あらすじ
この者は、神か、悪魔か――。
気鋭の著者が、医療の在り方、命の意味を問う感動巨編。
大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條。そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。
あるとき、難病の少年の治療方針をめぐって、二人は対立。
「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。
そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。
大学病院の闇を暴こうとする記者は、「ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ」と西條に迫る。
天才心臓外科医の正義と葛藤を描く。
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
医師とその関係者の様々な思いと思惑が複雑に描かれていた。
患者の命を救いたい、病院を大きくし有名にしたい。病院も病院で維持費や機械の購入費に人件費もろもろ患者がいなければ存続できない場所ではある。病院に機械を卸す側も病院という大口が無ければ存続できない。しかし、互いの利害が一致し進みすぎるとそれは隠蔽と癒着の温床になってしまう。なんともバランスの難しさを、裏表紙の天秤から思った。
本誌の主人公である西條は、元々結婚に向かない性格であったにも関わらず、そんな自分を棚に上げ、ことなかれ主義だと妻が無言で離婚届けを置いていった今年すら理由を考えず、他者に考えを委ねていると他責思考なのがなんか気に入らなかった。
また、西條はミカエルを過信していた自分を責めていたが、機械であるミカエルはそもそも人が造ったものだ。それを、自分が適任でありきちんと扱えるのだと盲信していたのは西條の勝手である。人が関わることで何事も100%は無い。
だがそれでも人(患者)を救えるのは人(医師)である。
西條は、ミカエルを使う事で医師の幅を拡げ救える患者を増やしたい。という本気があった。それは西條の本気の本心である事は間違いない。
ミカエルもまた医療の幅を拡げる為に存在しても良い機械だ、だからこそ真木はミカエルを遠ざけたが、西條はミカエルの第一人者として、今後改良を加え現場に戻ってくるであろうミカエルとの適切な距離を保ち、医療を発展させる為に現場に戻ってきてほしいと思った。
あと、真木は雪山で何かを悟ったが、西條も無理に同じ事をして変わったり悟ったりする必要は無いと思う。
だって人の考え方は様々なのだから。西條は真木にはなれないのだから。むしろ西條は真木は、意見をぶつけ合っていた時を経て素晴らしい腕を持った医師として二人で執刀した時のように、意見を交わし合う仲としてやっていってほしい。
Posted by ブクログ
今回は心臓手術現場が舞台。
ロボット支援下手術のエース西條と、ドイツの世界的にも高名な心臓手術専門病院から招聘された真木、彼はメス捌きでは天才的な正確さとスピードを持っていた。彼らは難しい手術現場にどう向かったか、作者の人道的な姿勢が心地よい、これも読みどころ。
北中大病院(北海道中央大学病院)でロボットのミカエルを操って難しい心臓手術をこなしてきた自負を持つ西條。彼は北中大病院の看板であり重要な位置にいる。
病院は、ロボット(ミカエル)を使った手術を採用していち早く最先端医療を持ち込みその結果患者の不安を払拭し、実績を重ねていた。
北中大病院でのミカエルの執刀操作は別室で座って行い、長時間の立ったままの作業負担を軽くしている。接眼レンズに写る心臓を(15倍まで拡大できる)見ながら、両手でコントローラーを握り手術室のアームを操作する。器具はアームに取り付けられ交換しながら進めていく。
高価なミカエルを設置できる病院は少ない。しかしその力は多くの患者の支持を得て今ミカエル手術は北中大病院の西條と言われている。
今まで要請を何度も拒否していた真木が突然帰国し、西條が不在の折、彼の神業で手術を行っていた。
理由は西條の不在ということだけではない。彼は知らなかったがミカエルを使わない手術は真木を試すのではなく、病院の意向だった。
だが華々しい経歴を持つ経営者側の職員雨宮は、未来の医療はロボット支援下で成り立つと言っていたはず。
そこに房室中隔欠損症の男児が入ってくる。先天性の病気で幼児期に手術で治療していたが、成長に伴って弁の異常が発見されていた。
弁置換ならミカエルだと西條は確信していた。患者の負担も最小限で済む。
だが真木は弁整形術を主張した。真木は何よりも術法は早急な検査が第一、その後で決めるという。
本人と両親の希望でミカエルになるが、西條は万一に備えて真木に助手を頼んだ
病院の内部では、派閥があり昇進争いがあり、経営理念はやはり利益優先だったり、医療事故隠しもある。患者の地位にも配慮する。
ここでも巨塔は外見のように白くない、柚月さんは難しい医療の現場を読者の理解できる形に物語を創る。読みやすく現実的で小説であっても面白い。
真木と西條の少しうら寂しい生い立ちもはさんでいる。
それぞれの信じるところが、医師として個人的な人生観を異にする生き方の側面として書いているが上手く面白い。
ダブルキャストのようで、二人の対立と協調の姿勢もいい。医療にかかわる内部描写を含め物語の世界は現実とは多少違っていてもここでは楽しんで読んだ。
不在の折の真木の手術からして西條もなにかに薄々気がついている。読んでいて同じく気がつく。
柚月さんはミステリ作家だった。
ただ締めが少し緩いかも。もしこれを基にした続編の予定があるのなら徐々に明かされる部分もあるかもしれないが。
あれ、これで終わり?ということで。
連載されていたそうで話の締めを急いだのかも。
まぁいいか、初めて読んだ「臨床真理」に比べると面白さでやはり上を行くし。
Posted by ブクログ
ミカエルを使用した手術に絶対的な自信を持っている西條が主人公。
心臓手術に長けている真木が、ドイツから同じ病院へ来たことで、絶対的な自信や自分の信念に揺らぎを感じ始める。
航の手術を境に、物事が動き出す。
◾️良かった部分
ミカエルをめぐったサスペンス的な要素、病院内のギスギスした世界観など、先が気になりドンドン読み進めることができた。
登場人物のイメージもつきやすい描写が多く、読み進めるのは難しくなかった。
◾️微妙と思った部分
感情や行動を表すときに、勘であったり経験といった曖昧な背景で描写していたのが自分的には物足りなかった。
ミカエルを使い続けていた理由が癒着であったり、医療の未来というのがありきたりすぎたかなと思った。
◾️印象に残ったセリフ
真木の口癖でもある、「先のことはその時に考えればいい、今は目の前にあることをするだけだ。」
理由は、自分自身打算的に物事を考えてしまい、何事にもストーリーを作ってしまう癖がある。
それゆえに目の前のことに集中しきれずに、先のことを見越した平均点くらいの熱量でしか取り組めない。
目の前のことに集中することへの意志の強さであったり、刹那的とも言える考えが自分に足りない部分でもあるため、このセリフが印象に残った。
Posted by ブクログ
読み応えあった。
西條や真木をはじめとする医師たちの、医療や患者に対する真摯な姿勢に救われる思いだった。
ミカエルに全幅の信頼をおき、未来に期待していながらも、ミカエルの瑕疵の可能性に思い至った時に、患者のことを考え、真木に助手に立ってもらうことを選択した西條の心の柔軟性が良かった。
反発してるようでいて、出会った時から真木の医師としての姿勢をリスペクトしてしまう西條の人間性。
あと、西條が雨宮と安易に恋仲になったり、体の関係を持ったりすることがなくて安堵。もしそんなチープなことになったら興醒めだなと薄っすら戦々恐々としながら読み進めたけど、さすが柚木裕子、そんなことには一切ならず。よかった。