【感想・ネタバレ】甦るロシア帝国のレビュー

あらすじ

帝国を解体させたイデオロギーがわかる!

若き外交官として崩壊前夜のソ連に着任し、抱いた恐れ――ロシアはいずれ甦り、怪物のような帝国になる。その現状を大幅増補!

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Posted by ブクログ

甦るロシア帝国
著:佐藤 優
文春文庫 さ 52 3

大書、いろいろなものがつまっていて、道を見失いそうになる
民族、宗教、習慣、さまざまな観点から、ソ連を分析し、考察している
佐藤氏がモスクワでみたソ連崩壊に関する考察である

皮肉にも、ソ連は、アメリカなどの西側からの攻撃ではなく、内なる原因において自壊をしたのである

ソ連崩壊について

1 経済政策の失敗
2 民族政策の失敗

でもそれだけではない

モスクワ大学のエリート学生たちは、自らの能力を、自己の栄達のためだけではなく、世のため、人のために使いたいという意欲を強くもっていた

ソ連帝国は自壊したが、ロシアがいずれ甦り、怪物のような帝国になるのではないかという恐れを抱いた
この恐れは、2000年にプーチン大統領が選出され、現実となった

気になったことは以下です

■モスクワ大学哲学部

・ソ連共産党は、表面的には科学的無神論を掲げながらも、宗教研究を重視していた
 学生のほとんどは、ロシア正教の隠れ信者で、教師たちもそれを黙認していた

・ペレストロイカ政策が進むにつれて、科学的無神論という概念自体が時代に合致しないことが明らかになった

・ソ連共産党とロシア正教会の和解がなされたことを受けて、科学的無神論学科も、宗教と自由思想研究学科、と改称した

■閉鎖核秘密都市の女子学生

・閉鎖核秘密都市に居住している住民は、外部に自分の住所を知らせてはいけないことになっていた
 連絡はすべて、職場の私書箱を通じて行われることになっていた

・ロシア語で「私書箱」のことを、「ポチュトーブイー・ヤーシク」と言うが、これは隠語で、国家秘密に関与する仕事を意味した

・赤い卒業証書、とは、主要学科のみならず、体育、音楽を含め、すべてが、5の生徒に対して発行される真っ赤な紙に刷られた卒業証書である。各州に2,3人しかいない

・周囲で知識人たちが、経済的に苦しんでいる姿を見ることに、耐えられなかった

■ソ連科学アカデミー民族学研究所

・民族紛争も深刻化していた。ブレジネフ時代に民族問題は、一応、解決済みということにされていた
 しかし、アゼルバイジャン共和国で、ナゴルノ・カラバフ問題が噴き出して事態は収拾不可能になりつつあった

・この問題をソ連政府が首尾よく解決することができなかったため、ソ連各地で民族紛争が発生し、少数民族のソ連からの離脱傾向に歯止めがきかなくなった
 その結果、ソ連帝国は自壊したのである

・キリスト教の真理は、楕円構造をもっている
 イエス・キリストにおける「神性と人性」、救済のための「信仰と行為」など、キリスト教の主要命題は2つの焦点をもっていることが多い

・ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャンに帰属するが、アルメニア人による自治を尊重するということで妥協した。
 ちなみに、1920年時点で、ナゴルノ・カラバフ自治州の人口の94%はアルメニア人であった

・1987年にナゴルノ・カラバフ自治州の住民が、同州をアゼルバイジャンからアルメニアに帰属替えすることを要求した
 これに応え、アルメニアの首都エレバン市でも大規模集会が行われるようになった

・ソルジェニーツィンの収容所列島、じつは、シベリアではなく、場所はモスクワであった

■エトノクラチヤ

・エトノスとは衣食住、宗教、神話、生活習慣などを共有する人びとの集団がもつ特徴をいう

・エトノクラチアとは、「純粋な血筋」であると認められるものが、そのエスニック集団が居住する地域においては、政治、経済、文化など、すべての領域を排他的に支配するというものである

・エトノクラチアの悪い点は次の2点
 ①排外主義につながりやすいこと
 ②官僚の水準を引き下げること ソ連では、熾烈な競争で、トップを目指すのに、それがなくなってしまう

