あらすじ
女になりたいのではない、「私」でありたい――ゆるやかな絶望を生きる男が人生で唯一望んだのは、美しくなることだった。平成生まれ初の芥川賞作家、鮮烈のデビュー作。第56回文藝賞受賞作。
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Posted by ブクログ
追記
彼はただ美しくなりたかった。だけどそれを性癖だと勘違いされ、女だと勘違いされた。
うまくいかない、なんかちがう。
でも確かにメイクは崩れているか、確かに手は汚れているか、そう自分を省みる。
この不自然さが、彼特有に感じる。
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ほう、そして改良。
スピードを上げたまま終わり、タイトルを見て思った。改"良"か。"良"で良かった、その逆でなくて。
整理しよう。
幼少期、友人に性器を触られ触らせられた。
大学生になり、女装を好み、女の子を買って家に呼ぶ生活をしている。
そして最後。
バヤシコに言われた自分自身のことについて、驚きつつも納得し、大学生になった今、近い道を歩んでいる。しかし、性の対象は女性で、自分の女装を誰かに認めてほしいと思っている。
しかしその想いは叶わず、カオリには勘違いをされる。そこで思い出したつくねの元へ向かうが途中で事故に遭う。
なぜつくねに会おうとしたのか、私はここが引っ掛かる。これっきりの関係でないとわかっていたのに、なぜこの時につくねに会いに行くのだ。
また、つくねのことを散々に思っているのに、相手をしてもらおうと本気で思っているのが引っ掛かる。遠野さんの作品にはこのような男性の様子が描かれるように思う。そこまでも、誰でも、どこでも考えているのか?考えているだけでなく準備もして、タイミングを伺っている。こっちが少しでもその気っぽいことをしたら都合の良いように解釈をしかねない。
ふーん、そんなものか。そうなのか、?
Posted by ブクログ
ものすごいものを読んだと思った。
文庫本を買って2年積んでいたけど、
日帰り旅行の際に
荷物が多くならないよう薄くてちょうどいいと
思ってもってきて新幹線で
読み始めたら止まらなかった。
性描写が多くて、それが全く主人公の幸せに繋がっていなくて怖かった。
凄惨な場面では主人公はいつも被害者だったけど、
女性といるときの自分の加害性には無頓着で
それも怖かった。
ストーカーのような存在に怯える女友達に
今日は一緒にいようと言って部屋に上がり込む
図々しさ、
使うかわからないけど、とコンドームを買う様子に
腹が立った。
それでいて自分が被害者の時は被害者然としていて
多様性ってこういうことなんだと思った。
こういった考えの違いの人も、
いるよねと受け入れる。
こちらに害がなければ私はよいと思うけど、
女友達にとっては一時的に脅威だったと思う。
一つわからなかったことは、
最終的に主人公に性行為を求められなかったことが
女友達にとって良かったかどうか。
もし好意を抱いていて性行為をしてほしいと思っていたのにしてもらえなかったら、
女として魅力がないのかと悲しい思いをしていただろうが、逆にホッとしただろうか。
これは作者にはわからないが、主人公は
自分が加害者になる可能性を全く考えていなくて、
腹立たしかった。私はこいつを好きになれないと思ったし、関わらないでほしいと思った。
どうか私の知らないところで、
元気に生きていてほしいなと思った。
Posted by ブクログ
人はそれぞれに描き出したルールを持つ。それを自分自身や相手に強制することで納得させ、日々を送る。世の中には強制させられたらそれを受け入れてしまう人がいる。(私自身がそうであるように)これは社会的に問題視されるルッキズムや”普通”に対する考えにも通ずるところがある。世間一般的に言われる”普通は”という思想は人によって異なることがある。それを理解していながらも私たちはその普通を知らないうちに強制していたり受け入れてしまっていたりする。だからこそ、どこに自分があるのかが分からなくなってしまうのだと思う。 するべきはまず、自分の”本当”を知り、改良していくことなのかもしれない。
Posted by ブクログ
