あらすじ
こんなに短くて、こんなに面白い!怖い!深い!
多才の人気作家・新田次郎が自ら選んだ、初期の傑作短編ミステリー15篇
夫を山へ行かせたくない妻が登山靴を隠した。その恐ろしい結末は(山靴)。
少年をひき逃げしたあげく、自首もできずにうろたえる青年が自殺を思い立ち山に入る。
そこで遭難した中学生に出会い、運命の歯車が回り始める(山が見ていた)。
冒頭からラストまで、切れ味鋭く人間の業をえぐり出す傑作ミステリー集。
※この電子書籍は1976年10月に光文社より刊行された単行本をもとに2021年12月に新装版化した文春文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
新田次郎『山が見ていた』文春文庫。
15編を収録した新田次郎の初期のミステリー短編集。大昔に読んだ記憶があるが、新装版が刊行されたので再読。松本清張の短編にも似た風合いの短編が目立つが、ミステリーとしての切れ味は松本清張ほどではない。
新田次郎の小説は、ラジオドラマ『アラスカ物語』や映画『八甲田山』を観たのを契機に少しずつ読み始めた。その後は山岳小説の『強力伝』『孤高の人』なども読むようになった。本作もその流れで読んだことは覚えているが、細かい内容まで記憶していなかった。
『山靴』。趣味と家庭の両天秤に悩む婿。結末にはゾッとする。婿に入った夫が友人と二人で冬山登山を計画するが、夫を危険な冬山に行かせまいと妻が履き馴れた登山靴を隠す。友人から借りた足に合わない登山靴を履いて冬山に向かった夫の運命は……
『沼』。砂糖に群がる蟻の如く、あさましい人間の欲望の結末。村の神社の奥の院である黒沼に湧き出る温泉と鉱物を狙って、東京から調査会社の技術者が村に入る。
『石の家』。都会のアパートの閉塞感。都会の親戚に養子に出された田舎の小学生の男の子の悲劇。そんな男の子を思いやる若夫婦。
『危険な実験』。幼い頃から放火に異常な執着を見せる男の末路たるや如何なものか。
『十六歳の俳句』。事務所にインターホンを取り付けたことから社長は自身の俳句に対する陰口を知ることになる。そうだろうと思っていたのだが、やはり社長の意趣返しだった。
『ノブコの電話』。自身の書いた小説で新聞社の文学賞を受賞した男。その男にノブコという名の覚えの無い女性から祝電が届き、さらには電話も。旨い話には裏がある。
『死亡勧誘員』。遣り手の生命保険の勧誘員。目を付けた小説家を勧誘すべく手を尽くす。全く思いもしなかった結末。
『情事の記録』。身に覚えの無いことで疑われることの怒り。近所の奥さんからの浅はかな入れ知恵で、夫の浮気を疑う妻。身に覚えの無い夫を妻が雇った私立探偵が尾行する。それが近所の奥さんの入れ知恵と知った夫は……
『エミの八回目の結婚』。キャバレーのホステスが新たなパトロンに選んだ男は奇妙だった。遠回しな描写と恐怖を仄めかすような結末。
『七年前の顔』。七年前にデパートで万引きの疑いを掛けられた女が、仕返しを企む。
『おしゃべり窓』。隣の奥さんの幸せを羨む妻が取った行動は。確かに嘘八百の自慢話ばかりする人も居るが……
『執念』。長い、長い時間を掛けた執念の復讐を描いているが、説得力は乏しい。あっちこっちとストーリーは迷走する。
『黒い顔の男』。鮎釣りで知り合った山本と名乗る黒い顔の男は、かつて鈴木が満州でソ連軍に売った男なのか……
『胡桃』。相当な能力を持っている女性が不運にもその能力を発揮出来ぬままに時に流され、不運だけを引寄せてしまうという何とも悲しい物語。
『山が見ていた』。表題作だけに見事な仕掛けのミステリーであった。子供を轢き逃げした青年が罪の意識から山で死ぬ道を選ぶが……
本体価格860円
★★★★