太田直子のレビュー一覧
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映画字幕を生業としている著者によるタイトル通りの本。仕事をする上でのエピソードをエッセイ風に、配給会社の方針へ抗う時の葛藤や「乱れた日本語」に対する苦労・苦言をユーモアたっぷりに綴る。
海外の小説を翻訳するのとはまた違った苦労が伺える。何よりも映画字幕は「相当限られた時間とスペース」で物語を補足しなければならない。作品の意図や文化・歴史的背景を理解した上でのこの制限だから、苦労もひとしおのようだ。
洋画の翻訳と言えば真っ先に思い出すのは、ケビン・コスナーが主演した「アンタッチャブル」だ。大階段での銃撃シーンでエリオット・ネスが部下のジョージ・ストーンに「狙いは確かか?」と聞いた時のストーンの返し方。私が観た字幕版は「まかせろ」だったが、テレビの吹替版は「完璧です!」。
演じたアンディ・ガルシアの演技やその場の雰囲気からすると字幕版の訳し方(上司に対しこの場面だけ不適にタメ口!)が大いに気に入っていたので、吹替版では大いにガッカリしたものだった。
※あくまでも個人的意見です。 -
Posted by ブクログ
子どもが死ななくなった。
天才 X ネットワーク、データ
1968年 カラハリ砂漠 狩猟採集民クン人の年齢 相対的に年上年下はわかる
平均寿命35年と想定 青年期を乗り越えれば60代までは難しくはない
17世紀 ロンドンも同様に35歳
18世紀 天然痘 オスマントルコに赴任した貴族から伝わった人痘接種で改善
免疫学の父 イギリス人 ジェンナー 牛痘接種で死亡率低下のデータ
19世紀 アメリカで接種法律化 公的機関WHOへ発展 1979年天然痘根絶
工業化の最初の数10年 寿命低下 地図データ分析で上下水道が原因
牛乳のパスツーリゼーション(低温殺菌) 水道水の塩素殺菌
100人に60人しか大人になれない → 現在99人
20世紀 インド、バングラデシュ 点滴よりも経口補水液 水と砂糖と塩
薬がまだ水銀とヒ素を基本とする18世紀からの偽りの治療薬
20世紀後半 薬、タバコの法規制 RCT試験
1928年 抗生物質ペニシリン フレミングの発見→判定→市場
機械による事故
鉄道から20世紀の自動車(戦争の3倍の死者)へ
人間は「パッケージング」によっては200Gの衝撃でも生き残る
フォード 安全装備は商売にならず
ボルボ 1959年 3点式シートベルト(サーブ航空機技術者)事故死者75%減
アメリカ 10万マイル当たりの死者 6人/1955年→2人弱/2010年~
1966年シートベルト義務化、制限速度低下で3人台に
倫理の問題 自動運転のクルマは誰の命を優先するか?
