あらすじ
ある夕がた、少年探偵団の井上一郎と野呂一平は、洋服を着てステッキをつく怪しげな骸骨顔の紳士に遭遇する。その骸骨紳士は「グランド=サーカス」のテントの中に姿を消し、それからサーカス内で恐ろしい出来事が次々と起こり始める。そして明智小五郎の宿敵で最大のライバルである怪人二十面相の正体と、過去の一部がついに明らかになる衝撃の一作「サーカスの怪人」。明智の姪である花崎マユミが初の少女団員として活躍する「妖人ゴング」の2編を収録。明智の関わった事件発生順に並べたコレクションの戦後編第3弾! 怪人二十面相の本名は?
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Posted by ブクログ
明智小五郎の関わった事件を発生順に並べたシリーズ。江戸川乱歩の執筆が戦後の小説のなかでも明智小五郎がある程度活躍している小説が収録されています。
『サーカスの怪人』1952年の冬、『妖人ゴング』1953年3月の事件です。両方とも少年探偵団が中心の事件で、明智小五郎は出番が少なくなっています。
こちらの「明智小五郎事件簿」では、明智小五郎の経歴を推測しているのですが、それによると第二次世界大戦中には軍の諜報活動に従事していたのではないか?と考えています。その関係で戦後の混乱期は明智小五郎の出番も少なくなっているのではないか?としています。
読者としては「児童向けだから明智小五郎があまり出てこないんだな」としか思いませんでしたが、時系列で考えると、紙面に現れないところでも明智小五郎が一人の人間として考えられて面白いですね。
『サーカスの怪人』
笠原団長率いるグランド=サーカス団に「骸骨男」が現れた。目は真っ黒な二つの穴、花も三角の穴、唇はなくて上下の歯が剥き出しのお黒顔、それが真っ黒な服に真っ黒なマントをまとっている。
骸骨男は笠原団長に脅迫状を送り、小学生の息子正一くんを誘拐する。
サーカス団にこれほどの恨みを持つ骸骨男は何者なのか…。
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少年探偵団物だし、変な怪人が出てくるし、その怪人はみんなを脅かして密室消失やってのけるので、犯人は「彼」だよね?と思って読んでいたのですが、途中で少年がかなりのピンチになるし、サーカス団長に対する仕打ちもかなり執拗でかなり酷く、「どうしちゃったんだ?」と思いながら読んでいきました。
結局明智小五郎と小林少年が出てきて、骸骨男の正体もトリックも見破られました。真犯人はやっぱりの遠藤宗吉。
…え?遠藤宗吉って誰かって?もちろん「彼」ですよ!読者にお馴染みの「彼」の本名や経歴の一部が明らかになりました!
今回は舞台がサーカスなので、「彼」も明智小五郎も曲芸をやってのけます!
まずは遠藤宗吉。密室からの消失!家族にもバレない変装術!サーカス公演中に乱入してアクロバットな綱渡りを披露!象に乗ってのっしのっしと操る!クマの皮を被って警察を驚かせる!やっぱり「彼」は楽しいやつだ!(>▽<)
そして最後は馬に乗って逃亡を図ります。
対する明智小五郎も馬に乗って追いかけます。
「夜の東京を馬に乗って逃げる骸骨男、投げ縄で追いかける名探偵」を目撃した作中の人々が羨ましい笑・笑
最後は、明智小五郎が見事に投げ縄で遠藤宗吉を捕まえます。
戦後編では50代になって少し元気のない明智小五郎も「彼」を相手にすると若返るな・笑
前半は「彼にしては容赦ないな」とか、「トリックはまたいつものパターンだな」などと思っていたのですが、終盤のアクロバットは読んでいて楽しかったです。
『妖人ゴング』
明智小五郎に花崎マユミというという少女助手ができました。マユミは、明智夫人の姉の娘なので、明智小五郎の姪にあたります。
んん?明智夫人の文代さんの経歴は『魔術師』ではっきりしていて、兄はいるけれど姉がいないことは確かなんだよなあ?と思ったら、解説によると「文代さんのお兄さんの奥さんの姉では?」という推測が。このマユミは「明智先生の影響で小さいころから探偵が好きだった」ということなので、明智小五郎は文代夫人の親族とはけっこう親しい親戚付き合いをしていたのね。小説では文代さんは「胸を患い高原で療養」として出番がなくなっちゃってますが、親戚付き合いはあってちょっとホッとした。
さて。近頃東京でまたしても怪人事件が起きる。
東京の上空に「ウワン…ウワン…ウワン」という鐘が響くような音と共に、大きな人の顔が現れたのだ。この音がゴングのようなのでマスコミは「妖人ゴング」と名付けた。
そのゴングは、少女助手の花崎マユミの実家、花崎検事の家の池に巨大な顔を浮かび上がらせたり、マユミとその弟の俊一の誘拐予告をする。
まずは俊一くんが誘拐された。だがそれは少年探偵団たち、そしてチンピラ別働隊により無事に助け出された!
そして小林少年は妖人ゴングの隠れ家に入り込むことに成功した。だが妖人ゴングに見つかり、酷い目に…。
その危機を抜け出した小林少年の報告により、明智小五郎は妖人ゴングの奇術の仕掛けを見破り、捕縛計画を立てるのだった。
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怪人、密室からの消失、「人殺しは嫌い」は犯人といったらいつもの「彼」だよね。
でも今回の「彼」は、妖人ゴングの隠れ家に潜入した小林少年を「人殺しは嫌いだが、勝手に死ぬのは構わん」と言ってかなり酷い目にあわせます…
そうそう、血を見るのは嫌いと言ってもこいつはやっぱり悪人だった(-_-;)
小林少年は少年探偵団物ではちょっと子供っぽくなる印象。最も「明智小五郎事件簿」によると、「いつまでも少年のはずがないので、小林助手は三人いるはず」としています。そう考えるのも面白いし、まあ私は「少年助手という概念」で読んでますが。
なかなか可愛かったのはチンピラ別働隊。1953年のこのときは戦後の混乱も少しは収まったのか、チンピラが減ってきている、と語られます。
で、そのチンピラくんたちが犯人の跡をつけたり、誘拐された少年を助けたり、犯人逮捕に協力したりと活躍です。このチンピラくんたちもこの事件の後、働き口とか、学校に行かせてもらったりしたんだろう。
なお妖人ゴングはやっぱりいつもの「彼」で、いつものパターンで最後は捕まるのですが、明智小五郎は妖人ゴングにけっこう酷い扱いをして捕まえますす。可愛い助手の小林くんが死ぬ目に合わされたので、実は怒ってたんですね(^_^;)。
しかし毎回毎回凝ったトリックで明智小五郎や少年探偵団を驚かせる「彼」ですが、今回ほど酷い目に合ったことは初めてかもしれない。終盤の「溺れそうになりプカプカ立ち泳ぎしていると、頭に五匹のネズミがよじ登ってきて顔を齧られた」という姿には、ちょっと笑ってしまいました。