あらすじ
大阪の心斎橋からほど近いエリアにある「空堀商店街」。そこには、兄妹二人が営むガラス工房があった。兄の道は幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で、「みんな」に協調したり、他人の気持ちに共感したりすることができない。妹の羽衣子は、道とは対照的に、コミュニケーションが得意で何事もそつなくこなせるが、突出した「何か」がなく、自分の個性を見つけられずにいる。正反対の性格である二人は互いに苦手意識を抱いていて、祖父の遺言で共に工房を引き継ぐことになってからも、衝突が絶えなかった。そんなガラス工房に、ある客からの変わった依頼が舞い込む。それは、「ガラスの骨壺が欲しい」というもので――。『水を縫う』『大人は泣かないと思っていた』の寺地はるなが放つ、新たな感動作! 相容れない兄妹ふたりが過ごした、愛おしい10年間を描く傑作長編。
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Posted by ブクログ
私自身も羽衣子と同じように、道は特別だから、障害があるけど輝くものを持ってる、と思ってしまっていた。ハッとさせられた。
あっという間に読み終えたし、没頭しすぎて現実に戻るのが大変なくらいだった笑
Posted by ブクログ
ほのぼのからも殺伐からも程よく離れた温度感の綺麗で澄んだ話だった。余白が残されていて色々掻き立てられる。
光多おじさんの葬式がコロナに被っててよかった。人望がなくて集まらなかったのを誤魔化せるから。コロナのせいにできる。そして生前刃を全方向に振り回すような言動するような人でも、息子からしたらたった1人の父親で大切な存在だったんだということも伝わるシーン。
誰かにとってはどうでもよくて嫌な奴でも、また他の誰かにとってはかけがえのない大切な人。1人の人物のなかに同時に成立する。そういった意味でも、誰もが「ふつう」で「特別」なんだ。
それから、救いってどこに転がっているかわからないな、と。言葉を尽くしても的外れだったり、相手を見ているようでただ自分がかつて欲しかった言葉を与えてしまったりして、届かない響かないことが多々ある中で、意図しない何か小さなときめきだとか約束が都合よくぴったりハマって誰かの希望になることもある。
道のいうとおり他人の感情って自分ではコントロールできない天気のようなものだ。でもだからこそ、偶然や不確かな巡り合わせによって人と人が共鳴しあう瞬間には奇跡が詰まっていて、美しいと感じるんだろう。
優劣も善悪もそういう価値観は全て自分に都合がいいかどうか、見たいものを見て捉えるのが人間である。横たわっている事実に意味を付与して願望を投影して、そうしないと打ちのめされてしまう弱さがあるんだと思う誰にでも。それをせず事実をただ事実としてみて囚われない道の異質さが終始際立っていてとても眩しかった。
Posted by ブクログ
他人の感情は天候と同じものという道の一言がその通りだなぁと感じました。
コントロールできないものだと思って付き合うくらいがちょうど良い。
Posted by ブクログ
ういこが少し自分の状況に似ていて自然に話が入ってきた。
わたしは羽衣子ほどなんでも卒なくできないし、兄ともそこまで歳が離れていないし、理解のない父もいないから、羽衣子ほど激しい感情はでないのだけれど。
別視点として三田村くんの心情が描かれているものが読みたいと思った。全体を通して死というものが物語の鍵を握っている。三田村くんは幼くして父を亡くしたそうで、意図的に悪さをした、ただそれだけではないと思いたい。
が、お話としてはこれでいいのかとも思う。
Posted by ブクログ
ガラス製作の溶解炉から放たれる熱は1300度以上。
まぶしい炉をひたすらに見つめ、ガラス職人は作品と向き合う。
それは「燃える海」へ漕ぎ出す小さな小舟に例えられている。
頭で描いた通りになることはないけれど、思い描くゴールの方向へ、ただひたすらにオールを漕ぐしかない……
ガラス職人の静謐な心理描写が貴いと思った。
物語は、
祖父のガラス工房を引き継ぐことになった兄と妹のお話。
ガラス職人として、人として、成長していく二人を見守るように読み耽った。
兄の道は、おそらく発達障がいを抱えていて、誰からも理解されない、理解できないという苦しみの中で生きている。
一方、妹の羽衣子は、いわゆる「きょうだい児」の苦しみを抱えて生きてきた。
お互いに嫌悪感と妬ましさを抱いて再稼働することになった工房で、
骨壺を作りたい道と、
骨壺に関わりたくない羽衣子は、
同じ方向に向かってオールを漕ぐこともままならない。
そんな二人が、身近な人たちや骨壺をオーダーする人たちの生と死に触れる中で少しずつ歩み寄る。
ガラスの海は孤独な海ではなかった。
他者のことを理解するなんて難しいし、
スキルや技術が望み通りにすぐに上達することもない。
それでも、兄妹ふたりでオールを漕ぐことを諦めない。
不器用にぶつかり合いながら絆を強くする兄妹の姿に、最後にはなんだか励まされるような気持ちになった。
空気読めないのに本質を突いてくる道のちょっとした言葉もまた心に沁みた~
Posted by ブクログ
【あらすじ】
大阪の心斎橋からほど近いエリアにある空堀商店街にソノガラス工房があり、祖父が亡くなった後にそこを継いだ兄妹二人(兄:里中道、妹:里中羽衣子)がいた。道は幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で、協調や共感したりすることができない。羽衣子は、道とは対照的に、コミュニケーションが得意で何事もそつなくこなせるが、突出した「何か」がなく、自分の個性を見つけられずにいる。正反対の性格である二人は互いに苦手意識を抱いていて、祖父の遺言で共に工房を引き継ぐことになってからも、衝突が絶えなかった。両親は道が13歳、羽衣子が8歳の時に別居し、後に父親は再婚する。母親はレシピ本をだす料理研究家:里中恵湖として大阪と東京を行き来している。
祖父が在籍していたガラスの専門学校の同級生、繁實は「繁實ガラス製作所」でグラスや食器をつくることを生業としており、兄弟をサポートしてくれていた。
羽衣子の彼氏相沢まことが他の女性とイチャイチャしている現場をみた羽衣子は道に相談し、道と羽衣子がまことに別れを告げに行く。そして恵湖の兄、光多おじさんが家の相続の話で工房に来て暴れた時などの様々な経験の中で、兄妹は本音で話し合い、骨壺をガラスでつくるのを嫌がっていた羽衣子は受け入れるようになったり、よきパートナーになっていく。
【感想】
読みやすくて兄妹愛のいい話ではあったけど、心揺さぶる涙が出るほどの感動はなかった。