あらすじ
失踪した父と同時に消えた自転車の行方を追う「ぼく」。台湾から戦時下の東南アジアへ、時空を超えて展開する壮大なスケールの物語。
※この電子書籍は2018年11月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
文章が読みやすい。スラスラ入ってくる。自転車の挿絵も好き。
2台の自転車を巡る壮大で入り組んだ年代記だった。
父→ムーさん→サビナ→アニー→林檎の主人→ナツさん
銀輪部隊?→老人→アッバス
各所で様々な人生が交差していた。登場人物が多くて理解が甘い部分は少しあるような気もする。だけどそれがいい、あまりにも単純な繋がりでは面白くない。
ある物事について過去の歴史を紐解いていくスタイルが結構好きなのかも。主人公たちはヴィンテージ自転車の魅力に強く惹かれている。専門家となるほど情熱を捧げていることを羨ましく思った。
前作で主人公が残していった自転車の行方を問われたことから書かれた小説だとされている。前作も読みたい。
母の病室で自転車を漕ぐシーンは幻想的。息を呑む間もなく場面が切り替わる印象を受けた。時代も場所も異なる人々に思いを馳せて主人公は自転車を漕ぐ。母がその姿に昔の父を重ねる結末を素直に受け止めることができた。父の影を追い、主人公は何かしらの点で父に近づき、わずかながらも父を理解したのではないか。そんなことを暗示する結末だと思った。
Posted by ブクログ
非常にすぐれた文学作品を読み通したという感じがする。
小説家の「ぼく」が、失踪した父の自転車を探し求める中で多様な人々と交流し、彼らの物語が重層的に折り重なることで豊穣な小説空間を醸成している。大戦中のマレー半島における日本軍の行軍や、戦火に翻弄されるゾウの運命にまで話は及ぶ(ゾウの視点で語られた特異な章も一つある)。この作品の主題のひとつとして、時間の重層性に対して我々がどう向き合うか、ということが挙げられよう。自転車のレストアという営みを通じ、昔を懐かしみつつも時の流れに伴う変化を尊重する立場が描かれている。
今回はプロットを追うのに必死で細部の読み込みが不完全燃焼になってしまった。他日、再読したい。
Posted by ブクログ
ぼくの父は、兄の高校の合格発表の時、ぼくを小児科に連れて行った時と自転車を無くし、最後は幸福印の自転車と共に失踪した。古い自転車を集め、部品を集めて修理するぼくは、失踪した父の自転車と再会する。その持ち主にたどり着くまでの人々の歴史、その人々と自転車との歴史は、チョウを工芸品にして生きる人々と、ビルマやマレーシアでの太平洋戦争でジャングルの中を彷徨う人々と、戦争に巻き込まれるゾウや動物たちと動物を愛する人々と、話がつながっていく。
話が広がりすぎて、誰が誰と繋がっているのか追うのが大変だったので、人物関係を整理しながら読み直したい。ものすごく広がった物語が関連しあって収束していく、物語の回収の仕方がすごい。
キーワードは「時間」だと思う。古い自転車を塗り直し新しいものに変えてしまうのは、その自転車の時間の継承を断ち切るものだ、とナツさんは言う。廃品やゴミのようなものを回収する古道具のコレクターのアブーも、はるか昔にバスアが埋めた自転車を抱き込んで大樹となったガジュマルも、時間の積み重ねを大事にしている。ガジュマルのまわりには人の魂が寄ってくると沖縄で聞いた気がするが、一つのものに込められた人の魂、歴史、思いを、掬い上げる小説、と言う気がした。「哀悼さえ許されぬ時代」に。ゆっくり読み返したい。
Posted by ブクログ
重厚で濃密。
戦争と自転車、ゾウと戦争、チョウの話…知らないことが多すぎて、いろんな目が開かされた。
そして、アジア史は日本が敵なのか味方なのかがコロコロ変わるので、頭の切り替えが難しい。
でも、読み進めざるを得ない圧倒的な力を感じた。いつか再読して、きちんと理解したい。