【感想・ネタバレ】それでも選挙に行く理由のレビュー

あらすじ

選挙とは「紙でできた石つぶて」である。

選挙は、民主主義という統治形態において必要不可欠な制度である。しかし一般市民にとっては、選挙で選ばれた政治家や政府、さらにはそれらのもとで立案・実施される政策に失望することが日常茶飯となっている。
本書では、選挙の思想的背景、歴史的な発展経緯、世界各国での選挙政治の比較などを通じて、なぜ選挙が落胆につながるのかが明らかにされる。
政治学研究の蓄積が示すところによれば、選挙は、国民の多くが望ましいと思う政策をもたらすことはほとんどなく、経済成長や経済格差の是正にも効果がなく、また、有権者が政府を効果的にコントロールするうえでも役に立たない。
それでも選挙は、ある程度競合的に行なわれた場合、争いごとを平和裡に解決するという役割を持つがゆえに重要である。
著者のプシェヴォスキは、長年にわたり選挙および民主主義に関する実証研究を世界的に牽引してきた、比較政治学の重鎮だ。
さまざまな理想論を排除し、選挙の本質は暴力をともなう紛争や対立を回避するところにあるという本書の結論は、落胆する多くの市民を励ますに違いない。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

ネタバレ

わずか二月の間に、注目を集めた三つの選挙(米大統領選含む)が終わったところで、この興味深いタイトルの本に手が伸びました。

原題は「Why Bother with Elections?」で、直訳すると「なんでわざわざ面倒な投票に行くのか」って感じでしょうか。
著者は、選挙とは社会における紛争や対立を暴力ではなく平和裡に解決する手段、として、そこに選挙の価値と本質を見出し、投票用紙を「紙でできた石つぶて」と表現しています。

他方、選挙がこのような暴力を抑制するための装置として機能するためには、「選挙の賭け金が高すぎないこと」、すなわち選挙に負けることにあまり大した意味がなく、数年後にまた勝てるチャンスがあることだとも論じています。
選挙で勝った側と負けた側の差が大きすぎる、つまり、その政策や思想などの違いがあまりにも大きいと、負けた側(支持者含む)への影響やダメージも大きくなることから、結果として暴力的な対立にエスカレートしていく、という事態にもつながる可能性があるということなんですね。

選挙とは、期待と失望が混在する現象だが、競合的、自由、公正である限り、流血なしに紛争を解決するルールだ、ということが、その本質だということのようです。

0
2024年11月24日

Posted by ブクログ

誰がどのようにして統治するかを選択する方法として選挙を評価すべきであるとはどのようなことか、選挙の長所、短所、限界について考察がなされている。

ブレグジット、トランプ当選、イタリア国民投票の失敗を受け、近年では民主主義に対する危機感が強まっており、結局のところ選挙に意味はあるのか?と思いがちになる。もちろん選挙は最大公約数的にしか機能せず、全てを解決するのは不可能ではあるが、紛争を平和裡に解決することに一役買っている。よって期待しすぎてもならなければ、絶望する必要もない。選挙とは「紙でできた石つぶて」なのである。

メモ:
p.71
投票日に起こることは、長期にわたる説得のプロセスの集大成でわるだけでなく、多くの場合、操作と抑圧のプロセスの集大成なのである。

p.122
多様な選好が存在する社会において、特定の決定を「合理的」として選びとることのできる唯一の方法は、結果に対する人々の不満を最小化することである。

0
2022年04月03日

Posted by ブクログ

本書の出版とシンクロするように行われた2021年衆議院選の投票率は55.93%。前回は上回りましたが、戦後3番目の低い水準にとどまったとのこと。野党立民は「政権交代」を掲げて盛り上げようとしていましたが不発でしたね。逆に共産党との連携が逆目にでたのか、ダメージ大きかったようです。まあ、与野党とも「分配」をキーワードにしている時点で論点同じになっちゃ感じもします。というように選挙で社会はダイナミックに変わるものではない、とクールに分析する本でした。「私たちが選挙を評価するのは、一人ひとりが何をするにも自由だという、私たちが本来望むものの次に良いものだからである。私たちは集団として生活する必要があり、そのためには統治されなければならない。誰もが、やりたくないことをやれと命令されたり、やりたいことの実行を禁じられるのは好きではないが、それでも私たちは統治されなければならない。そして、すべての人が同時に統治者にはなれないので、せめてもの次善の策は、誰によってどのように統治されるかを選択することができ、好ましくない政府を排除する権利を保有することなのである。これが、選挙が可能にすることである。」まるで、チャーチルの「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」みたいな言い方です。なので、制度としての善し悪しではなく、選挙をどう使っていくか、の問題を考えるにはいいテキストだと思いました。コロナ禍は強い指導者を呼び、素早い意思決定への憧れを呼び込んでいますが、この面倒くさい仕組みで変化を作っていくことが出来るのかどうか、は大切にしたいと思いました。実は今回の衆議院選の18歳19歳の投票率はアップしたというニュースもあって、そこらへんに光を見いだしたいです。

0
2021年11月21日

Posted by ブクログ

選挙とは何か、どのような歴史を辿って今に至るのか、そして選挙の効用は何かということが分かりやすくまとまっている。
我々は自ら支配することはできないが、支配する者を選ぶことができる。選挙権の拡大と私有財産の保護とのせめぎ合い。フィクションが現実を形成する、選挙もフィクション。選挙は独裁国家でのお飾りなものですら権力者にとって脅威となりうる。現職にある者が有利な理由。平和的な紛争処理としての選挙、多数派に純粋な力だけで考えた場合は少数派は勝てない。

0
2022年02月05日

Posted by ブクログ

<感想>思想的な議論もあれば統計データに基づく議論もあり、政治学という分野の議論の作法が一冊でよく分かる内容になっていると思う。学部の授業の参考書として推薦できるのでは。

<目次> 第1章「序論」第I部「選挙の機能」第2章「政府を選ぶということ」第3章「所有権の保護」第4章「与党にとどまるための攻防」第5章「第I部の結論 選挙の本質とは」第II部「選挙に何を期待できるのか」第6章「第II部への序論」第7章「合理性」第8章「代表、アカウンタビリティ、政府のコントロール」第9章「経済パフォーマンス」第10章「経済的・社会的な平等」第11章「平和的な紛争処理」第12章「結論」

0
2022年01月22日

Posted by ブクログ

社会的紛争を暴力によってではなく、自由かつ平和に処理するための手段として、選挙がどのように機能しているのか、市民は選挙に何を期待できるのかを、民主主義の理念に照らし合わせて考察する本。80歳を超えた碩学による選挙論の総括といった趣もある本だが、選挙という手段の有益さ(暴力の回避)とともに、所得構造の改変につながらないという限界も鋭く指摘しており、選挙から得られるもの・得られないものを冷徹に考察している。またテーゼを裏付ける様々な事例も皮肉の効いたものが多く、畑違いの人間からしても非常に面白い。

0
2022年01月22日

Posted by ブクログ

選挙される人及び選挙管理委員に読んでほしい本
筆者の主張は納得できる。
選挙の最大の価値は、社会のあらゆる対立を暴力に頼ることなく自由と平和のうちに処理できること。
重要な前提条件は、現職やその支持者が選挙で負けることに大した意味合いがないこと、つまり、選挙の「賭け金」が高すぎないこと。負けることの損失が大きいと暴動が起きる。誰が当選したかより、激しく分断された社会においても平和的に処理できるかどうかが最も重要なんだ。

0
2021年12月05日

「社会・政治」ランキング