あらすじ
没落した幕臣の娘が、15歳で神田の湯葉商の養女となり、養父を助けその半生を捧げる名作「湯葉」。すぐれた陶器や陶芸家に魅せられる父と娘の、微妙な心の揺曳を抒情的に描く「青磁砧」(女流文学賞受賞作)。男に執着する娼婦上りの女の業に迫る「洲崎パラダイス」。「青果の市」で芥川賞を受賞した著者の、中期を代表する3篇を収録。
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描写に唸る。
湯葉、洲崎パラダイス、青磁砧を収録。中でも青磁砧が一番好きだった。群青の湖もそうだったが、芸術が生まれる場所の描写がとてもいい。本作では高能の釜焚きのシーンはが出色の出来で、思わず乗り出してしまうほどの臨場感があった。やきものに取り憑かれた父・隆吉の背を見て育った娘・須恵子は、やがて自身も父のあとを追っていく。そんな娘が嬉しいような心配なような隆吉。天才・高能が生み出す青磁の魅力に夢中になっていく須恵子。彼女が引き寄せられているのは青磁なのか、それとも高能自身なのか。妻子のある高能に近づきすぎている娘を心配する気持ちと、何にも邪魔されず陶芸だけに打ち込んでもらいたいと高能を気遣う気持ち。須恵子に想いを寄せる大学の美術史助手・小堀に近づけようとしたり、そのくせ2人が親しげにしていると面白くない気持ちになったり。自分の所有であると疑わなかった娘をやがて手放さなければならない現実を隆吉はなかなか受け入れられない。また須恵子も、父の元を飛び出したいと思いながら、父の眼鏡に叶う相手と一緒になりたいと思ったりする、そんな父娘の心中が繊細に綴られ、読ませる。ラストの裏寂しさも印象的である。