あらすじ
明智小五郎、ついに最後の事件解決へ――。“影男”と呼ばれる正体不明の男は、無数の名前と顔を使い分け、自らの犯罪体験を書く小説家でもあった。ある日、彼は“殺人請負会社”を運営する須原から、完全犯罪のアイディア出しを依頼される。後日、その案通りに残酷な殺人が行われるが……(「影男」)。少年探偵団と魔法博士が、ルビーのカブトムシを巡り最後の対決をする(「赤いカブトムシ」)。名探偵・明智小五郎が関わった事件を発生順に並べた唯一無二の画期的コレクション、〈戦後編〉完結巻!
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「明智小五郎事件簿」シリーズ全16巻もこちらで終了!
これは明智小五郎の関わった事件を発生順に並べたシリーズです。江戸川乱歩の執筆が戦後の小説のなかでも明智小五郎がある程度活躍している小説を取り上げています。
そのため児童向け読み物の収録はかなり少なくなっています。
この最終巻収録の『影男』は1950年1月から1954年にかけて、『赤いカブトムシ』は1954年5月18日から26日までの出来事です。
明智小五郎はもう60才…(^_^;)
あとがきでは「そろそろ明智も小林も引退、少年探偵団解散」と予測されてるけど、私は探偵事務所を小林くんが引き継いだのかと思ってます。少年探偵団員は資産家家庭も多いので、今度は探偵の依頼者になるかもしれないし、小林くんと政財界との繋がりにもなりそうだし。
あとがき解説では二十面相のその後も予測していますが「ドロボー引退して家族と暮らした」というのはなかなか良いです。それなら明智小五郎も病気療養中の文代さんのところへ行って老後を穏やかに過ごしなよ、と思いました。
『影男』
冒頭はSMプレイです。お、この話は大人向けだな 笑
人の裏面に興味を持った男がいる。いくつもの名前に偽経歴を持ち、目立たず人を観測する「影男」。
この影男、目立たないためにその場に溶け込んだり、変装や演技したりも大得意。人の裏面を観察するのが楽しみだが、そのために恐喝とか人の裏面を見事に顕す作家としての収入もある。
物語前半はこの影男の裏社会巡りが綴られます。政治家大物の弱みを握ったり、死体片付けを引き受けたり、秘匿された悦楽の館に出入りしたり…。この前半は、江戸川乱歩の明智以外の小説でも見られる人間の裏社会とか、変態行為とかが次々に現れます。
風貌は目立たないけどたまに派手な演出だってする。ある不幸な少女が「お空にはきっと幸せの世界があるんだわ」と妄想していることを知ると、影男はヘリコプターを誂えて、お姫様を迎えに来た騎士のような装束で彼女の境遇を救い出すこともやってのける。ここまでやってのけるって、筋が通っててちょっとかっこいいとか思って
しまった・笑
さらに変装の名人で美女に変装もするんです。明智小五郎や怪人二十面相も「変装の名人」だけど美女になりきるのって影男だけでは!?
こんなヤツなのでこの影男、恐喝者ではあるけれども、やってることはそこまで悪いか?って感じがしないでもないんだよなあ。なんとも不思議なお人。そのため、明智小五郎とどう絡むんだろうという疑問を持ちながら読み進める。
さて、そんな人間の裏を見て、自らも背徳行為を楽しむ影男の元に「殺人請負会社」の須原という男が接触してくる。
人殺しは嫌う影男に対して、こちらは大金で殺人を引き受けその殺人方法も変態的で悪趣味な集団です。
後半では、影男と殺人請負会社の須原が協力したり敵対したりするようになります。
他人と自分の命をかけての出し抜き合いをするけれど、ちょっとコミカルというかコント的でもあります・笑
最後は明智小五郎が見事に解決するんですが、この物語の中心は「影男」なので、明智小五郎がどうやって彼らの正体をつかみ追い詰めたかは、すべて明智の口頭説明です(^_^;)。
読んでいて思ったのは、江戸川乱歩はこの物語はあくまでも影男の物語で書きたかったけど、それでは淫行だとか不道徳だとか目をつけられてしまうので、明智小五郎を出して爽やかに締めたんだろうか?
犯罪者が主人公で、明智小五郎は主人公を捕まえる役回りというのは初期の頃の『屋根裏の散歩者』『心理試験』に似ている。この『影男』は江戸川乱歩が書いた明智小五郎物で大人向けの最後のお話だそうです。初期と最後に同じ感じになったんですね。
江戸川乱歩の小説の登場人物で、背徳の世界を知ってしまったり殺人に魅せられてしまう人物は出てきたけれど、だいたいがあくまでも関係者でしかなかったり、背徳行為に飲み込まれてしまっていました。しかしこの影男は背徳を楽しみ、しかし自分はしっかり保ったままでいる、更に美女にも変装できるということでは、明智小五郎が相対した犯罪者のなかでもかなりの特異な人物像でした。
『赤いカブトムシ』
この「明智小五郎事件簿」を読んできていて、題名を見れば大人向けか子供向けかが分かるようになりました。「赤いカブトムシ」なんてどう見ても児童向け 笑
発表されたのは「たのしい三年生」という雑誌?のようで、本文もひらがなが多いです。
「あるにちよう日のごご、」って感じです。
こちらは少年探偵団物ですが、犯人が怪人二十面相ではありません!私は子供の頃に児童向け江戸川乱歩シリーズを読んでいるので、怪人二十面相以外の犯人も読んでいましたが、この「明智小五郎事件簿」シリーズの児童向けで二十面相以外の犯人はこれだけですね。
犯人、というか少年探偵団の対決相手は「まほうはかせ(魔法博士)」。少年探偵団に、知恵と勇気を試す挑戦してきます。景品はルビーでできた赤いカブトムシ!
この魔法博士も全く子供たちを傷つけるつもりはないので、二十面相より安全な対決相手です。
しかし子供たちと知恵比べするためのものすごく凝った仕掛け、なかには相当怖いものも…(^_^;)
少年探偵団たちは、宝捜し、暗号解明、地下室の冒険、そして最後はヘリコプターに乗って空の冒険を繰り広げます。
戦後10年以上たち、読者も少年だけでなく少女も増えたようです。少年探偵団に少女団員も増えています。
完全に児童向けに書かれた軽い一作というこちらで、「明智小五郎事件簿」全16巻終了!