あらすじ
原油価格はなぜ激しく変動するのか?
米中関係はどうなるのか?
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
地政学リスクから第一人者が読み解く『ウォール・ストリート・ジャーナル』ベストセラー
エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける国際政治の地図を読み解く衝撃の書。最新情報が満載!
日本人が知らない資源戦争の裏側とは?
米国vsロシア・中国の新冷戦、エネルギー転換の未来を描く!
[米国]「シェール革命」で中東と距離を置く
[ロシア]市場を求めて中国と急接近
[中国]「一帯一路」で中東・欧州にも影響大
[中東]石油需要枯渇への危機感が増す
[自動車]石油の地位を脅かす自動運転車と電気自動車
[気候変動]再生可能エネルギーや政策の役割の比重が増大
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
いやー、難しい…。哲学系以外で理解に時間をかけたのはホント久々かも。まぁその難しさが面白いわけなんだけど。
エネルギーを生み出すのに必要な石油/天然ガスが大国アメリカから採れるようになった「シェール革命」から本書は始まる。ロシアやサウジアラビアからの輸入を必要としなくなる上、色々な国へエネルギー源を輸出することが出来るというのは、各国の関係性を変えるのに十分だったわけだ。
ロシアや中国、中東の危うさも同様に、このエネルギー源に由来している部分もある。エネルギー源は金になるからこそ、それを手に入れようと誰もが争うのだな。
一方でコロナや再生可能エネルギーにより、石油/天然ガスの価値というものも変わってきている。身近な例で言えば電気自動車など。石油/天然ガスの価値が下がれば、それによって成り立っていた国々は方針を改めざるを得なくなる(サウジアラビアなどがいい例だ)。あるいは、レアアースがそういった石油/天然ガスの枠に収まっていくのかもしれない。
エネルギー1つとっても世界情勢全体を俯瞰しなければならず、「地政学」という一言がいかに汎ゆる意味を孕んでいるかを示してくれる超良書。難しいしまとめきれないんだけど、非常に納得感のある一冊でした。オススメです。
Posted by ブクログ
500ページを超える読み応えのある本。この一冊で現在のエネルギー資源と世界の勢力地図を総覧しようとしている。近年、エネルギーと地政学にまつわる世界地図がどのように塗り替えられたかを、石油・天然ガスの主要な生産あるいは消費国・地域である米国、ロシア、中国、中東と、エネルギー問題に関する二つのテーマ、電気自動車、気候変動問題を中心に詳細に描き出している。
米国で2000年代初めにシェールオイル、シェールガスが採掘され、増産が軌道に乗ると、世界的な政治・経済のバランスが大きく変化した。経済的には、2008年のサブプライムローンによる金融危機で疲弊した米国の経済が復活した。安価な石油が生産できることで産業が米国に戻ってきた。しかしもっと大きな変化は、米国が石油の輸入国から輸出国に変わったことであり、それは国際政治のバランスを大きく変えるものであった。1970年代のオイルショックからイラン革命までの過程にみられるように米国は中東との関係に頭を悩ませてきた。その理由の一つは、石油の安定供給のためであった。しかし「シェール革命」によってその懸念は後退し、国際情勢に対して「強硬策に打って出られる余地」を作り出した。中東に対する関与のあり方の変化や、ロシア・中国に対する強硬策などは、その背景にシェール革命がある。
ロシアは世界の三大産油国の1つに数えられる。石油・天然ガスはロシアの主要産業であると同時に、国際戦略上の武器でもある。ロシアを世界の超大国として復活させるというプーチン大統領の目論見を実現するために最大限活用されている。ノルド・ストリーム建設をめぐるヨーロッパ各国との綱引き、石油・天然ガス供給を求める中国への接近。ウクライナ侵攻後のロシアが欧米からの経済制裁にもかかわらず、持ちこたえているのは豊富な石油・天然ガス資源があるからだ。
中国は米国とともに世界を2分する大国となった。米中両国で世界のGDPの約40%、軍事費の約50%を占めている。為替レートで算出されたGDPで比べれば、米国は中国経済より大きいが、購買力平価で計算した場合は中国が世界最大になっている。
中国の「一帯一路」構想はアジア、ユーラシア、その先にまで広がる経済圏を形成し、世界経済の中心に中国を据えようとする。その目的は、中国製品のための市場と、必要なエネルギーや原材料を確保することにある。しかし一帯一路はどこまで経済的な企てなのかはわからない。阿片戦争以来の「国辱の百年」の克服を唱えており、国際秩序の中で勢力を増し、「中華帝国」を復興しようとしているようにも見える。領海については、東シナ海及び南シナ海のほとんどは中国固有の領海であると主張しており、その根拠は1936年の地図に描かれた「九段線」に基づいている。しかもその海は公海ではなく、外国の海軍は中国からの許可なく航行してはならないという。しかしこの主張は、国連海洋法条約にもとづく「航行の自由」に反している。西側の「普遍的価値」への挑戦でもある。今や米中間の相互依存関係は崩れ、経済と安全保障の問題をめぐる対立、米中経済のデカップリング論、軍拡競争となっている。
