あらすじ
経営の難題「脱カーボン」のシナリオと実践項目を示す
「カーボンニュートラル対策のスタンダード」ともいえる解説書
経営者を悩ます大問題が「カーボンニュートラル」である。世界のスピードに遅れれば致命的な事態も想定されるが、先走り過ぎると無傷では済まない。欧米中の政府がどう動くか、先進企業はどこまで進み、ライバル社はどの程度本気なのか。この先のシナリオは不透明であるからこそ、カーボンニュートラルに関しては「シナリオ・プランニング」のアプローチが欠かせない。本書を通してボストン コンサルティング グループが示している指針には納得感がある。
こうした「シナリオ分析」は本書にとってイントロにすぎない。多くのページを「日本企業が採るべき実践項目」に費やしている。それは、3ステップ10項目にも及び、「カーボンニュートラル対策のスタンダード」といってもいいくらい充実している。日本企業や海外企業の取り組み内容も豊富に記載しており、「先進企業はどこまで進み、ライバル社はどの程度本気なのか」を見極めることもできよう。
カーボンニュートラルにおいては「スコープ3」という考え方があり、サプライチェーン全体が対象になる。もし取引先がカーボンニュートラルを掲げれば無関係ではいられない。大企業だけでなく、中堅・中小企業も対応が求められる。その対応次第では、取引停止の可能性すらある。
「カーボンニュートラル」対応に不安を感じる経営者にとって、指針も実践項目も示した本書は救いになるはずだ。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ESG経営関連の本3冊目。カーボンニュートラルに絞ったボスコンの本。
感想。
備忘録
・戦略を考えるにあたり、「世の中の流れや競合に追従するのみでは競争優位は築けない。かといってカーボンニュートラルの分野で無暗にアクセルを踏み過ぎると、不要な投資を積重ねたり、既存事業の競争力劣化に繋がるリスクもある。」というはじめにから始まる。その通りと思う。
・植物って、光合成の時にCO2を吸収するけど、通常の呼吸もしていて、その時にCO2を排出しているんだよ、という驚きを知る。排出量より吸収量が多いから議論になっていない。
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)という国連の下部組織が、気候変動対策に向けたカーボンニュートラルの必要性を述べている。これには多くの異論反論があるのも事実だが、IPCCの論証以上に頼るべき体系的な分析はなく、IPCCの主張するリスクが顕在化した場合の世界へのダメージは計り知れない。だから、人類最大のリスクヘッジとしてカーボンニュートラルに取組むべき、というのがボスコンの立場。
・京都議定書が「先進国全体で5%削減」という数値目標を導入した結果、米国の離脱他色々軋轢が生じた。それがパリ協定になって、削減目標は各国が自らの判断で決めるというボトムアップ方式を取り入れた。なるほど。
・ネガティブエミッション技術(NET)とは、人為的にCO2を回収・吸収する技術。ゲームチェンジングなソリューションに成りえる、と。
・各国がカーボンニュートラルに舵を切る為の前提条件、という整理は非常に面白かった。なるほど、だから各国で考え方が微妙にことなるのか、と。
・そこから、カーボンニュートラルの進み方のシナリオ、それに対してどの程度の積極性で臨んでいくかという戦略の組合せも、なんか納得する。
・で、企業はどうしていくべきか、という章もたいへん参考になる。備忘録が本の内容丸写しになりかねないから止めておく。
Posted by ブクログ
仕事柄SAPの導入を行なっており、カーボンニュートラルについて体系的に理解したいと思い読んでみた。
カーボンニュートラル実現に向けた企業のロードマップを理解できた。
企業が取るべきステップは、大まかに以下の通りになる。
現状の把握→方針の決定→外部への開示
Posted by ブクログ
最近よく聞くカーボンニュートラルについて知りたく購入。
既存事業が優先されCN事業が後回しにされるということに共感。実態が見えずわかりにくいため後回しにされがちだが、気づいたら時すでに遅しとなりかねないほど社会の要求は厳しい。連日新聞でも報道。
本書からできるところを探して、少しずつでも進めていく必要性を感じた。
Posted by ブクログ
カーボンニュートラルに対する概要をわかりやすく述べた後に、では各企業がどのように対応すべきか書かれた本。
特に前半のそもそも地球温暖化についてどういう科学的見解がなされているか、また、各国の地政学的なCNへのスタンス比較や不確実性があるところがどういうところかをまとめてあるのは分かりやすかった。
各企業へ求めることとしていわゆる「見える化」を中心に受け身でなく能動的にこの問題を受け止めるべきと書かれているのはそのとおりだと思った。
この分野に初めての人も、少しかじった人もどちらも満足できる内容なのではないかと思う。
Posted by ブクログ
■競争優位性を確保する
(1)提供している商品やサービス自体を脱炭素化して消費者に訴求する
原材料から製造過程まで一連の要素を脱炭素に振り切ることで、消費者に対する強い訴求力を持つという取り組みである。
