あらすじ
実業家の大河原の秘書となった武彦青年は、美貌の由美子夫人に恋心を抱く。彼女に翻弄される日々の中、次々と起こる変死事件に巻き込まれていき……(「化人幻戯」)。シナリオ・ライターの克彦は、高利貸しの重郎の妻・あけみと恋仲にあった。ある日、重郎を殺してしまった彼は、あけみとともに巧妙なトリックで捜査の手から逃れようとする(「月と手袋」)。名探偵・明智小五郎が関わった事件を発生順に並べた人気コレクションの戦後編第2弾! 耽美的なエロティシズムの漂うなかで明智が愛欲にまみれた犯人を追う!
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Posted by ブクログ
明智小五郎の関わった事件を発生順に並べたシリーズ。この巻からは江戸川乱歩の執筆が戦後の小説になります。なかでも明智小五郎がある程度活躍している小説を取り上げています。
『化人幻戯』は1949年11月3日〜12月21日、『月と手袋』は1950年2月〜5月・6月の出来事です。
『化人幻戯』も『月と手袋』も、題名が良いですねえ。
『化人幻戯』
探偵小説作家で明智小五郎物語著者として、江戸川乱歩が名前だけ登場!「江戸川乱歩の書いた明智小五郎の手柄話はほぼ創作」だそうです 笑 明智小五郎の事件序盤『D坂』とかに出てきた語り手は、江戸川乱歩本人ってことでいいよね。
今回は関係者が探偵小説大ファンとして、ミステリ小説とか犯罪に関する文章がたくさん出てきます。
探偵小説好きの青年庄司武彦は、元貴族の実業家大河原氏の秘書になった。大河原夫人は、若い後妻の由美子。大河原氏は探偵小説とレンズが大好き。由美子夫人とともに、双眼鏡で遠くを覗いたり、庭の生き物を大写しにして楽しんでいた。
大河原邸には政財界の大物や、大河原氏が目を書けている若者が集っている。庄司武彦はその中の一人、姫田吾郎から「怪しい手紙を受け取った。君は名探偵の明智小五郎氏と仲が良いらしいので、彼に紹介してもらいたい」と頼まれる。
だが明智小五郎が別の事件で不在中に事件が起きた。
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戦後編では50歳になり、現場に出ることも少なくなった明智小五郎、久しぶりに変装侵入捜査したみたい。今回は半隠居の明智小五郎をその気にさせた不思議な犯人です。大人向けの話なので、レンズで人の生活の覗き見や昆虫の捕食を見て喜んだり、庄司武彦の性的指向「女性に包まれたい」を熱弁したり、犯人の独特すぎる愛情表現方法など、変態趣味も出てきます。
推理小説としては犯人などはわかりやすいのですが(江戸川乱歩はかなりヒントをくれる・笑)、終盤の犯人の告白場面は、いままでの犯人たちとはまた違ったインパクトが有りました。
『月と手袋』
犯人側から書かれる形式。
北村克彦は、知人の股野重郎の妻のあけみと不倫関係にあった。そのことを股野に詰め寄られた北村は、弾みで股野を殺してしまった。正当防衛といえば言えるのだが、するとあけみのことも、あけみが受け継ぐ股野の財産も失ってしまうので隠蔽工作を施すことにした。
隠蔽工作は大成功かに思えた。北村とあけみは堂々と同棲し、担当の花田警部とも個人的に親しくなった。
だが花田警部は「名探偵の明智小五郎くんにも意見を聞いているんですよ」と言って、北村とあけみの心を凍らせた。
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この話には、明智小五郎本人は全く出てこない!しかし知己の花田警部の言動が、いかにも明智小五郎に言われてやってるなという感じで存在感はあります。
そして被害者の股野重郎というのが戦後の強かな嫌なヤツ。元男爵というけれど、人の弱みに付け込んだ高利貸しというか要するに強請屋。彼に強請られていた人も多いので、小説の上では加害者二人の事情も汲みたくもなる。
しかし犯行が隠せそうだとちょっと増長する様子には、やっぱりこのまま見逃しちゃだめだねと思い起こす。
花田警部が二人と親しくなったのはもちろん探りをいれるっていうのはあるけれど、でもやっぱり個人としても北村とあけみに親しみを感じたのもあるのかな。花田警部が自首を勧めるのに「あなたたちは精神的に追い詰められて辛いだろう。もう告白して、楽になられては?」というのは本心でしょう。
ところで、最初に現場に駆けつけた巡査が「美少年の警官」っていう書き方は乱歩の趣味ですか・笑