あらすじ
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大阪で曽祖父の代から続くワイナリーを営み、発展させてきた母が亡くなった。美しく優秀な母を目標にしてきた姉の光実と、逃げてばかりの人生を送ってきた弟の歩は、家業を継ぐ決意をする。うつくしい四季の巡りの中、ワインづくりを通し、自らの生き方を見つめ直していく双子の物語。
感情タグBEST3
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ワインとはこんなに奥深いものというの、恥ずかしながら初めて知りました。
また2人の成長していくところもすごい感動したし、心に響く言葉がたくさんあった。
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すごい良かった。
ワインができるまでにはたくさんの苦悩があること、害虫や台風がもたらす影響、暑さや寒さと葛藤しながらの作業、本当に大変だと思った。
歩が自分の思いを日野さんにまっすぐに伝えた場面や、光実が日野さんに書いた手紙、結婚式での祖父のボイスレコーダーの言葉に感動した。葡萄の蔓と葉のウェディングボードが素敵。
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寺地はるなさんの作品で1番好きなものです!
あったかい気持ちになるし、主人公のワインへの愛が伝わってきて、お酒が飲めない自分がもったいなく思ってしまいました。笑
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残したくなるフレーズが6件ほどもありました。ぶどう農家の苦悩と喜びを素敵な文章で綴られていて、ぶどうに限らずすべての農家さんたちが、自然を相手に打ちひしがれたり喜んだりしている現実を、今までよりリアルに、これでも足りないとは思うけど少しはリアルに捉えられるようになったと思います。
「どう考えても君の方がふさわしい」と日野さんからマイクを受け取ってからの歩のセリフの全てが素敵で、感動的で、アドリブ力最高でした。ドラマチックな場面が想像できて泣けました。
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しっかり者で責任感が強い光実と、中途半端な歩の2人の物語は、歩の立場に共感しながらでした。若いうちは、いつか天職が見つかると根拠も無しに思っていましたが、そんなものはやはり無い。だからといって、頑張らなくていい理由にはならない。この世の仕事はすべて必要で重要。自分に言い聞かせるように読みました。読後感もとてもよく、心地のいいものでした。とても面白かったです。
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世の中にあるたいていのモノは、全て誰かの地味な作業によって生み出されている。
必要のない仕事は、この世の中に存在しない。必要出なかった、もうとっくに無くなっている。
情熱とは、仕事を続けていく上で徐々に喜びとか、面白さがわかってきて、その上で段々育っていく
就きたかった職業でなくても、真摯に、一途に、日々取り組んでいるとしたら、それはとても美しい生き方。
共感なんてもんは、何の役に立たない。ただ誰にでもいろいろあるということを理解するだけでいい。それが他人を尊重するということ。
うまくいかないことがあっても俺が悪いとは思わない。俺のやり方が悪かったと考え他のやり方を試してみる。
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すごく良かった。ラストの少し前にある出来事には、感動して陽の光やワインの煌めきがありありと目に浮かんで、泣いてしまった。
寺地さんの本は、悪人がギャフンと言わされることもないし「間違った」行動や言動が猛省される描写もないんだけど、伝えたい人にはちゃんと伝える、そこがいい。登場人物みんなが生きている、生きていく感じ。
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双子の関係がよかった。
じいちゃんの存在感もよかった。
読んでいて心地よい成長譚でもあった。
最後の手紙の喩えにはっとした。
最近、手紙について考えることがよくあった。
手紙のように、時間をかけて熟成する関係を大切にしたい。
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読むのに少し時間がかかりました。身近な人が逝ってしまって、喪失感が重なってしまって。スマートにはなかなかやれんし、意味なく落ち込むこともまだまだ、多々ですが、でも、回りに元気もらいながら、前に進みながら、、、だなー。
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素敵なお話でした。
