あらすじ
てつし、リョーチン、椎名……。中学生も恐れをなすワルガキ三人組、人呼んで「イタズラ大王三人悪」。三人が薬屋“地獄堂”ののれんをくぐったとき、異界への扉が開かれた! 謎のおやじに“力”をもらった三人悪は、上院町の怪異に次々と遭遇。事件を通して、この世の様々な不思議や人の想いの複雑さを受け入れ、一歩一歩、成長してゆく――。
地獄堂セカンドシーズン第5巻登場!
条西と上院で起こった少女連続殺人事件。三人悪は条西の小さな教会の神父・古田を犯人だとにらみ、監視を続けていた。そんなある日、古田が補導した少女達を教会に連れてきた。椎名とリョーチンは古田の犯行を危惧し無謀にも教会に潜入。古田に見つかってしまい地下室に落とされてしまう。リョーチンのメモを見たてつしは三田村巡査と教会に向かうが──。
おやじから預かった“業魔の石”。命をも奪われかねないその石を、てつしは使わざるを得ないのか!?
「業魔の石」編、完結!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
端的に言って、この(5)は最高だった。
正確に言えば、この「業魔の石編」が最高だった。
前シリーズの最終決戦、「vs死神編」に匹敵している、と断言したい、一ファンとして。
どちらが上か、そこは決め難いが、敵としての醜悪さは、私としては、死神よりも、今回、てつしたちが対峙した、人間の神父にして猟奇殺人鬼である古田の方が上回っていた。
確かに、死神も死神で、許されざる悪だった。己の役目を放棄するだけでなく、世界を支配するための力を欲し、人も魔も利用して、悪逆の限りを尽くしていた。ただ、その醜悪さが滲む恐怖は、人ではない存在だからこそ、種族が違うゆえに、人の常識が通じないモノ、そこに由来していた。
一方で、今回の古田は人間だ、種族としては。けれど、人間であるが故に、その欲はおぞましく、凄惨な悪業を重ね、しかも、血に酔い、死体を弄び、快楽を貪る、正に外道。それゆえに、ただただ、恐ろしかった。
そんな古田の、人の道を外れた邪悪さに気圧されながらも、恐怖よりも怒り、そして、何より、仲間を守りたい気持ちが勝ったてつしの決断と行動に、心が奮えなかったファンはいまい。
苦しんでいる人を多くでも助けたい、そんな覚悟を持って、これまで多くの怪事件に挑み、その結果を心身に刻みつけてきたてつしだからこそ、自分がどれだけ言葉で訴えようと、術で痛い目に遭わせようとも、決して改心しない、と確信できる古田の残虐性を目の当たりにして、これ以上、犠牲を出さない為に、「救わない」、それだけでなく、地獄に落とす、その選択をした、心の強靭さ、熱かった!!
間違いなく、このあたりを描いている時、みもり先生、脳汁がドパッてたな。
一端の術者として非情な決断を下せたてつしと、そんな弟の無鉄砲な行動に、本気で怒りを露わに出来る竜也の愛、二人の兄弟の絆にもグッと来るってんだから、もう、この(5)は最高、と評価するしかないではないか。
この台詞を引用に選んだのは、元から好きだったてつしが、もっと好きになったから。
小学生にして、ここまでの強さを持っているってのは、てつしが人の縁に恵まれているからだろう。
だから、てつしは、自分を強くしてくれる人が、凶悪な存在に傷付けられた時、最も、激しい怒りを露わにする訳だが、今回、てつしは、今まで以上の怒りで、激しい怒りではなく、静かな怒りでキレている。
小学生が、こんな目の据わり方をしちゃダメだろ、と思ってしまうほど、今回、てつしは古田の悪行を許せなかったんだろう。
一線を越える、この体験が、てつしに、どのような影響を与えるか、そこは解らない。
けど、てつしは、この怒りをコントロールし、今後、「相手を殺す」って選択肢が出現したとしても、安易に、そちらを選ばず、冷静に熟考して、自分の良心に従った選択をする、と断言できる。
何故かって? それは、てつしには、いつだって、リョーチン、椎名が傍にいるからだ。