■バクー事件

・1989年12月31日ナヒチェバンとイランの国境が群衆によって破壊され南北のアゼルバイジャン人が交友する事態が生じた

・1990年1月20日ソ連軍は、その現場であるバクーに戦車隊で突入し、100名を超える死者がでた。
 これを「バクー事件」という

・プラハでもソ連軍は、死者を出した。しかし、ソ連軍の戦車が非武装の市民を、公衆の面前でひき殺すようなことはなかった

■主権宣言

・自国民を戦車で殺害するような中央政府の支配下にはいたくないとのいう気持ちが、ソ連軍による、アゼルバイジャンへの軍事介入を契機に強まった

・1990/03/11 リストニア独立宣言
・1990/03/30 エストニア独立宣言
・1990/05/04 ラトビア独立宣言 等々

■境界線上の人間

・セリョージャがもっとも恐れたシナリオは、ロシアで排外主義的ナショナリズムが出現することだった
 ロシア人によるロシアを実現しようという運動が起きることである

・1991年に入るとソ連の民族紛争は深刻さを増した
 01/13 にリトアニア共和国の首都ビリニュスで発生した「血の日曜日」事件が情勢を質的に転換した

・「血の日曜日」事件に現れたゴルバチョフの強硬路線への傾斜に反発して 1/29 エリツィンは、テレビインタビューでゴルバチョフ大統領の退陣を要求した
 そして、ソ連は、1991年12月に崩壊してしまうことになる

■もう一度マルクスへ

・セリョージャとの対話を通じ、「ソ連は自壊した」ということを私は確信するようになった

・セリョージャは、ソ連崩壊を理解するために、9つの論点を押さえておかなくてはならないというのがセリョージャの考えであった
 ①ソ連は非常に窮屈な全体主義体制だったこと
 ②ペレストロイカ直前のソ連はさまざまな問題を抱えていたが、崩壊の危機に瀕しているわけではなかった
 ③ソ連国民の最大限の要求は、経済改革、イデオロギー面、文化面での自由化、個人のイニシアチブがより多く発揮できるような変革であったこと
 ④ソ連社会は、欧米流民主社会に転換する準備ができていなかったこと
 ⑤ソ連には、「社会主義的連邦主義」という名での排外主義が存在したこと
 ⑥ゴルバチョフのペレストロイカが、ソ連の全体主義体制を維持するため部分的改革を行うという誤った選択をとったこと
 ⑦ロシアで、ネオ、ポリシェビズムという保守主義的傾向と、連邦構成共和国の反共主義的な自民族主義がともに、ともにゴルバチョフの政策に対して不満を高め、政権打倒を試みたこと
 ⑧エリツィン・ロシア大統領が果たした独自の役割
 ⑨ソ連崩壊は客観的必然性をもつものではなく、エリツィン派と連邦構成共和国の民族排外主義者との同盟によって起きたものであること

・エリツィンのいう地政学とは、ユーラシア主義:ヨーロッパとアジアにまたがるロシアは固有の空間を形成しているのでそこには独自の発展法則があるという考え方のことだ

・ソ連、ロシアには、マルクス主義はわからない、なぜなら、資本主義の時代を経由しておらず、労働の対価という概念を持ちえなかったから

目次
はじめに
1 モスクワ大学哲学部
2 アフガニスタン帰還兵アルベルト
3 閉鎖核秘密都市出身の女子学生
4 ソ連科学アカデミー民族学研究所
5 エトノクラチヤ
6 バクー事件
7 主権宣言
8 境界線上の人間
9 もう一度マルクスへ
あとがき
プーチン論 甦った帝国主義者の本性―文庫版のための増補
書名リスト
人名索引