隣接可能領域
イノベーションが意外な別分野と隣接しているようには見えない
ワイン醸造用のネジプレスからグーテンベルクの印刷機 土は化学工場
飢餓
戦争による外国の食物買い締めによる東洋の餓死 当時の戦争の死者を上回る
19世紀 農業の改善 エネルギー革命(カロリー)
1980年からの40年 500万人、その前の40年間 5000万人
10万人当たりでは1915年ペルシャ大飢餓 82人から 近年0.5人へ
硝酸アンモニウム
硝酸塩 硝酸カリウム:火薬、硝酸アンモニウム:肥料 空気から窒素を分離
鶏肉 工業式畜産 鶏卵から食肉へ
鳥類の半分以上230億羽が生息、600憶羽を生まれて2,3カ月で食べる
鳥インフルエンザのリスク 人間よりも鶏の監視
イノベーション
民間企業から生まれていない、民間の生産と流通基盤で広く採用
数十億の命: 化学肥料、トイレ下水道、ワクチン
数億の命 : 抗生物質、二又針、輸血、塩素消毒、低温殺菌
数百万の命:
エイズカクテル療法、麻酔、血管形成術、抗マラリア薬、CPR、インシュリン、
人工透析、携行保水療法、ペースメーカー、放射線医学、冷蔵、シートベルト
農業社会、工業社会の黎明期で命を縮めた次の可能性は、工業社会の環境への影響
バングラデシュのボーラ島
天然痘を没滅から数年後、洪水により、現在は海面上昇で失われている -
Posted by ブクログ
寿命の延び(=ゼロ歳の平均余命の延び)は乳幼児死亡率の劇的減少(20%→1-2%)で起こった。20世紀の前半まで子供の何割かが大人になる前に死んでいた。その子供たちがほぼ成人になり生殖して子供を作る、この部分で人口爆発が起こった。本書はこの事実をメインに据えながら、それをもたらした、あるいは補完したイノベーションを8つ取り上げる。
第1章 平均寿命の測定ーそもそも原初、寿命はなぜ短かったのか、それを記録し平均寿命という概念ができる。そこから平均寿命の差は乳幼児死亡率の差であることがわかる。
第2章 人痘接種とワクチンー乳幼児はなぜ死んだのか。これは端的に感染症が原因だ。特に天然痘が重大な死因だった時代は長く続いた。中国やインドで行われていた人痘接種をメアリー・モンタスキューがイギリスに持ち帰り、それがジェンナーの牛痘につながり1979年の根絶宣言に到る。
第3章 データと疫学ー工業化し人口密集した都会でのコレラなど不衛生に由来する感染症を細菌学以前の社会で激減させたのは発生のデータと疫学。ジョン・スノウの井戸汚染の発見から上下水道の分離につながる。
第4章 低温殺菌と塩素殺菌ー都市化にともなう牛乳の産業化と汚染牛乳死。天然牛乳信奉を打破する啓蒙と低温殺菌法の義務化。飲料水の塩素消毒。
第5章 薬の規制と治験ー法規制がなかった製薬産業のせいで薬剤死が頻発。1950年頃まで野放し。サリドマイド事件(アメリカはFDAの厳格さで救われる)後に、薬剤の安全性、さらには効能を証明する義務を制度化、その手段としてのランダム化比較試験(RCT)の定着。
第6章 抗生物質ーフレミングの発見からフローリーとチェーンによる実用化。第二次世界大戦の戦略物質となり米英の勝因の一つにも。
第7章 自動車と労働の安全ー自動車事故死が普通に起こっていた時代(ジェームス・ディーンや赤木圭一郎の時代)、鉄道労働者の事故死。ボルボが三点式シートベルトの特許を開放し自動車事故死は75%減少。安全社会へ。
第8章 飢饉の減少ー1940年頃の大飢餓時代。土壌の窒素循環への気づき、鳥糞や魚肥の時代を経て、1908年のフリッツ・ハーバーが発見した窒素固定法から化学肥料による農業の大増産。タンパク源は1920年代、偶然にはじまったブロイラー農業による鶏肉の時代。
著者によるまとめでは
数十億人の命を救ったイノベーション
化学肥料・トイレ/下水・種痘とワクチン
数億人の命を救ったイノベーション
抗生物質・二股針(種痘の普及)・輸血・塩素消毒・低温殺菌
数百万人の命を救ったイノベーション
エイズカクテル療法・麻酔・血管形成術・抗マラリア薬・CPR(心肺蘇生)・インシュリン・人工透析・経口補水療法・ペースメーカー・放射線医学・冷蔵・シートベルト