CO2削減を前面に打ち出して成功を収めた例として、2016年に誕生したスタートアップであるオールバーズを紹介したい。同社は、羊毛などの持続可能な素材でスニーカーを製造するだけでなく、販売しているすべての製品のカーボンフットプリントを表示している。一般的なスニーカーがCO2換算で12.5㎏の温室効果ガスを排出している一方で、同社製品の平均は7.6㎏だ。環境意識が高いカリフォルニアなどで流行し、2020年には原宿に日本第一号店をオープンするなど注目度は高い。
アディダスは、回収した海洋プラスチックを素材に製造したシューズをサステナブルな商品として販売している。価格が高めではあるが、売れ行きは極めて好調だ。また、ペプシコは、Beyond the Bottleのコンセプトを打ち出し、ペットボトルで飲料を販売するビジネスモデルではなく、自宅で炭酸水を作ることを消費者に提案し、使い捨て容器を使用しない方法を提供することで、環境意識が高い消費者層の支持を得ている。
このような事例を見ても、消費者が高い代金を支払って環境負荷が低い製品を本当に購入するのか、半信半疑の方もいるだろう。私たちが日本で行った消費者調査によると、環境価格プレミアムを受容すると回答した人は2~3割程度である。現状では脱炭素に価格プレミアムを払う消費者は一部であり、その一部の消費者セグメントをターゲティングして獲得する戦略と言わざるを得ない。ただし、消費者の意識は少なくとも逆行すること はなく、一定のプレミアムを払ってでも環境負荷が低い製品を購入する層は増加していくと考えるべきだろう。
なお、このパターンが特に有効なのは、使用している場面が他人から見えること、何度も反復して使用するものであること、という条件下だと考えられている。つまり、消費者 の「環境にやさしい製品を使用している自分を見てほしい」という欲求を満たすことが有 効だ。 テスラのEVの販売台数がカリフォルニアやニューヨークで爆発的に増えたのも、 「テスラに乗っていることはエコでかっこいい」というブランドイメージが確立できたた めと考えられる。逆に言うと、家の中でだけ使うなど他人に見せない製品は、このパター ンには当てはまらない。
(2)カーボンニュートラル対応を切り口にサプライチェーンの上流・下流に染み出す
メーカーがその保守・メンテナンスまで行う、もしくはサービス提供者が必要な設備・製品の製造まで行うことである。この例として、ダイキン工業の取り組みを説明したい。もともと空調設備のメーカーだが、子会社「ダイキンエアテクノ」が三井物産と共同で、空調データのアナリティクスや保守を月額課金で提供する「エアアズアサービス株式会社」を設立した。 設備単体ではなくシステムとしての設計から運用までを担うことで新たなCO2削減余地を見いだしつつ、結果としてO&M(運営・保守) 業務にも染み出して の固定化を実現している。
(3)カーボンニュートラルに対応した他社が参入しづらいバリューチェーンを構築する
脱炭素を切り口に、従来のバリューチェーンを統合したり、置き換えたりする取り組みだ。この例としては、テラサイクルのループ (Loop) によるリターナブル容器を活用したバリューチェーン構築が挙げられる。Loopは、容器メーカー、消費財・食品メーカーと連携し、再利用可能な容器を利用した循環型の消費財・食品宅配サービスを提供している。具体的には、消費者がオンラインで注文を行うと、繰り返し使える耐久性の高い容器に入れられた製品が配達され、使用後、スタッフによって回収された容器は洗浄施設で洗浄されて再び中身が充填された状態で再配達される。「利便性」や「デザイン性」も魅力と言える。 カーボンニュートラルを活用した新しいバリューチェーンが構築されている好例だろう。
その他の事例では、農家支援ビジネスを展開するインディゴ・アグリカルチャーが、再生農業を行う農家とサステナブルな穀物を必要とする需要家をマッチングするビジネスを立ち上げている。自らがサステナブルな生産物のサプライチェーンのハブになることで、サステナブルな農業を行う農家と、それを必要とする需要家の取り込みを図っている。
(4) 自社サービスにカーボンニュートラルに貢献できる要素を織り込むことで消費者の行動変容を促しつつ優位性を確立する
消費者に対して行動変容(今回で言えば脱炭素の製品・サービスの選択)を促し、支援することを通じて、消費者を囲い込むことである。消費者の行動変容を促すためには、「見える化」(自分が環境にどのくらい良いこと・悪いことをしているかを知ることができる)、「選択肢の提供」(環境に良いことを選べる)、「インセンティブの提供」(環境に良いことをすればメリットがある)という3つが効果的だ。
それを実践している例として、ショッピファイの取り組みが挙げられる。同社は、ECで買い物する際にその買い物カゴの排出量(製品の製造、家までの物流に伴う排出量)を見える化し、買い物カゴの排出量に相当する削減プロジェクト(森林保護、カーボンキャプチャーなど)やモニタリングの仕組みへの投資など、購買に伴う排出をオフセットする選択肢を提示し、それを選択するとポイントがつくなどのリワードプログラムを提供している。