ISBN:9784167802035
出版社:文藝春秋
判型:文庫
ページ数:464ページ
定価:850円(本体)
2012年02月10日第1刷

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2024年07月05日

Posted by ブクログ

ソ連崩壊前後のロシア知識人層との対話談。前半はモスクワ大哲学部の学生との知的交流で、広範は民族学研究所でソ連と民族論について語る。最後のプーチン論は必読。当時はインフレで学生の生活が苦しく、著者は翻訳等の助手を頼んでいたそう。エリート層が外資の小間使いをしている様子が描かれていた。
ソ連崩壊については「最後の転落」と重なる部分が多い。遠隔地ナショナリズムは初出だったが、ソ連の周辺から崩壊していくというのは共通認識に思えた。トッドは衛星国だったが、本作は連邦内の共和国の民族問題だ。マルクスにはない(?)民族理論をスターリンが密かに導入し(回教)、普遍的な共産主義と調和するためインテルナツィオナリズム(ユダヤとツィガン以外の民族間友好主義)を推進した(民族籍の話や宗教問題はその典型?)。トッドが指摘したような理由でエトノクラチヤ(民族独裁主義・内向きの人種主義)が発展し、共産党エリート以外が立場を窺うようになった。
そんな中起きたナゴルノカラバフの紛争から、バクー事件・トビリシ事件を通じて問題がバルト三国に飛び火して主権宣言乱立を経てソ連崩壊へと繋がっていく。
結局、ソ連崩壊は民族問題だったと思う。普遍的な共産主義の全体主義体制を構築したのに、中途半端に全体主義を維持しようとしてペレストロイカを遂行した結果、ロシアならではの民族主義の復活を招いてしまったということ。でも自由化による資本主義の荒波を受けて国家機能強化が叫ばれているという。ロシアを中心とした地域経済圏を構成するユーラシア主義(ファシズム?)。ソ連も本質的にはユーラシア主義かもしれないと。共産主義という建前とユーラシア主義という本音で見ると面白いかも。共産主義というメッキが剥がれて軍事主体の帝国主義も経済主体の保護主義も同じで、外資に蹂躙されない強い国を取り戻すということだろう。著者はソ連が非共産帝国ロシアとして甦ったと表現している。ここで伏線回収!とても気持ちよかった。TPPも大東亜共栄圏と同じく地域ブロック経済圏と考えるのは当然といえば当然だが新鮮。
神学やマルクスについての話は知識が足りなかったので敬遠したが、教養が付けば再挑戦したい。外交官でなくても自国/世界の思想的素養は大事だということ
小説風だったので雑記が多かったが、エッセンスは抽出できたのではないかと思う。2021/9/20

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2022年03月23日

Posted by ブクログ

元外交官、佐藤優氏がソ連崩壊直前、直後の混乱するロシアの状況について、著した本。
モスクワ大学でキリスト教神学について講義をした際の学生との交流。ソ連邦の民族問題に関する情報を得る目的で行った、ソ連科学アカデミー民族学研究所の研究者との接触と対話。ソ連崩壊の過程で吹き出していったソ連の民族問題と流血の事態などを中心にソ連崩壊からロシアへの激動を描いている。
ソ連崩壊の危機に際し、それまで抑圧されていた少数民族のナショナリズムが吹き出し、多数の人命が失われた。
この悲劇の原因を佐藤氏は、ソ連が民族問題をブレジネフ時代に解決し、終わった問題として取り扱い、事態の急変に適切に対処しなかった事に求めている。
排外的なナショナリズムの高揚と流血への距離は近い。
昨今の紛争や戦争の背景にあるのは、血と歴史に基づく民族と法的な主体である国家との関係である。
日本は島国である上、大和民族が主体となった事実上の単一民族国家である為、民族問題を理解し難い。
この本は多民族国家が抱えるジレンマをソ連崩壊という激動の時代を通じ、鮮やかに書いている。
普段、民族という概念を意識しない人に特に読んで欲しい本である。

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2013年05月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「私のマルクス」の続編的自伝。ソ連崩壊前後にモスクワ大使館で勤務しながら、モスクワ大学で神学を講義しながら出会った学生や、民俗学研究所幹部との交流について。神学・哲学の知識をバックグラウンドにした、ソ連崩壊に関する議論は何とも理知的。自分の学生時代とは違いますね(笑)。

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2013年01月27日

Posted by ブクログ

これは筆者が旧ソ連のモスクワ大学で教鞭をとっていた頃とソ連科学アカデミーに出入りしていた頃の記録です。『ソ連崩壊』を歴史、神学、思想の面から考察されていて非常に面白かったです。彼らの事を知る為の一冊。

