あらすじ
僕だって、戦争へ行けば忠義をつくすだろう。僕の心臓は強くないし、神経も細い方だから――映画監督を夢見つつ二十三歳で戦死した竹内浩三が残した詩は、戦後に蘇り、人々の胸を打つ。二十五歳の著者が、戦場で死ぬことの意味を見つめ、みずみずしく描いた記録。第36回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
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Posted by ブクログ
[未知にたじろいで]23歳の若さで戦死した竹内浩三。彼が生前に遺した詩や手記の数々に共感を覚えた著者は、それらを手がかりに、自らが経験したことのない戦争の実像、そして竹内にとっての戦争とは何であったのかに迫ろうとする。いわゆる「戦争を知らない」世代に属する人間が試みた、切ないまでの模索を描いたノンフィクション。著者は、本作によって、26歳の若さにして大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した稲泉連。
不勉強にして竹内浩三の名前と彼の作品を知らなかったのですが、厳しい世相の中での素朴な心情の吐露と柔和な言葉遣いに、著者や本書で登場する人物同様、自分も衝撃を覚えました。大きな物語としての戦争ではなく、小さな物語としての戦争が当時どのようなものであったかを考える上で非常に感じるところが多かったです。竹内の詩をめぐるドラマの数々も、少し不適切な表現かもしれませんが、何か運命じみたものを感じ、彼が非業の死を遂げたことに対して、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちにさせられました。
「戦争を伝える」、「戦争の記憶を語り継ぐ」という言説は多く見かけるものも、その先代からのメッセージを受け取る側がどのように解釈し、そしてときに「戦争を知らない世代」と位置付けられることへのコンプレックスを抱えながら格闘しているかを知る上でも有益な一冊。いくらもがいても戦争を知らないという事実を前にして、それでも往時の人々の心に迫ろうとした著者の労苦には本当に頭が下がるとともに、同世代の一人して自らもその姿勢を学びたい思いでいっぱいになりました。
〜人一倍弱かった彼は、「ぼくの戦争を書く」と決めないことには、兵隊として戦争に行くことを心から受容することができなかったのかもしれない。しかし、それは兵隊であると同時に、”詩人”としても生きていく方法を、彼が見つけ出したということであると思う。〜
これだけ著者に共感を覚えた作品も珍しい☆5つ
Posted by ブクログ
単なる評伝ではなく、竹内浩三に関わった人々…著者自身も含め…の、浩三との関わりがその人たちの人生に及ぼした影響にまで、丁寧に踏み込まれていて良かったと思う。戦地での死も、空襲を受けた日本での死も、生き残った人たちのその後も…たくさんのことを改めて考えさせられた。