短くて、話も淡々と進んでいくため一気読みしてしまった。とても面白かった。以前、『破局』を読んだがそれと同じようにですます調で話が進んでいったため、主人公の実際の喋り方とかなり異なり、すこし違和感を覚え
た。
つくねの「ブスじゃなかったらする必要なかったんじゃないかって」という言葉は重く響いた。私も日本で暮らしていてルッキズムに支配された国だと感じたことは何度かある。ブスだということが、悪であるかのように思えるこの国は異常だと感じた。
最後、主人公が強姦まがいのことをされるシーンは、グロテスクだった。なぜあのナンパしてきた男はあそこまで怒っていたのかもわからないし、執着したのかもわからなかった。
Posted by ブクログ
めくるページは決して軽くはない。
気持ちは晴れやかになるどころか反対にどんより重くなるばかりで、主人公が凄惨なシチュエーションに陥るあたりからは特に読み進めるのが、しんどい。
それは、描写があまりに直截的であり、剥き出しに過ぎるから、ともちろん言えるのだが、決してそれだけでなく、人により濃淡こそあれ、読者それぞれが"我が事"として自らを重ね合わせることになるからだ。
自分の人生とはまったく関係がない、接点などなさそうな物語に見えたとしても、必ずどこかに自身の生にフックする要素が潜んでいる。
そして心に引っ掛かってくるその何かは、読む人にとって決してポジティヴなものではなく、どちらかと言えば思い出したくないもの、積極的に他人に明かしたくはないものであるから、読んでいて苦しくなる、そんな普遍性を持った作品である。
答えは既に出ているので後出しじゃんけんになるが、このデビュー作をしたためた小説家は例えば遠からず芥川賞などを取って広くその文学性が評価されるだろう…と言いたくもなる。
文庫巻末に収められた平野啓一郎氏の解説がまた名文であり、読者が漠と感じていたであろう主人公のパーソナリティに対する印象を言語化して明瞭に説明している。
深く納得。
Posted by ブクログ
美しくなりたい。そして、その美しさを他人に認められたい。
そう願っているだけなのに、男性であるというだけで理解されず、虐げられる理不尽さが悲しかった。
つくねの存在が彼の救いになることを願わずにはいられない。
Posted by ブクログ
メタ認知度が高い私にとって共感の嵐でしたが、背景描写が丁寧で細かいせいか、暴力・性の場面が生々しく超刺激的でリアルで気持ち悪かった。
性的場面から始まり、暴力によって終わる。
作品名の「改良」は本当に正しかったのかどうか、疑う内容でもあった。
主人公の女装をする趣味に対しては、馬鹿にしたり卑下するつもりはないが、彼の性に対する考え方は愚かで自己中で異常なほど変態でシンプルにキモイ人間だと思った。だから最終的に暴力を振るわれても自業自得だと思ってしまった(性格悪くてすみません)。
終わり方も少し胸糞悪く、先が気になるけど、主人公の性に対する考え方が改良されなきゃ読むのはきついだろう。
Posted by ブクログ
性的嗜好は女性なのだが、美しなりたいがために、女装を趣味にしている主人公。
性癖が捻じ曲がってるとかそういうことではない。ただ、そうやって捉えられてしまうジレンマをラストに暴力的なシーンと共に描かれている。自分が今まで抱えていた偏見を痛々しい気持ちと共に改めるきっかけになった。
そして、綺麗な容姿への憧れに対する心理を主人公の友達が述べるシーンはハッとさせられて虚無感を感じてしまった。
Posted by ブクログ
芥川賞作家のデビュー作。
直前に同著「破局」を読んだからか、ある意味でテイストの不変さにびっくり。よくもまあここまで同様の文体で、書き切れるもんだと感心。
よく言えばオリジナリティが確立されてて、悪く言えば驚きに欠ける。
あらすじは女装を趣味とする主人公の日常。幼少期になし崩し的に同性から性的な虐めのようなものを受け、それとなく歪み、醜形に対して嫌悪を抱く男の物語。最終的にはまた同性からレイプされるのだから救いもない。
個人的には風俗嬢へクレームの電話を入れるシーンが印象的。誰もが普段はまともな部類であるのに、何かの拍子でタガが外れるかの如く、狂気に満ちるというところがよく描かれている。