これは、『外務省のラスプーチン』こと現在は作家の佐藤優氏が外務省入省後、旧ソ連のモスクワ大学哲学部で教鞭をとっていた頃と、ソ連科学アカデミー民俗学研究所に出入りしていた頃の記録です。『ソ連崩壊』を歴史、神学、思想の面から考察されていて、非常におもしろかったです。筆者はこれを日本の大学生に読んでほしいと書いておりますが、個人的な見解だとこの本を読みこなせる日本の大学生はいいところ5%いるかいないかではないかと思っております。その理由としてはやっぱり難しい。特に民族問題にかかわる箇所は単行本の『甦る怪物(リヴィアタン)』だったときも含めて今回で3回目になりますが、いまだに理解できないものがありますし、大学生は恋愛なども含めて楽しいものや出来事がいっぱい回りに溢れておりますから…。

それはさておき、最近、プーチン氏が大統領に再選され、原油や天然ガスの高騰を背景として定刻として復活を遂げ、不気味な存在感が増してきたロシアですが、この本に出てくるモスクワ大学の学生は現在、国家の中枢として屋台骨を支えているという現実から考えてみても、彼らのことを知るための一冊として、是非オススメしたいと思います。

今回、新装版として文庫に書き下ろしで収録されてある『文庫版あとがき』は非常に濃ゆいもので、彼がロシアの地で明日のエリートを担う学生たちと真摯に向き合ってきたことを読みながら連想してしまいました。そのときのことが筆者のの専攻であるプロテスタント神学を機軸としてモスクワ大学の彼が教えた学生たちとの対話が描かれる前半部、最初に描かれるのはアフガンからの帰還兵あるベルトとその婚約者のレーナ。彼が筆者に告白する自身のアフガンでの体験は漫画『憂国のラスプーチン』に描かれてもいるのですが、よくあれを漫画化したもんだなと読んだときは度肝を抜かれ、アルベルトが『佐藤先生、僕は救われたいんです』という言葉がいかに切実なものであるかが本当によくわかりました。

閉鎖極秘都市出身の学生であるナターシャは成績優秀な学生で、将来有望な研究者となるはずでしたが、ソ連崩壊の混乱から彼女が選んだ選択肢も、また僕の心の中に重いものを残してくれました。

さらに筆者は『ソ連科学アカデミー民俗学研究所』に『院生』として出入りすることになります。ここは旧ソ連の超エリート期間で、後半部に延々とユーラシア大陸の複雑な宗教や民族問題がつづられ、セリョージャやチシュコフ、アルチューノフなどのまさに『精鋭』とも呼ぶべき『頭脳』との対話は非常にスリリングなものでありました。

『バクー事件』では「民族問題を力で解決した」ということで、ここからソ連は崩壊への坂を転げ落ちていくことを暗示し、『主権宣言』では宗教とマルクスと民族・領土問題をハイレベルな意見交換をセリョージャと交換し、彼から筆者は『境界線上の人間』といわれ、これが筆者の今後の作家活動の『視点』につながっていくのだな、ということを感じました。

ゴルバチョフ大統領がクーデターがおき『ぎっくり腰』で政権が取れないという騒ぎになっていたころに筆者はマルクスへ立ち返ることの必要性と意味を問い直すところで単行本では終わっておりました。しかし、あとがきとして追加収録されてある『プーチン論』ではふー鎮台跳梁が2012年に大統領に再選され、『甦る怪物』として21世紀に強大な『帝国主義国家』として存在感を増しつつあるロシアとプーチンとを、彼がかつて教えていたモスクワ大学の学生や政治家のゲンナジー・ブルブリス氏との対話を基に考察されていて、そのあまりのディープな世界にのけぞりつつも、これを読み解くことが重要なことだなと思って、ここに紹介する次第です。

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2012年09月13日

Posted by ブクログ

 著者の佐藤優氏は、2002年の鈴木宗男氏の事件に連座する形で現場を追われるまで、ロシア外交のキーパーソンの一人として活躍されていた方です。一線を退いてからは、ご自身の経験やインテリジェンスをベースに魅力的で読み応えのある著作(『国家の罠』や『自壊する帝国』、『日米開戦の真実』etc)を精力的に出されています。