『命と引き換える覚悟があるのなら・・・これは切り札だ・・・』
「止まれよ、ゲス野郎」
「・・・諦めの悪い子だね。泣き喚きもしない。恐怖に震えもしない・・・可愛げがないよ。さあ、もう終わりにしよう」
「地獄に行くのは」
『敵の業が深ければ深いほど』
「てめぇだよ」
『巨大な魔が降りてくる』
「アラト―――――ル!!!」(by地獄堂のおやじ、てつし、古田)
この台詞もぜひ、推したい。
アニメや漫画の中で登場する、煽り文句に対する返しの秀逸さを評価し、気にっている台詞を紹介するスレがあるけど、私としては、ぜひ、これを挙げたい。
「地獄も住めば都、だぜ、神父さん」(byてつし)
これもまた、てつしの覚悟の強さが見える台詞なので紹介したい。
てつしは学校の勉強こそ不得手ではあるが、決して、馬鹿ではないし、無知でもない。
人として大事なモノを、この年齢でちゃんと持っている。
そうでなかったら、人知を超えた存在と対峙する術師の世界には足を、自分の意志では踏み入れないだろう。
霊、妖、そして、神と相対してきたてつしは、その怖さを知っており、今回は、人の悍ましい面を見て、新たに学びを得た。
その上で、自分で選んだ道を進む、仲間と共に進んでいく、と決めた。
兄である竜也が、自分を、あれほど烈しく怒ってくれるほど愛しているのを承知の上で、その決断をして、あえて、それを竜也に表明するのは、最高だ。
しかも、竜也が、愛弟の覚悟を汲んだ上で、約束を交わしてくれ、と頼むのが、心を熱くしてくれる。
絶対、みもり先生、このシーン、感涙しながら描いてたわ。
「竜也兄・・・」
「ん?」
「ごめんな・・・俺な、幽霊を見た事あるんだ。妖怪も、死神だって、目の前で見た事ある・・・でもな・・・あいつが、一番、怖かった。超能力も、霊能力も持ってない、ただの人間なのに、妖怪よりも死神よりも怖かった・・・妖怪よりも死神よりも許せなかった。だから、俺、腹くくった。死ぬかもしれないって覚悟した。でなきゃ、勝負できなかった」
「・・・何故、そこまでする必要があるんだ」
「分かんねぇ・・・きっと、それが運命ってやつなんだ。竜也兄には、一番、心配かけると思う・・・ごめんな。でも、地獄堂のおやじが言ったんだ、俺には強い右腕と左腕がいるって。俺とリョーチンと椎名の力を合わせたら、俺達には三倍以上の力が出せるんだ。だから、俺達を信じてくれ。きっと、いつでも、どんな事でも、乗り切ってみせるぜ・・・!」(byてつし、竜也)
「・・・・・・一つ、約束しろ、てつし。俺より先に死ぬな。一分一秒でもいい・・・俺より先に死ぬなよ・・・!」
「・・・・・・約束する。絶対、約束する・・・!」(by竜也、てつし)
そして、これですよ、これ。
三人悪と地獄堂のおやじの間にある、師弟の絆、これはグッと来ます。
あのオヤジが、ここまで言う相手だったのです、殺人鬼・古田は。
改めて、自分達が、どれほどヤバい相手に挑んでしまったのか、を痛感した上で、親父の中にある自分達への愛を実感し、勝利と生還に感謝する、良いシーンです。
当人としては、師匠じゃない、と思っているんでしょうけど、こうやって、ちゃんと評価してくれるあたり、おやじは良い師匠ですよね、絶対。
基本的には冷酷だけど、無情ではなく、てつしたちの決断を見極め、懐へ迎え入れる、と決めた先達として、導く義務がある、と覚悟をしているのでしょう。
この誉め言葉を口にした時、親父はてつしたちに向けなかった顔に、どんな表情を浮かべていたんでしょうね、みもり先生。
「おやじ、俺ら、上手くやった・・・だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よくぞ、生きて戻った・・・・・・」
「~~~~~~~~~・・・っ!!」
(やっぱり、危険な相手だったのか・・・!生きて戻っただけで褒められるほど―――――・・・!!生きてて・・・良かった・・・!)(byてつしたち、地獄堂のおやじ)