あらすじ
第130回芥川賞受賞作品。高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。やがてハツは、あるアイドルに夢中の蜷川の存在が気になってゆく……いびつな友情? それとも臆病な恋!? 不器用さゆえに孤独な二人の関係を描く、待望の文藝賞受賞第一作。
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Posted by ブクログ
高校1年生の初美(ハツ)とにな川を中心に展開していく。主人公ハツには中学からの友達だった絹代が同じクラスメイトだが、すでに絹代は他の仲間を見つけ、その対比が切ない。自分と合わない人間と馴染む気はないが、一匹狼にはなりきれないハツからは未熟な感じが伝わる。一方で、にな川は推しのオリちゃん以外に関心がなく、同じクラスの余り者のハツとは対照的で、そこにハツも興味を持ったのだと思う。思春期特有のもどかしさを感じつつ、蹴りたい気持ちは理解しきれなかった。ただ、それくらい衝動的な心の動きがあったということかな。
Posted by ブクログ
まだ力がなくて不安や劣等感に押し潰されそうなのに、妙にプライドが高くて弱さや自分の置かれている立場を上手く認められない絶妙な思春期の心情を上手に表していると思った。
可愛いとは昔、かわいそうから来ていた言葉だったらしい。可哀想と相手を見下しているのに、それが可愛いというような肯定的?な感情を巻き起こしてしまったのかなーと。そしてそんな可哀想で好きな彼をいじめたくなるような感情が生まれてしまったのかなと。
可愛いものをいじめたくなる、分かるような気がする。
Posted by ブクログ
話題になってた時に読んだ……ような気がしてたけど、内容を一切覚えてなかった。読み終えたけど、やっぱり内容を忘れそうと思う。
でも、最初の「さびしさは鳴る。」は覚えてた。詩的で意味がない感じがいい。こういう表現があちこちに散っていて、文章の美しさはある……でも、物語はというと、印象に残らない。『蹴りたい背中』のタイトルもそのまま「苛立つ(この辺りの解釈は人によって異なりそうだけど)から蹴りたい」という話。
気になった部分。
『恋人か、ファンとしては痛烈な響き。いや、でも、おれは受け入れるよ。』47p
にな川が好きなモデルに恋人がいるかもと知って口走った言葉。
痛烈な気持ち悪さ……と思いながら読んだ。受け入れるも受け入れないもなくて、ファンなら私生活に立ち入らない方がいいし、『見えてるのは見せてる商業的部分だけ』という自覚も持った方がいい。そこに『恋人』という完全私的なものはファンが口出しできる権利は一切ないのよね。
『多分これを作ったにな川は、オリチャンを貶めているなんてさらさら思っていないと思うけれど。』59p
にな川が好きなモデル、オリチャンの顔写真に『成長しきってない少女の裸』を組み合わせたものを発見した時の主人公の感情。「無理がある」と呟いたのもそうだし、その後の気持ち悪い描写もすごく的確でこの辺りの文章は好き。
これ痛烈なオタク男性叩き……とでも言えそう。
そして、その後に主人公がにな川の背中を蹴るのだけど、たぶんこれは『気持ち悪くて苛立った』からではなくて、「こんなに気持ち悪いものには何をしてもいいだろう」っていう加虐心なのよね。だからこの後も「意地悪な気持ちになった」みたいなシーンが繰り返し出てくる。にな川がモデルのオリチャンを人間として見ることができないように、主人公のハツもにな川の事を自分と同じ人間としては見られなくなってる……。
この後の物語は、気持ち悪さ全開だなぁと思いながら読んだ。
ハツの友人の絹代がハツはにな川を好きだと勘違いしているのも、気持ち悪いところに気持ち悪いものをさらにぶち込んでくるんだなと思った。
『「”人間の趣味がいい”って最高に悪趣味じゃない?」』100p
ハツが「自分は人間の趣味がいいから、幼稚な人と喋るのつらい」と言った事への返事。
にな川も他人の事となるとよくわかっているように、ハツも『他人の事なら分かる』のよね。だから、「取り残されている」と言われたことには怒るし、にな川は他人に無頓着なんだとも思ってしまう。
この辺りの写し鏡の構図はすごいな……と思う。そっくりそのまま、二人の姿が同じように映ってるだけなの。
だから、この後『にな川の唇を舐める』ことになるけど、これも全く無意識でハツの意識的には『鏡を舐めた』程度の感覚だったんじゃないかなと思う。すぐに我に返って後悔するけど。
その時、にな川からは『自分を軽蔑している目』で見ていると言われるけど、これもハツが軽蔑してるのはにな川だけど、同時に自分自身でもあるんだろうなぁと思う。
にな川は気持ち悪いけど、ハツも充分、気持ち悪いのよね。でも、ハツ自身は自分の気持ち悪さに気が付いてない。にな川がにな川自身の気持ち悪さに気が付いてないのと同じように。
こういう『自分の姿が見えない』っていうのは誰にでもあるからホント『気持ち悪い物語だなぁ』と思う。でも、この後も具体的に何かが変わるわけでもないので……印象に残らない。
家にあった本だけど、だまって仕舞おうと思う。
人にお勧めはしない。気持ち悪いだけの物語だから。