 本書では、その佐藤氏がソ連崩壊後の1992年9月から、日本の外交官として初めてモスクワ大学で教鞭をとられた時の経験を横糸に、崩壊前後にまたがって人脈のあったソ連科学アカデミー民俗学研究所との政治思想についての議論を縦糸に、ロシアが近代国家として甦っていく過程の要素が綴られています。文中からは、大学生などのこれから日本を背負っていくであろう若い世代に向けたメッセージを強く感じました。

- ロシア人の祖国、学問、さらに超越性に対する真摯な姿勢から学んで欲しい。
 そこから日本の復興を、類比の方法を用いて学んで欲しいのである。

 こう呼びかけているのは、氏が20年前にモスクワ大学で出会った学生達が、復活した今のロシアを支えていると、強く感じているからではないでしょうか。

 氏の担当講座はプロテスタント神学のため、それをベースとした論旨の展開は神学的素養を持たない身としては観念的についていけずに、正直難しい部分も多くありました。それでも、一つの国家が壊れていく過程とその結果、その後の復活の萌芽が連綿と綴られていく様子に、今の日本では失われてしまった「古き良き価値観」をも感じ、非常に興味深く読み入ることができました。当時、崩壊直後で国家として混乱の極みにあったにも関わらず、次のような資質の強さ、恐ろしさは、、

- モスクワ大学の学生たちは、エリートとしての自負を強くもっていた。
  そして、自らの能力を、自己の栄達のためだけでなく、
 世のため、人のために使いたいという意欲を強くもっていた。

 現在、プーチン氏の下で一つの結果、ナショナリズムの煮詰まった「エトノクラチヤ」として実っているようにも見てとれます。

 これだけだと旧来の帝国主義国家としての復興ともとれますが、個人的に興味深く感じたのは、

- ファシズムに対する耐性をつけるためには知的訓練が必要だ。
 その意味でマルクスの知的遺産が重要だ

 この観点が氏の講義の軸にあったとの点です。ここ数年、エネルギー危機や経済危機などで揺れている世界状況は、先の第二次大戦前夜に非常に似て、混沌としてきています。その過去と同じ穴にハマらないためにも、内部的にその相克はどうなっていったのか、超克出来たのかどうかを、丁寧に読み解いていく必要があると感じました、日本を甦らせるための一助としていくためにも。

 本書は、文庫版帯の「日本の大学生に是非読んでもらいたい。」との言葉が示す大学生だけではなく、佐藤氏のロシアへの思いの強さを差し引いても、今現在中核世代である(はずの)30-40代にも響く内容だと、そんな風に感じた一冊です。

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2012年08月04日

Posted by ブクログ

ソ連邦崩壊当時のリアルかつ信憑性の高いルポであるとともに、ロシアエリートの知的営為への誠実さを知ることができる。

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2018年10月14日

Posted by ブクログ

『私のマルクス』(文春文庫)に続く、著者の思想的自叙伝です。ソ連で外交官として活動する中で見聞したさまざまな事実に絡めて、ソ連が崩壊するに至った原因についての考察が展開されています。

前半は、モスクワ国立大学でプロテスタント神学の講義をおこなったことが、学生たちとの交流を含めて語られています。そこでは、社会主義から資本主義へと方向展開しつつあるソ連の若きエリートたちが直面していた困難が印象的に綴られるとともに、資本主義の内在的論理を解明したマルクスの経済学の立場と、「わたしは自分の望む善は行わず、望まない悪を行っている」と述べたパウロの告白をみずからの問題として受け止めようとするキリスト教神学の立場をクロス・オーヴァーさせながら、学生たちに向き合ってきた著者の姿が描かれています。

後半は、ソ連科学アカデミー民俗学研究所を訪問し、副所長を務めるセルゲイ・チェシュコという人物と、ソ連の民族問題について語り合ったことが中心となっています。バルト三国の独立運動からゴルバチョフが軟禁されたクーデタを経てソ連の崩壊へ向かって進んでいく一連の動きが、民族政策の失敗という観点から明らかにされるとともに、現在のプーチン大統領によるロシアの「帝国主義」的な動きが、とくに「ユーラシア同盟」と関連づけながら予見されています。

