あらすじ
お母さん、聞こえますか?
私はこうして生きています。
幼少期、海外養子縁組に出されたナナは、フランスで役者兼劇作家として暮らす。
そんな彼女に突然、人生を変える2つの知らせが届く。
別れた恋人との間に子どもを妊娠したことと、韓国から来た、自分の人生を追ったドキュメンタリー映画への出演依頼と。
生みの親を知らないナナは、生まれてくる子どものためにも自分が“誰なのか”を見つけようとソウルへ向かう。そして、思いもしなかった人たちとの出会いから、35年前、駅に捨てられた暗い記憶の糸が少しずつほぐれていき……。
海外へ養子に出された子どもたち、米軍の基地村で生きた女性たち……。
現代韓国の歴史の中でなきものとされてきた人たちに、ひと筋の光を差し込む秀作長編小説。
第27回大山文学賞受賞作
韓国系国際養子のルーツ探しというこの小説の「特殊な」主題が、日本の読者の方々に「普遍的な」ものとして届くようにと、そして誰かがこの作品を読んでいるとき、生命への尊重や人と人との絆への信頼という明かりが灯ってくれたらと願っています。(「日本の読者のみなさまへ」より)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
他者に寄り添うことや、死や生への向き合い方について深く考えさせられる本。著者のチョ・へジンさんの鋭くも温かな視線が存分に伝わってくる作品だった。ドラマの中でしか触れたことがない海外養子縁組について知るきっかけにもなった。本文に出てきた“生きる幽霊みたいな大人”にはなりたくない。
Posted by ブクログ
国際養子に出された主人公。
捨てられた生命、救われた生命、生まれくる生命、様々な生命を感じる物語。
翻訳者も書いているが、人の本心なんてものは誰にも分からず、自分の本心でさえも誤解するものなのだと思う。
そんな中で打ち捨てられた事があっても、どうにか生きていく。
読後は深い感慨に耽った。
Posted by ブクログ
この本を読むまで、韓国の国際養子縁組という社会問題のことを全く知らなかった。
国籍、そして生みの親を失うという二重のアイデンティティの喪失と、どこへ行っても避けられない差別と偏見。「私は何者なのか」と問い続ける人生の悲哀。
不可逆性を多分にはらみながらも、少しずつ重なり合う登場人物たちの人生、その構成の緻密さが圧巻。生命に敬意を持ち丁寧に描く著者の眼差しが温かく良い読後感でした。
Posted by ブクログ
原題『단순한 진심』
“でも、何より恐れていることは別にありました。ウジュが私に似ること、私の一番さびしくてかよわい姿に似ることでした。”(p.233)
Posted by ブクログ
10/31"ごめんね、愛してる"の主人公のように海外養子に出されたムンジュが自分のルーツを探していく。実際にそのような人がたくさんいて、自分のルーツに苦しんだのだと思った。
Posted by ブクログ
正しい答えを示すのではなく、
迷いながら主人公たちが自分なりの答えを選んでいくところがいい。
だから読んでいる私自身も、私だったらーと考えられる。
テーマは重いのに、決して派手な展開にせず、どこかドキュメンタリーのように物事が淡々と進んでいくのも、読み手に考えさせる余白が生まれてよい。
自分の過去を探すため、というところから始まっていながら、いつしかそこから話が転がりだし、展開していくのもいい。
養子とか、韓国が舞台とかそういうのとは関係なく、
「わたしがいることの意味」を考えさせてくれる良作だと私は思う。
※蛇足だが、唯一苦しかったのが登場人物の名前。
似た名前が多くて、頭の悪い私はときどき誰が誰だか わからないときがあった。
Posted by ブクログ
ナナは、別れた恋人の子供を妊娠していた。そしてその子供に「宇宙」(우주)という名前を付けようと決めた。そしてその日、ソヨンという韓国人の女性から二通目のメールが届いた。その女性は、ナナのインタビューを読んで、フランスに養子に出されるまで過ごした場所や、そので会った人たちを探しながら、最終的にはナナの昔の名前である「ムンジュ」の意味を見つけ出すまでの過程を映画にするという。妊娠初期に飛行機で韓国まで旅をするなんて、常識では断るべきものだったが、ナナはどうしても断れなかった。ナナは、子供の頃に線路で泣いているのを、それに気が付いた機関士が拾い上げ、一年間も世話をしてくれたという。なんとしてもその機関士とその母親に会いたかった…。そして、この旅は、ナナの人生の空いた穴を埋めるものだった。