あらすじ
ロングセラー「さくら」作者のデビュー作。
27才スナック勤務の「あたし」と、おなかにへたくそな地図を彫っている3才年下のダメ学生・カザマくんは同棲して4か月。ゆったりとしたリズムにどっぷりと浸かった生活をしていた「あたし」は、ある日、妊娠していることに気づく。そして、気がつけば、長野のペンションへの短期バイトを決め、そのバイト先からも逃げ出し、深夜、山のなかで大の字になって寝っころがってしまう。そのとき、「あたし」の視野に、あるものが飛び込んでくる。
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Posted by ブクログ
大胆なのか、臆病なのかわからない主人公だな、と思って読み進めてたけど、どっちかじゃなくてどっちもなんだって後半でわかった。
いつも人の顔色をうかがって、心の動きにとても敏感で、ちっちゃいネズミくらい臆病なくせして、時々、一瞬の感情の波に、すべてを任せきってしまうことがある。
窮鼠猫を噛む、違う。面倒くさいというのも違う。
ただ流れに捨て鉢に身を任せるのではなくて、なんてゆうか、一度起こった感情の波を、より大きな波へ変化されるのだ。
Posted by ブクログ
あおいも良かったけど、サムの方が好き。社会からはぐれかけた、属することができない人たちの集まりなので、そのコミュニティでさえ曖昧な形だけど、似た者同士特有の居心地の良さで成り立っている。なんでここにいるんだろう?とみんなから思われていたサムが、実は一番そのコミュニティに自分の居場所を求めていた。仲間内では誰より、社会的に、また精神的に自立しているように見えていたサムも、結局は社会から孤立した存在だったということが最後にわかる。そして、そのことに彼が孤独や劣等感を感じていたということも。だからこそサムは、馴染めない世の中も、そこに加われない自分自身をも肯定も否定もしない友達たちに憧れ、仲間になりたかったんだね。でも仲間という概念自体ないグループなのでサムは結局満たされることはないまましんでしまったっていう切ない話だった。
Posted by ブクログ
あおい
あたし
二十七歳。さっちゃん。映画配給会社でアルバイトをしている。夜はスナックでアルバイトをしている。
カザマ
二十四歳。一浪して大学に入り、二回留年している。
雪
小さな映画会社で広報をしている。カザマを紹介した。二十九歳。
ママ
スナックのママ。
ミキ
スナックでアルバイトをしている。三十歳。
森
スナックの客。一ヶ月に一度か二度、ふらりとやってくる三十すぎくらいの男。
みいちゃん
風見瑞穂。スナックの近くの本屋で働いていた。辞書担当。
サムのこと
スミ
角。僕らの一つ年上。
モモ
桃子。
キム
金。
ハス
蓮見。キムと恋人同士。
僕
有本。アリ。
サム
伊藤剛。ウェブデザイナー。トラックにはねられて死んだ。
サムの兄
治。
空心町深夜2時
やっちゃん
うち
Posted by ブクログ
西加奈子のデビュー作。表題作「あおい」の他、「サムのこと」「空心町深夜2時」の短編を収録。
・・・
西さんの恋愛ものは難しい。自分の常識に合わない女の子が大概主人公。
裏表紙を見ると、27歳、スナック勤務、三歳年下の駄目学生・カザマ君と四カ月前から同棲し、彼の子供を身ごもる、とあります。
友達ならば面白いんだろうなあとか感じます。でも、私の読み方は自分だったり近しい人を投影して読むタイプ。こういうのが自分の嫁だったり娘だったりしたら・・・それは困りますわ笑。
・・・
散々ウームと(やや否定めに)唸りつつ、でそれでも読んでしまう、西さんの作品。
ふと考えるのは、自分は一体何に惹かれるのか、ということ。
山崎ナオコーラさんが書いている解説にその答えが。
「率直」「みたまんま」。
これです。
「あおい」にせよ「サムのこと」にせよ、登場人物がどうにも憎めない。でそれはやっぱりどの人物も「率直」なんです。私はこういう、思ったことをそのまま伝える人に親近感を感じるみたいです。
もちろん、伝えることには非常な技術が必要であり、その言語力だけは西加奈子レベルでありますからね笑 この言葉のセンス、これが私にとっての西さんの一番の魅力なのかもしれません。
・・・
ということで西さんのデビュー作でした。
恋愛小説が好きな方、純文学が好きな方、西さんが好きな方にはお勧めできる作品です。
因みに私は「サムのこと」が面白いなあと思いました。友人の葬式で初めてその友人の素顔を知るという話です。