双子の光実と歩が亡き母のワイン作りの後を継ぎながら成長していくお話です。
読みながら、光実の気持ちも歩の気持ちも
本当に痛いほどわかる気がしました。
兄弟や双子というと
つい比べられたり、自分でも勝手に比べて落ち込んだり仲がいいんだけどどこか複雑な気持ちもあったリ…
寺地さんの作品はどれも私の中にある誰にも見せていないような自分でも気づいていないような
感情に出会えるそんな気持ちになります。
ワイン作りの奥深さに感動しつつ、
光実や歩の周りの人たちの厳しい中に温かく見守る姿や言葉がけが本当に素敵で私も頑張ろうと
元気が出るお話でした。
Posted by ブクログ
曾祖父が興した会社「天瀬ワイナリー」の代表者であった母を突然失くした双子の姉弟、光実と歩。
姉の光実はできのいい子で、18歳の頃からずっと家業を手伝っていて、弟の歩は特にやりたいこともなく、アルバイトで日々を過ごしている。
性格も対照的な二人だけれど、歩は強引に光実に会社を手伝わされることになる。
大阪の架空の町が舞台の物語である。
ワインのもととなる葡萄の栽培、醸造、販売等々、人が一本のワインを購入し口にするまでにどれだけの時間と工程を経てつくられているか、家業を継ぐと一言でいうけれど、そうそう容易いことであるはずもなく、この物語を通してとても尊いものを見せられたような気がします。
地味で地道な毎日が淡々と続いていて、まだ30にも満たない若い姉弟に頭が下がる思いがします。
家族や友人、職場の人たちに支えられ、お互いに刺激しあってたどり着いた答えは、二人にしか出せないもので、タイトルの「月のぶどう」とはこういうことだったのかと納得できました。
光実と歩のこれからの人生が、月の光を受けるようにキラキラと輝いていてほしいと願っています。
Posted by ブクログ
ワインは無限に楽しめるお酒なので、
この人の書く文章で、
ワイン造りの工程まで楽しめて、
ストーリーで余韻を味わう1冊でした。
続きがまだ読みたいです。
歩とあずみの今後も気になるし、
希少な極甘ワインの出来るまでも
知りたい。
月のぶどうで造られた極甘ワイン。
想像するだけで嬉しくなる。
Posted by ブクログ
ワインてこうやって作るんですね!奥が深い…
自分を嫌ってる人にそんなに好かれたいのか?ここ個人的に刺さりましたね。よく考えれば現実でもそんなことはあって、何でわざわざ好かれようとしてんだろって目が覚めた感じがしました(⌒‐⌒) 自分を嫌いな人は何したって嫌いなんです。そんな人にわざわざ好かれようとしなくていいんだなと。
あと、日野さんいい味だしてますね(^^)/日野さんが上手い具合に物語を支えてるような気もします。
最後のお祖父さんからの手紙で涙ぐみました。
まさに結婚ってそうですよね。お祖父さん好きです。笑 歩も三実もこの一冊ですごく成長したと思います(⌒‐⌒) 頑張りすぎる人に読んでほしい本。
Posted by ブクログ
表紙とタイトルに惹かれて読んだ。お話の中でタイトルの意味がはっきりわかって、じいんときた。双子が主役の物語はたくさんあるけど、こんなにあったかくて、めんどくさくて人間くさい、愛おしい双子は初めてかもしれない。交互に視点が切り替わって互いの気持ちがわかるのがよかった。お酒苦手だけどワインが飲みたくなるおはなし。
Posted by ブクログ
映像化された画がみえる気がするような本。
できる姉と出来の悪い方の弟。
柔軟な発想でワイナリーの仕事で芽を出す歩の姿が、とても爽やかです。
頑なな光実を包む広田も、光実の不器用だけどまっすぐな姿が気持ちがいい。
爽やかな風と心地良い陽射しを浴びているような気分になれます◎
Posted by ブクログ
ワイン農園で働く双子の姉弟。母の意思を守ろうとする姉と特にワインに興味があるわけでもない弟。この2人の違いがいい。自然を相手にし、うまくいくこと。いかないこと。どうしようもできない出来事。そういうことを繰り返しながらワインを作り、自分の立ち位置を見つめる2人。1人で背負いこむ姉と1人ではまだまだな弟。でも近くに誰かがいるという救い。苦しくなる時、逃げ出したくなる時にそういう存在がいることの心強さ。たくさんの工程を経て熟成して作られるワインのように、たくさんの人と出逢い、感情を知ってその人の味が作られ年々深くなっていく。新しいことを始めるワクワクと恐怖。でもその先にあると信じるもの。さまざまな想いが溢れ作られるワインはとても魅力的に思える一冊。2人のおじいちゃんが仕掛けるしょうもないイタズラとそのときのおじいちゃんの嬉しそうな顔が好き。
Posted by ブクログ
ワイン好きなので、ワイナリーが舞台というだけでとても楽しく、興味深く読んだ。葡萄の棚が続く丘を思い浮かべるとそれだけで気持ちが清々する。
親子や兄弟間の思いやり合い・葛藤などは、どこの家庭でもあるような問題ではあるけれど、家族経営の会社などはそういう問題がより濃く出るのかもしれない。
とにかく、できることや、やらなければならないことをひたすら続けること。進むこと。そういうことが大切なのかなと思う。
