あらすじ
須藤が死んだと聞かされたのは、小学校中学校と同窓の安西からだ。須藤と同じパート先だったウミちゃんから聞いたのだという。青砥は離婚して戻った地元で、再会したときのことを思い出す。検査で行った病院の売店に彼女はいた。中学時代、「太い」感じのする女子だった。50年生き、二人は再会し、これからの人生にお互いが存在することを感じていた。第32回山本周五郎賞受賞の大人のリアルな恋愛小説。
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Posted by ブクログ
同級生と再会した懐かしさと高揚、とか、同級生の野次馬的な感じとか、噂とか、とてもリアルな感じで、わかるなぁと思う。50歳くらいだとみんな色々あるよなぁ〜…!というのも、はっきり全部は書かないけど匂わせていて、わかる!と思う。
闘病ものだけど、美化せず、生活が感じられて、でも生々しすぎない。
青砥は素直に一年も距離を置くなよ!
須藤も、甘えろよ!
Posted by ブクログ
おじさんミーツおばさん。
おばさんの方は病魔に蝕まれ、少しずつ損なわれていく。それでも己の信念を最後まで貫いて、無機質にそして強く、″太く″死んでいく。そんなふうにするべきじゃないのに。
おじさんの方はただただ優しく、大人で、何も考えていない。何も考えていないうちに、まわりの大切な人が死んでいく。そんなふうであるべきじゃなかったのに。
須藤。
「あわせる顔がないんだよ」じゃねえ。
どんな顔だってよかったんだよ。会えよ。
自分だって会いたいだろうに、なんで勝手に死んでんだよ。
青砥。
気づけよ。検査の結果はしつこく聞けよ。
結婚はゴリ押ししろよ。
1年てなんだよ。そんなには待てないんだよ。人も命も。
文章は決して上手くはない。作家としては下手な部類に入るかもしれない。
それでも登場人物たちに文句を言いたくなるくらい、しっかりと感情を掴まれてしまった。
さてこの作者、文章は上手くはないが、時折ハッとするような光るフレーズを放ってくる。いくつかを書き留めて本稿を終わろう。
89P
「だが、どの頬も肌理細かで、なのに風にさらされたような野趣があった」
野趣という言葉に頼ってしまった感はあるが、美しい表現。
105P
「分は希望だ。ないと収まりが悪い。」
ないと収まりが悪い、の部分に、もしかしたらゼロなのかもという、人生の経験値から来る静かな諦念と、それでも1分でも希望があるなら全力でそれに向かおうとする覚悟が込められている。
145P
「遠浅の海でちゃぷちゃぷとあそぶような笑みをひらかせ、横の髪を耳にかけなおした。風が出ていた。」
遠浅の海〜の表現は抜群に上手い。この一瞬の須藤の気持ちをこれ以上なく的確に切り取っている。
そして 風が出てきた の一文ですぐに現実に引き戻し、その落差でやりきれなさを表現している。
170P
「ふたつの藁の束を絡み合わせて丈夫な縄にしたような、そんな手応えが青砥にあった。たぶん愛情というやつだ。」
50代の恋愛ってこういうものかもしれない。
決してまっすぐなものではないし、ただ感情だけでつながるのではなく、打算や状況や既成事実なんかがぐるぐると絡んでできあがる。
Posted by ブクログ
【手に取った理由】
・店舗で物色していたら、ポスターで見た映画の原作と知ったので。
・堺雅人が好きなので。
【読んでる途中】
・読み進めるのが辛い小説だった。
・悲しく、不安な気持ちになるので、ダメージを受けても良い時間帯に、小分けに読むように心がけた。
・読み始めたことを、少し後悔した。
【読後】
・最期は、流石に涙を浮かべてしまった。青砥に感情移入し、泣くしかなかった。
・みっちゃんとの対話で、少し救われたが、50を超えた大人の恋の結末に、自分の未来を重ね、愛する妻との別れを思い、切なくなる。
・どうしようもない気持ちを、中江有里さんの解説が救ってくれた。
「人生の贖罪と残り時間を照らし合わせて、誰かを好きになり、思いが成就したならば、それは幸運と呼べるだろう。本書は、幸運に見舞われた二人の軌跡でもある。」
中江有里さん、ありがとう。ていうか、この解説がないと、救われなかったよ、私の心は…。