オスマン帝国の支配下であった中東に国境線を引いたのは、1916年のサイクス・ピコ協定であったが、それはイギリスとフランスの勢力争いの賜物であった。以来、中東ではイスラムの権威を復活し、カリフ制による支配を取り戻す運動がたびたび起こってきた。エジプトのムスリム同胞団にはじまり、アルカイダそしてISISにまでつながる。2014年、シリアからイラクに進撃したISISは「サイクス・ピコ協定の終焉」を高らかに謳った。中東の国境線はもとより不安定であるが、イスラム教内のスンニ派とシーア派の覇権争いによって各国の外交、内政が複雑化している。
20世紀以降中東各地で発見された石油と天然ガスは富と権力の基であり、砂漠の国々の経済を支える重要な資金源である。しかしやがて訪れるであろう「石油需要のピーク」を前にして、新たな産業の模索も始まっている。「シェール革命」によって米国の中東への依存度が減り、政策に変化が起きたことは、中東各国を疑心暗鬼にさせている。今までのような米国一辺倒ではなく、ロシア、中国への接近を図る動きも見られる。
電気自動車、「移動のサービス化」(Mobility as a Service : Maas)、自動運転は世界の石油産業と自動車産業に大きな影響を及ぼし始めている。乗用車とライトトラックは、世界の石油需要の35%を占める。電気自動車の増加は、石油需要に直接の影響をもつ。ウーバーのような配車サービスは、自動車は所有するものから、利用するだけのものに変えていく。自動運転技術は、自動車をハードウェアからソフトウェアに変え、自動車産業に大きなインパクトを与えている。そして今後ドライバーの雇用にも大きな影響を与えるかもしれない。
2015年11月に開催されたパリ気候会議でパリ協定が採択され、今世紀中の気温上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑え、できる限り1.5度以内に抑えることを目指すため、各国が行動することが取り決められた。「パリ前」と「パリ後」は大きな時代区分となった。「エネルギー転換」へと大きく舵を切ることとなったが、しかしそれは人間の活動からいっさい炭素を排出しない「炭素ゼロのエネルギー」なのか、それとも「実質炭素ゼロ」のシステム、つまり炭素を吸収するメカニズムによって排出量を相殺するシステムなのか。どのように達成するのかについてのコンセンサスはまだない。「再生可能エネルギー」開発のため、太陽光と風量による発電は急ピッチに進められている。しかし太陽光や風力にしても鉱物資源や土地の確保が必要であり、それらの獲得のために大国は覇権争いを繰り広げる。新しいエネルギー構成おいても地政学が展開されるのは、今と変わらない。
この本の最後は、米中対立の焦点の一つである南シナ海について触れて終わっている。普遍的な法秩序と民主主義を標榜する日本としては、米国とともに中国・ロシアと対峙していくべきなのであろうが、エネルギー資源の乏しい日本がロシアと完全に袂を分かつことができるのか、経済大国となった中国とデカップリングしても日本の経済は持ちこたえるのか。答えが見つからない。
米中対立、欧米対ロシア、ヨーロッパ世界対イスラム世界、世界各地で起こる目まぐるしい勢力争い。気候変動(今や気候危機)を含む地球規模の課題が山積する中で、こんな争いごとをしている場合なのだろうか?!
Posted by ブクログ
この本には、地政学とエネルギー安全保障の変化によって、世界がどうなっていくかが書かれている。
舞台となるのは、4つの国と地域。アメリカ、ロシア、中国、中東だ。エネルギー安全保障において、現状最も重要なのは、石油と天然ガスの確保である。アメリカでのシェールガスとシェールオイルの発見は世界のバランスを大きく変えてしまった。
そして、今後のエネルギー安全保障の鍵となるのが気候変動への対策(カーボンニュートラル)になる。めちゃくちゃとも思えるくらい高い目標が設定されているが、これを達成させるための3つのキーワードがある。1つ目が炭素回収、2つ目が水素、3つ目がバッテリーだ。この3つの技術革新が求められる。
この本の原書の発売は2020年だったので、少し情報が古い。今の世界情勢を知ったら、もっと違った考察が出てくるのかもしれない。
Posted by ブクログ
エネルギーと地政学について。大部だがテーマごとに区切られており読みやすい。
・供給者として、OPECはもはや重要ではない。産油国としては米国が一位、次いでロシア、サウジの順番になっており、これがビッグスリー。中東はその莫大な埋蔵量と生産量の調節が可能なため、輸入国にとっては今後の重要。
米国ーシェール革命の影響
ロシアーガスのパイプラインを通じた欧州との関係
中東ーイラン(シーア派)とサウジ(スンニ派)の盟主争い
というのが3つの柱。
また、これまで見込みがないと考えられていた東地中海でもイスラエル領で巨大なガス田が発見され、今ではイスラエルもガスの輸出国となっているなどエネルギー資源の発見により今後も地政学的な影響があちこちで起こりうる
・需要家としては中国の話と欧州が少し出るぐらい。日本はもはや世界の中での存在感が無視できるレベルになっているのを実感させられる。中国は産油国としても日量380万バレルあり、世界第8位。しかし需要がこれをはるかに上回っており、輸入量は世界の総需要の75%を締めている。