しかし、よかれと思い進んできた寿命の延長の果てにある、人口爆発とそれにともなう気候変動、地域紛争。そもそも、人間になるまでの遺伝的進化の結果が20%の乳幼児死亡率を織り込んだ狩猟採集生活であったとすれば、乳幼児死亡の激減と定住化農業・商業・工業がもたらした超長寿の現在の高齢者が求めるものが、狩猟生活時代では当たり前だったピンピンコロリだという矛盾。なかなか考えさせる。 -
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映画の字幕技術も、日本は突出しているらしい。数秒の間で読みとれ、かつオリジナルの意味を損なわないように表現される字幕は、たしかにすごいと思う。1秒4文字までだそうですよ、文字数。
びっくりしたのが、字幕翻訳の納期がかなり短いらしいこと。1週間ならいい方で、時には3~4日で納品してしまうこともあるのだとか。すごすぎ! そして、観客の日本語読解能力の衰えをひしひしと感じているというくだりも、「やっぱりそうなのか…」と共感してしまったのだった。
わたしは吹き替えよりは字幕の方が好きなんだけど……今、吹き替えの数が急増しているようなので、もしかして近い将来、字幕の方が珍しい存在になってしまうかもしれない。吹き替えもねぇ……安易に売れっ子タレントが起用されて、どうもデキがイマイチだと、金を返せって思っちゃうんだよなぁ……。やっぱり字幕は存続の方向で! -
Posted by ブクログ
映画の字幕を考えている人のエッセイ
字幕についての業界話もあり、最近の日本語へのぼやきもあり、昨今の映画業界の愚痴もありで面白く読めた
字幕にする人がいるんだよなぁと改めて気づいた
字幕は字数制限があるから多少原語より要約しなきゃいけないとか、ものすごく締め切りが短いとか大変なことが多そう
だけど、限られた文字数の中でなるべく文脈が通るように考えられているのすごいし、字幕で映画を見るときに注目したいと思った
最初は映画館で上映されるのは字幕ばかりだったのに最近は吹替が多いって話が、ちょうど字幕で見たい映画があるのに公開直後に数館しか字幕版上映してなくて見れてない自分の悩みと合致しててとても頷きながら読んだ -
Posted by ブクログ
文字制限のある字幕作成の苦労と、昨今のおかしな日本語について、そして、字幕屋として吹き替え版映画の台頭を憂うお話。
ロシア文学を専攻されていた方だからか、米原万里さんと同じニオイがする。実は真面目な話なのだけれど、面白くサクサク読める。
私は映画俳優さん達の肉声や息遣いを聞きたいと思うので、“字幕派”だ。面倒くさいと思ったこともないし、違和感を抱いたこともなく、字幕を読んでいるという感覚すらない。…ということは、今まで観てきた映画には、良い字幕がついていたということなのだろう。
字幕というと「戸田奈津子」だったけれど、「太田直子」さんも意識してみよう。 -
Posted by ブクログ
輸入映画につける字幕を作成する職業がある。業界では字幕屋というらしい。
これは一字幕屋の字幕にまつわる辛口エッセイ集。業界の舞台裏,職業倫理からくる配給会社とのバトル,そして愚痴,ぼやきが満載で,実におもしろい。そして,これは重要なことだが,万人に読みやすい。
字幕屋さんは皆英語が堪能で,映画を見つつスラスラ訳出しているのかと思ったら,これが大間違い。送られてくる英語の台本をもとに,辞書を引き引き仕事をするらしい。大物字幕屋ならいざ知らず,少なくとも筆者はバイリンガルとはほど遠いそうだ。映画一本,納期はふつう一週間。これはきつい。そして最も悩ましいのが,字幕特有の「一秒四文字」という長さの壁。この点,吹替原稿は自由がきくそうだ。本ではいくつも例が挙げられているが,いかに苦心惨憺の末,字幕が捻り出されているのかを思い,ほとほと感服する。