これまで著者の本を読んでいて、文明論的な視点についていけないと感じることがあったのですが、著者がこうした視点から世界情勢を解釈するようになった理由が少し見えてきたような気がします。

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2017年04月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

元外交官佐藤優がソ連で教鞭をとっていた頃の話。ちょうどソ連が崩壊し、ロシアになった激動の時代を綴っており、そこに生きる人々の顔を垣間見ることができる。

著者が、現実の世界を司る外交官であるのに、精神世界を司る神学者であることも興味深い。ロシアの指導者をキリストに例えてみたり、なかなかこの2つの世界を自由に行き来して論じることのできる人はいないのではないか。

政治、生活、思想、色々な場面からロシアを考察できる一冊。でも、キリスト教に馴染みの薄い私には、思想の箇所はちょこっと難しかった。

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2012年06月10日

Posted by ブクログ

現在のロシア情勢を知る手がかりになるかと。
つい人は理性的に知性的にものごとを判断して行動するべきだと考えがちだが、それでは割り切れない感情的心理的理由で社会が動いて行く一面もあるのだと思わせてくれる内容。
思い込みを廃して読めば、理解出来る事がたくさんある本であるな。

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2014年05月15日

Posted by ブクログ

モスクワ大学で教えていた頃の教え子たちのエピソードは、当時の大学生の様子を垣間見れて興味深かったが、終わりの方の聖書やキリスト教的な説明の部分はちょっと難解であった。

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2012年05月26日

Posted by ブクログ

 五歳のときに、私は父から地球儀をもらった。誕生日プレゼントではなかったはずなので、1991年のことであるのは間違えないが、何月なのかはわからない。いまでも自宅でほこりをかぶっているその地球儀には、緑色で塗られた広大な「ソビエト連邦」がある。現在のロシア連邦も広いが、カザフスタン、ウクライナといった単体でも十分大きな面積を持つ国家が集合していたソビエトは、ただただ広い。後年、母が「お父さんでもソ連が崩壊するとは思ってなかったんだから」言っていた言葉が非常に印象に残っている。 父はテレビ局で報道番組を制作しており、当然国際情勢には明るかったはずであり、また大学の卒論はマルクスと共産主義に関するものだったから情勢を注視していたはずだ。「地球儀を買ってやろう。ドイツは統一したが、さすがにソ連はまだ残るだろう」と思っていたのだろうか。
 著者は1988年から1995年までモスクワの日本大使館に勤務しつつ、モスクワ大学で講師として神学の教鞭をとりながら、ソビエトの崩壊からロシア成立以後を最前線で見つめてきた。本書では著書がモスクワ大学で教鞭をとっていた際の生徒や、政府高官、民族学研究所の研究者たちなど、多彩な知識人が登場し、著書と議論を重ねながら、彼らが崩壊へ向かうソ連をどう捉えていたかについて克明に記されている。しかし、興味深いことに登場する一流のインテリゲンチュア達は、皆ソビエトの崩壊を予測できていなかった。それほどまでソビエト崩壊というのは前代未聞の事件だったのだろう。
著者は元外交官である故に当然その視線は鋭いが、本書の根幹をなしているのは著書がキリスト教の信徒であること、また神学という日本では稀有な学問的バックグランドである。もちろんキリスト教系の大学ではどこも神学を専門に扱っている学部・学科があるのだろうが、なかなか周りに「大学では神学を専攻していました」という人に出会える機会は少ないのではないだろうか。
 共産主義の無神論と、正教が生活・習慣に根付いているロシアに暮らす人々、その狭間での悩みや思索はキリスト教についてはもちろん、マルクスや共産主義について全く無知な私には少々理解が難しかった。しかし知識人と呼ばれる人々が、危機的状況の国家を前にそれぞれの分野に立って故郷と家族、友人達の憂い、懸命に自らの考えをまとめ伝えようとする姿は、知識人とは如何にあるべきかを十二分に考えさせられる。

著者もあとがきで述べているが、是非大学生に読んでもらいたい。

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2012年05月04日

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