「嫌なことからも面倒なことからも、逃げ続けることはできません。受け止めるしかない。怖がって目逸らしたらあかん。逸らしてたら身体のどこにぶつかってくるかわからん。大怪我するからな。しっかり目開けてみろ。よう見て、しっかり受けとめて、いろんな角度から観察してみなさい。正体がわかったら、あとは叩き潰すなり、よそに放り投げるなり、煮て食うなり焼いて食うなり、好きにしなさい。
(略)
ふたりでも受け止められへん場合は、今日のことを思い出しなさい。そこにいる人たちのことを。お前たちのためにどれだけの人が集まってくれたか。どれだけの人が力を貸してくれたか。ひとりっきりでもないし、ふたりっきりでもありません。お前たちは。」333〜334頁
それともう2つ…共感したり、心に残ったりしたところ:
1.歩くんが日野さんに果敢に交渉にいくところ(217頁辺り)。日本は仕事の仕方が属人的すぎると私もよく感じる。「他の人が真似できない至高の技を持つ職人」が尊敬されるのはわかるけれど… 特に企業は組織で動いている以上属人的すぎるのは良くないと思うのだけれど、意外とまだそういう仕組みで動いている会社が多いように思う。
2.あずみちゃんと彼女の母親との関係についての歩くんの考え方「自分の母親にこういう問題点がある、と把握することは、自分の母親を否定することとはちがう。それは、わけて考えた方がいい。」(265頁)
上から目線の言い方になってしまうかもしれないけれど、日本人って「こうと決めた以上は全てを呑み込んで突き進むべき」みたいな潔癖な考え方をする人が多いような気がする。もう少し割り切って柔軟に考えてもいいんじゃないかと思う。
寺地さんとは同年代。田辺聖子さんが好きなのも同じ。読んでいて違和感やストレスを感じないので、たいへん読みやすい。
Posted by ブクログ
ワインを作る描写を交えながら、姉弟それぞれの葛藤や成長が描かれた作品です。淡々と日常が綴られていきます。嵐の日もありますが、淡い緑色に覆われた葡萄棚から爽やかな香りを感じさせてくれました。
Posted by ブクログ
人に対する優しさやひたむきに頑張ることの大切さや人と関わることの難しさなどが丁寧に書かれていて優しい気持ちになれる作品だった。ワイン造りの勉強にもなった。
ただ、色々なエピソードについてもう少し掘り下げてもらいたかった。それぞれの抱いているコンプレックスや人生観の裏付けが理解しにくかった。
Posted by ブクログ
しっかり者だが頑なでいろんなものを1人で
抱え込んでしまう姉の光実
小さい頃からできの良い姉と比べられて
逃げてばかりの人生を送ってき た弟の歩
ワイン造りって結局はぶどうをどれだけうまく
育てられるかにかかっているようなところがあって
本当に手間のかかる作業。
日野さんはそのぶどう作りのリーダー的な存在で
母がなくなったあとはすべてのことをこの日野さんに
教えてもらいながら進めている状況
職人あるあるなんだろうけど
なんていうかこういう人たちって教えたり
育てるのが下手ですよね。(私の偏見)
見て覚えろ、
やり方を盗んで覚えろ的な
もちろん意味がある場合もあるので
全否定はしないけど
丁寧に教えたほうが
早く育ってくれるし自分も楽やんって
思うのだけどね。
光実のほうは小さい頃からよくできる姉
それはそれでなかなか窮屈
意地張って突っ張り続けたら
いつかはポキっとおれてしまう。
人に平気で弱みを見せてしまう歩の方が
案外強いのかもしれない。
そんな2人の成長物語みたいな話でした。
Posted by ブクログ
★3.5
お仕事×兄弟ものの中では一番好印象。
ワイナリーでのワイン手作りのあれこれ。香りと色が体感できるような文書。作り手視点の文章は馥郁たる想いに浸れていい。
Posted by ブクログ
少し前に、m.cafeさんのレビューを見て「読みたい」に入れていた。
大阪でワイナリーを営んできた家族のお話。中心となって切り盛りしていた母親が突然帰らぬ人となり、双子の姉弟が中心となって遺された家業を継いでいく。
大阪でブドウづくり?と思ったので調べてみたが、府のホームページには『栽培面積全国第9位、収穫量全国第8位を誇るぶどう産地』と書いてあるのを見て、認識を新たにした。
物語の中では『先のとがったブーツのような大阪府の地形の、ちょうどかかとのあたり』とあり、それだと河内長野市や千早赤阪村あたりになるが、実際には柏原市、交野市、枚方市で栽培が盛んらしい。意外と近くでやっていてちょっと驚く。
とても佳い話だったが、優等生でも頑なな姉・光実がほどけていくのも、出来の悪いほうの弟・歩がしっかりしていくのも、周りの人たちのありようも、ブドウから作り始めるワインづくりの過程が丁寧に描かれるのも、概ね定石通りに話が運び、あまり面白みはなかった。
その中では、歩とあずみの恋とも言いにくい関係の切なさと、現場から軽く見られている経理屋の父親がしっかりものが見えててけっこう腹も据わっているところが良かった。
