あらすじ
オレのタクシーは、走る探偵事務所。
鉄壁のアリバイに護られた〈最高のレディ〉はシロか? それともクロか?
生前被害者を乘せたのが縁で、初恋の人に再会したタクシードライバー・夜明日出夫。
三百キロ離れた遠隔地での不可解な殺人事件の容疑者とされた彼女を救うべく、元警視庁捜査一課の刑事であった彼は調査に乗り出す。
名探偵キャラを封じ手にしてきた著者が、作家生活三十年目満を持して放ったヒットシリーズ第一作!(解説 有栖川有栖)
トクマの特選!
カバー・口絵イラスト nowri
〈目次〉
Introduction 有栖川有栖
アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿
Closing 有栖川有栖
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Posted by ブクログ
● 感想
テレビドラマ『タクシードライバーの推理日記』の原作であり、シリーズ探偵・夜明日出夫の初登場作。逗子の別荘とまったく同じ別荘をもう一軒建てるという、豪快なアリバイトリックが最大の見どころ
夜明の幼なじみである令嬢・大町千紗が、高月静香殺害事件の容疑者となる。夜明は、元刑事として現役刑事で旧友の丸目平八郎と協力し、事件の真相を追う。
事件の中心となるのは、千紗の鉄壁のアリバイ。「午前4時、逗子の別荘にいたことが電話で証明されている」というもので、一度は容疑から外れる。しかしその後、高月の愛人である県議会議員・夏木潤平が死亡し、死の直前に
「カビン、タトウ、インサイ、ザサイ……オウチサ」
という意味不明の言葉を残す。
さらに夜明は、千紗が
「赤いリンゴ」
「バイカルの果てしなき道を」
「みかんの花が咲いている」
「ペンギンさんがお散歩していたら空からステッキ落ちてきて」
という童謡のような鼻歌を繰り返していることを知る。
この鼻歌こそタイトルにもなっている「アリバイの唄」で、頭文字を並べると「アリバイハカンペキ」となる。かなりバカミス的な発想だが、この違和感から夜明は千紗を疑い始める。
一方、夏木のダイイングメッセージは「千紗の内腿にはタトゥーがある」という意味だった。千紗はフランス留学中、恋人だったフランス人船乗りの名前をタトゥーとして刻んでおり、その秘密を守るために殺人を犯していた。
そして真相となるアリバイトリックは実に大胆
逗子の別荘とまったく同じ外観・内装の別荘を蒲郡市にも建てていたのである。従妹の小日向律子を眠らせ、逗子にいると誤認させるという仕掛けで、リアリティはかなり低い。しかし、そのスケールの大きさは強烈な印象を残す。
動機もトリックも今読むとかなり時代を感じる。それでも、「アリバイの唄」という遊び心や、別荘を丸ごと複製するという豪快な発想は、リアリティより大胆さと面白さを優先した本格ならではの魅力といえる。
有栖川有栖も解説で、「このアリバイトリックは笹沢作品の旧作に似た原理こそあるが、別物として成立しており、こちらのスケールは格段に大きい。」と評価している。また、「アリバイの唄」はフェアな手掛かりとは言い難いものの、作者の稚気が感じられるとしている。
意外性はそれほど強くないが、笹沢左保らしい読みやすいストーリーと、古典本格らしい大胆な発想を楽しむ作品。「アリバイの唄」と「別荘をもう一軒建てるトリック」だけでも十分記憶に残る一作だった。評価はギリギリ★3