しかも,映画の扱うテーマについては,翻訳前に予備知識を仕入れておくことが必要だ。仕事を受けたらまずは本を買い込み勉強。英語以外の映画にも,たいてい英語台本があって仕事になるというが,二重翻訳は誤訳の危険をはらむから,原語の辞書を買ってきて万全を期す。日々勉強なのだな。とはいえ,仕事で勉強した知識をため込んでいる訳ではない。そんな余裕はない。必要な知識を次々仕入れ,仕事が完成すると忘れるに任せる。著者は「ざるのごとく」というおもしろい形容を使っている。
仕事内容に関しての配給会社とのバトルがこの本のサワリだろう。著者は結構歯に衣着せずに書いていて,それがためにおもしろいのだが,こちらの方が心配になってしまう。相手はクライアントなんだし。まあ作品名は伏せたり,フィクションを入れたりしてぼやかしてはいるようだが。争点は大きく三つ,字幕に盛り込む内容,適切な表現の問題,そして字幕の表記に関することである。
売るための字幕を作れという,クライアントの要求は時に厳しい。ラストで「泣かせる」ために,台本にない台詞を是非入れて欲しいというような注文があるそうだ。無言のシーンなのに,字幕で喋らせろということさえある。全くの商業主義で撮られた映画なら字幕屋も折れるが,製作者が人々に伝えようとした,誠実なメッセージをねじ曲げてしまうのは字幕屋魂が許さない。資本主義の巨大な圧力に,ドン・キホーテのように立ち向かう字幕屋の姿は輝いて見える。
表現を適切なものにする。まことに結構なことだが,臭い物にフタをすれば問題は解決するのかというとそう単純なことでもない。差別表現などに関し論争の歴史は古いが,前世紀後半にアメリカで発祥して日本にも波及した「政治的正しさ」論は極端に潔癖なところがある。「子供」も「肌色」もダメとか,おかしいと感じる人も多いはずだ。字幕屋は製作者の意図や観客の受け止め方を想像して表現に苦しむ。一方,クライアント側は禁止用語集に登載されているかどうかという形式的基準に敏感で,両者の間にはかなり温度差があるようだ。用語集という権威に従っておれば大丈夫,というのは安易に過ぎ,自らを萎縮させることでしかないのでは?と思うが,図体が大きく自分が大事な会社という組織では不可避の行動なのだろう。
表記について。観客が読めないから,難しい漢字は使わないでくれという注文。難しい漢字だからといってこれをひらがなにしたのでは字数が増える。これが字幕屋には恐ろしい。無難に別の語に言い換えられればいいが,言い換え困難な語の場合が悩ましい。字数が増えないまでも,いわゆる「まぜ書き」は避けたい。「比喩」を「比ゆ」と書くのは字幕屋の良心が許さない。著者は「比喩」でも読めるでしょというスタンス。ごもっとも。会社の意嚮によりやむなくフリガナをつけることもあるが,まぜ書きはやらないようだ。エライ!読んでいて大いに溜飲が下がった。小説家や大学の先生なんかが四角い顔でまぜ書き批判をしていても,むべなるかなという感じだが,庶民にもっと近い字幕屋さんも同意見なのはうれしい。確かに,映画字幕でまぜ書きを見た記憶はないな。テレビ局も見習うべし。
字幕屋は世間の平均を模索する。海外映画の多くは,日本人向けにつくられたのではない。アメリカならアメリカの,フランスならフランスの観客向けに創られている。映画製作者は,その主要な対象者がもっているであろう教養を前提にして,作品をつくるのだ。聖書に出てくる警句など,欧米では常識なのに日本であまり知られていないものも多い。そういった海外映画を観る上で前提となる知識を,字幕はどこまで伝えられるか。正解はないが,字幕屋は努力する。タダでさえ字数制限がある字幕。映画の背景,メッセージを余すことなく観客に伝えることはむづかしい。最近,日本の観客の教養レベルが下がってきているともいう。確かに,そうかもしれない。私も妻と映画を観ると,だいたい妻より内容理解が不十分で,解説を加えてもらったりする。耳が痛い。
いま字幕屋さんは誠実に仕事をしているのだな。ただ最近は配給会社でも字幕を軽視する風潮が強い。以前は考えられなかった,大人向けの吹替版上映はもはや普通になり,字幕のための予算は減らされる。新人の字幕屋が安いギャラで使われ,潰されてしまうこともあるという。そんなことでは職業倫理は保てない。
字幕もいろいろ大変そうだが,読み終えて,映画が観たくなった。