Posted by ブクログ
母が急逝し、家業のワイナリー経営に奮闘する、見た目も性格も違う双子の姉弟。 完璧主義で人に頼るのが苦手な姉・光実に似たものを感じ自己を省みた。 「人に弱みを見せられるというのは、むしろ強いということ」 メモしておきたい言葉が沢山ありました。
Posted by ブクログ
『「できる人」が死んでしまうと、その人の「できること」も死にます。』
歩が、母の死をきっかけにワインをつくること(自分の生き方)と向き合っていく中で、光実は母の死と、自分とワインについてを見つめ直していく…そのきっかけが日野さんへの手紙だったように思う。
登場人物が、みんなまさにワインの風味のような豊かさ!それぞれの表も裏も人間味があって好き。
Posted by ブクログ
最初は頼りなかった歩が、いつの間にか「できる方」だった光実を追い越して、芯のある青年になっていくのが、眩しかった。
「うさぎとかめ」の童話を思い浮かべたが、負けたうさぎにだって挽回の余地はある。歩を応援しながら読んでいたはずが、途中から「光実、がんばれ」と思いながら読んでいた。
いつだって頑張る人は、キラキラと眩しい。
Posted by ブクログ
『夜が暗いとはかぎらない』で寺地はるなさんにすっかりハマって、著作を少しずつ全部読もうとしている最中です。
『ぶどうのなみだ』という映画が何年か前に公開されたのは知っていましたが、その原作が寺地はるなさんのこの小説とは知りませんでした。
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出来の良い頑なな姉と出来の悪い柔軟な弟、祖父や父、姉弟の友人達、伯父、など、個性的かつ魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。
双子の出来の悪い方と言われ続け、どんな仕事も続かなかった弟が、段々と家業のワイナリーの仕事に本気になっていく様子もいいし、出来のいい方と言われ続け、他人に弱みを見せられなかった姉が少しずつ変わっていく様子もいい。
寺地はるなさんらしいグッとくるセリフもあり、テーマもわかりやすく、お話としてのまとまりもいいです。
取り立ててここが不満、というところは無いのですが、『夜が暗いとは…』や『わたしの良い子』を読んだ時のような満足感には少し遠かった。
出版されたのはこちらの方が2年くらい前なので、段々と作品の完成度が高くなっている途中の作品だったということなのかも。先に読んだ方をあまりに気に入ってしまうと、どうしても比較の目線が出てしまって良くないですね。
Posted by ブクログ
知識なし、経験なし、興味なし、そしてやる気もない『できがよくない方』とされる弟・歩、対照的に、知識あり、経験あり、興味津々、やる気の塊りのような『できがよい方』として育った姉・光実。そんな二人を結びつけるキーワードが双子。家族の、そしてワイナリーの大黒柱だった母親の急死によってそんな二人の位置づけ、関係にも変化が訪れます。それを淡々と描いた静かな物語。
『世の中にある華やかなものは、すべて誰かの地味な作業によって生み出されているのだ』、ワインというと華やかで洗練されたイメージがまず浮かびますが、それが作り出される舞台裏の極めて地味で地道なワイナリーの人々の一年が描かれていきます。寺地さんの丁寧な取材の賜物と思われるその描写はとってもリアル。光実の『ワインが生まれる時の産声。生まれてくる手伝いをしてるだけって思う。』というとっておきの瞬間の描写にハッとさせられます。
神様もヒーローもいなければ悪魔も決定的な悪人も出てこない。どこにでもある風景。ここはファンタジー世界ではないから、そこここにある現実だから。誰も逃げられない、もがいて苦しんでも前を向いて歩いていくしかない。
そんな苦しみの中にいた歩に訪れる転機、『この人に、負けたくない。手のひらに爪が食いこむほど拳をかたく握りしめて、歩みは思った。』人は機会を掴むと強い、速い、そして負けない。一方で、自分の立ち位置が絶対と思っている人ほど脆い、何も見えていない。『ずっと自分の後ろを歩いていると思っていた歩が、いつのまにか自分の先を歩いている。どのようにして、歩は自分を追い抜いていったのか。』とふと気づく光実。でもこの物語には勝者はいない。極々普通の日常だから。追いつき追い越し、また追い越され、それがヒーローのいない日常、人生。
『大切やない、必要のない仕事はない。必要でなかったら、それは職業として成立せんからな。』という祖父の言葉を含め、就職活動を始めようとする学生さん、今の仕事に迷いを感じている人、そんな人生の転機にある方に是非読んでいただきたいと感じた作品でした。
最後に…。この作品の敵は刺激に溢れた日常、刺激を求める感情かもしれません。一見、あまりに淡々とした山も谷もない、丘さえもない平板・平坦な作品だからです。でも、長い目で見れば人生ってなだらかな大地のようなものだと思います。
だからこそ、感じるものがある。動かされる感情がある。そんな作品でした。