
そしてこの相互監視社会への真っ直ぐなメッセージでもあったと思う。
古市さんの哀しいような優しさが心に染みた。
Posted by ブクログ
古市さん渾身の一作だろう。既読の作品はどれもどこか無機質な感じがしたが、今作は大層エモーショナル。戦時中の青春恋愛小説。愛国心が非常に強く「お国の為なら喜んで死ぬ」という勇二。ある日勇二は美人で活発で大胆な涼子と知り合う。涼子は勇二の愛国心をことごとく否定し「日本は戦争負ける」と言い放つ。強く反発する勇二だが、涼子に心惹かれる気持ちは止まらない。戦争時代なので辛いシーンもあるにはあるが、悲壮感は控えめな感じがした。エピソードや人物にフィクション感は強いものの勇二も涼子も魅力的なので最後まで面白く読んだ。
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始めは戦中戦後の話では悲惨な事や食糧事情などの憂鬱な話ではないかと覚悟して読み始めたが途中からはニヤニヤ、ふふふと笑いながら最後はああ面白かった!となった。戦中戦後の体験の記憶が忘れられない小生としてはホッとした読後感だ!
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昭和18年の夏。アメリカによる戦争が起きてもおかしくない時代、中学生の勇二は同級生から、ある噂を聞く。公園の中に秘密の洞窟があり、そこに魔女がいるとのこと。現場に行ってみると、そこには魔女ではなく、歴史学者の娘・涼子がいた。段々と話していくうちに涼子は日本は戦争に負けると言い放つ。国家のためなら死んでもいいという精神をもつ勇二としては、それが気に食わなかったが、同時に愛情も感じるようになった。
でも、涼子には恋人がいた。それは勇二の兄だった。
もしも戦争がなかったら?そう思うと、自由や死など悔やむ箇所が多くありました。
古市さんの最新作ですが、いつも思うことが。それはテレビで見る古市さんの雰囲気と小説から放つ雰囲気が違うという印象があります。
たしかに理論的な表現をする文章もあるのですが、感受性豊かに書いているので、小説面ではいつも驚かされています。
昭和18年ということで、背景となる戦争の描写もあるのですが、基本的には学生達の青春を中心に描かれています。
時代に翻弄される登場人物達の正義や制限された空間での自由奔放さには青春を感じさせてくれました。いつの時代も、行動力は変わらないなと思いました。
ただ精神面としては、現代人から見れば、勇二という人物に対して異常だなと思いました。その時代にしてみれば、それが一般的であり、大半だと思いますが、今にしてみれば、考えられない考えばかりでした。
戦争という時代の環境が招く恐ろしさに、もしも自分がその時代に生きていたらと思うと、今の時代でよかったとも思ってしまいました。
そんな時代で生きる勇二達が、涼子と出会うことで、様々な体験をしていきます。「東京」という華々しい所へ行ったり、はたまた恋愛、労働、そして戦争などに直面していきます。若いからこその行動力や精神力が、青春小説として引き立たせてくれるので、時折爽やかさがありました。
恋愛面においては、表現が艶かしかったです。淡々と表現しているのではなく、ドキッとさせるようなエロさの表現があて、印象が強かったです。
今までの作品もそうですが、この作品でも死生観が描かれています。国家のためなら死ねる勇二が、様々な死の場面に遭遇します。最初はそれが誇りであると思っていたのですが、次第に気持ちが変化していきます。
やっぱり人の「存在」がなくなることに胸が痛い気持ちでした。死によって、周りの人達は悲しくなります。体験してみないと、なかなか考えを揺るがすことができません。
今も、そういったことが外国で起きています。何のために戦争をしているのか?もう一度原点に立ってほしいなと思いました。
Posted by ブクログ
この手の話にありがちな反戦!を強く推していなくて、ただただ恋愛小説として面白かった。
とは言え「…多くの奇妙で理不尽な史実を参考にしています。」とわざわざ謝辞で皮肉っているところが良い。
たまたまいまやっている朝ドラの「あんぱん」と時代が同じで、似た設定もあったので不思議な感覚で読み進んだ。
プロローグとエピローグがきちんと繋がっていて、しかも随分とロマンチック。
古市さんの作品好きだけど、読みながらご本人がどうしても思い浮かんでしまう笑笑。
戦争とか恋愛とかからいちばん遠い人のイメージなのに。
Posted by ブクログ
あの古市さんがどんな小説を書いているのかという興味のもと、読み始めたが最終的にタイトルと言いたいことの解離を感じないではいられなかった。
私に伝わってきたのはこういう少女が古市さんの理想なのかなあ?と思うだけだ。
社会背景は現実的であるが、この少女と主人公の家族だけは浮世離れしていた。
それから古市さんが前に言っていた「キスは唾液の交換だ」との発言がどうしても頭から離れなかった。
そう語っていた人がなんでこういう小説を書いたのか甚だ疑問だ。
Posted by ブクログ
戦争というよりは、戦時下の日本での青春物語。
愛国心に満ち満ちた軍国主義の少年・勇二が、兄の彼女でもある自由思想の涼子と出会ってすこしずつ変わっていく。
戦争は軍事侵攻そのものも怖いが、影響を受けた人間をおぞましいモンスターに変貌させてしまうのが恐ろしい。
「大人になったら」、と若者が未来を語ってはいけない時代があったなんて信じられない。未来はいつだって平和で明るくあるべきだ。
参考文献の量がものすごかった。
Posted by ブクログ
今なら当たり前のように思い描く将来大人になったらやりたい事や、海外のどこそこに旅行に行きたい…
美味しいものを食べてみたい…
そんは素朴な願いすら統制されて出来ない時代が、ついこの間まであったという事実。
自分は御国の為に身を捧げるから、大人まで生きることはないと当たり前のように小中学の子が毎日思って過ごす。
そんな世の中に希望なんてないよな…と感じながら読んでいた。
どんな小さな夢でもいいから自由に思い描いていられる世の中がいい。
統制だけ厳しくして、金持ちの上の官僚とかだけは酒に女に豪勢な食事や、金に溺れて暮らす。
そう言う未来にならない事を祈るばかり。