あらすじ
〈私には、非行少年少女や受刑者の多くが人生の偶然や不運に翻弄されているように見えた。そして、人生のほんのわずかな何かが変わっていれば、自分も少年院に入って反対側の椅子に座っていたかもしれないと感じていた〉刑務所や少年院などの受刑者・被収容者の中には、精神障害が理由となって法を犯した者もいれば、矯正施設という特殊な状況下で精神障害を発症する者もいる。しかし、受刑者たちの治療の前には、つねに法の「平等主義」が立ちはだかってきた。親の顔も知らずに育った青年。身寄りもなく、万引きを繰り返して刑務所と外の世界を行き来する老人。重度の精神障害のため会話もままならず、裁判すらできずに拘置所に収容されつづける男性――。著者は精神科医として、矯正施設でありとあらゆる人生を見てきた。高い塀の向こうで、心の病いを抱えた人はどう暮らし、その人たちを日夜支える人々は何を思うのか。私たちが暮らす社会から隔絶された、もうひとつの医療現場を描くエッセイ。
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Posted by ブクログ
分類は刑事法の中の矯正ということになってますが⋯まぁエッセイですね。
タイトル「刑務所の」とありますが著者が勤務されていたのは医療刑務所だったり少年刑務所だったりで、収容されている人たちの犯罪の種類や重さもさることながら、年齢や病気の種類、病状の軽重など実に様々な人たちと関わってこられたことが綴られています。
他にも大学の先生になられたり頼まれて精神科病棟の医師になられたり様々な場所で受刑者だけでなく一般の精神病やADS患者、認知症と思われる高齢者などに関わられたということで、実務の中でしかわからない興味深い話がたくさんありました。
様々なケースを語られる中で「こういう点についてこうしたらいいと思うが」や「このあたりのことは外国と日本の違いがあって考えさせられる」や「こういうやり方がいいと自分は思って周りに聞いてみたが」というような、ここを改善したらいいのではという意見や提案や問題点の指摘などもあり、確かにそうだなと思うこともあったけれどだからこういう啓発をしたとか、どこかの機関に働きかけたとか、提言を挙げて改善に努力したということはなく、その点でも実用書や教養書的位置づけというよりはやはりエッセイですね。
頷くところはとても多かったです。
洗練された心理学的手法ではなく福祉的な配慮と根気強い支持的な対応なのである(p55)
医療刑務所に収容されるような人およびその家族に必要なものはそういうことだと自分も思うが、そのようなところに収容される事態になるまでに福祉的なところと繋がってそのような対応をされてきていたなら、そもそも刑務所に収容されるような事態にはならないで済んだだろうにと思えてしまいました。
精神鑑定が必要かもしれないと思われる被疑者であっても精神鑑定を受けていない、受けさせていないケースがほとんどだということには衝撃を受けました(著者の勤務していた当時で今も同じかは分からないが)
刑法39条をきちんと運用するなら被疑者の精神状態の評価のために精神鑑定というものが公平に運用されるべきだというような提言には深く頷きます(p84)
精神障害が疑われる被疑者の司法手続きや処遇が標準化されないと空しい(p89)著者のやりきれなさを感じます。
読んでいて時代を感じたのは、ADSが母親の育て方のせいにされていたということ(p119〜)かなりの長い期間、自閉症は育て方の問題とされて本当に多くの親たちが苦しんできた歴史があります。現在でさえも、自閉症について関心や知識のない人にはそのように誤解している人がまだ少なからずいます。
医学的にまだ分からなかった時代の話とはいえ辛い話でした。
そういえばその前段で触れられている(p115〜)アスペルガー障害という言葉も、一時流行りのようにあちこちで耳にしたものでしたがいつの間にかぱったり聞かなくなりました。その始まりと廃れていった経緯が本書を読んでよく分かりました。
(p136)受刑者を医療施設へ移すということの困難さ(その費用をどこで持つのか、誰が対応し手続きをするのかなど)は如何にも日本的だなと思いました。
触法精神障害者などの対応も福祉なのか司法なのかどっちつかずになっているケースがとても多いと思います(司法福祉という対応の仕方が導入されてきた地域も増えてきてはいるようですがまだまだ公平とは言えないのではないかと)
(p148)法律の論理と医療の論理は違うのだと実感した
フィンランドの刑務所の章はルポでしょう。(p162〜)
生まれた子供をそのまま刑務所で母親が育てることができるということに衝撃を受けました。そういう国があるのだなと。福祉が進んでいる国の考え方は違うなと思い著者がいうように子どもの人権について考えさせられます。でも日本ではやはりそのようにすることは考えられないでしょう。
文章がところどころ自分には冗長に感じられる個所がありましたが、貴重な記録だと思います。
Posted by ブクログ
この前クリニックへ行ったとき、女医の言葉で分からない点があったけど、この本を読んで合点が行きました。
メンタルクリニックへの通院のハードルが下がり、通院患者の増加とともにメンタルクリニックが増え、その経営のため、うつ病の診断を出される人が増えた面もあるかも、てな記載を見つけたとき、俺と同じことを考えている精神科医もいるんだと苦笑い。
収監者に、精神疾患や発達障害を抱えていたり、虐待を受けていた少年少女や、認知症の高齢者が多かったみたいのもあったけど、著者がかかわっていた時期から20年はゆうに経っているから、今はもっとでしょうね。