白石隆のレビュー一覧
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ネタバレ東南アジアの国家の成り立ちから20世紀末のアジア通貨危機を経た現在(執筆時)までの流れを考察した本。とても面白かった。もとは中央公論連載ということで、読みやすかった。しかし、著者自身の研究と他の研究もベースにして、時代の流れに沿って整然とまとめられている。
自分にとってこの本の魅力は、ぼんやり知っていた歴史の流れに、納得のいく原因の説明と、(西洋本位の歴史観により隠されていた)意味が明らかにされたことにある。なんとなくモヤモヤしていたところが明確になったと目が覚める気がした。
各時代ごとにインドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシアなどの違いと原因をきちんと説明している点がさらに良い -
購入済み
名著だと思います。
イギリス帝国がアジアにどのような秩序をもたらそうとし、それはどのような帰結を生んだのか。分かりやすく記されています。戦後はアメリカが東アジア〜東南アジア地域に強い影響力を持ち日本を軸に「海のアジア」と呼べる地域を繋げる意図を持っていましたが、基本的な発想はイギリス帝国と大きく変わらないようにも思います。
濱下武志先生の『香港』などと併せて読むと東アジアと東南アジアが別々の地域などではなく広東省や福建省、香港や台湾を軸に今も密に繋がってることが理解できるのではないかと思います。 -
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東南アジアをシステムとして動態的視点から描き出した良書である。筆者によれば東南アジアとはアンダーソンのいう「想像の共同体」にすぎず、具体的に指し示すことができないものである。なぜなら、タイ史、ベトナム経済史など、東南アジアを構成する数々の国にまつわる諸説をひとまとめにしたとしても、「東南アジア学」として昇華されないからである。従って、この東南アジアをモデル化しなんらかの学説を唱えたいのであれば、それをシステムないしプロセスとして捉え、誕生から消失までを動態的に描き出す必要があるというのが筆者の主張である。
東南アジア諸国を歴史的な時間軸に当てはめて考えた場合、最終的に抽象化される概念は「多層 -
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元・京都大学東南アジア研究センター教授(現代インドネシア史、現在は名誉教授)、現・政策研究大学院大学教授の白石隆の描く広域海洋地域としての東南アジア近代史。
【構成】
第1章 ラッフルズの夢
第2章 ブギス人の海
第3章 よちよち歩きのリヴァイアサン
第4章 複合社会の形成
第5章 文明化の論理
第6章 新しい帝国秩序
第7章 上からの国民国家建設
第8章 アジアをどう考えるか
私も含めて日本人にほとんど知られていない東南アジアの近現代史を、一人の歴史学者が有機的な社会構造変化に注目しながら叙述するという一事をとってみても本書は画期的であり、予備知識無しで理解できる優れ -
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何度も読み直したくなる学術書
というのはなかなかない。
ましてや自分の専門分野以外とくれば。
最初に出会ったのは、
大学3年のとき。
「東南アジア地域研究」という講義でテキストとして使われていた。
上海に3年いた間、
私は頻繁にこの本のことを思い出し、
読みたいと何度も思った。
帰国してもう一年が経とうという今、
その願いがかなってこうしてレビューを書いている。
日本も昔はそうだった。
廻船問屋が力をもち、商売も貿易も盛んだった。
人が海よりも陸を中心に生活をするようになって
アジアは変わった。
人は海から離れ、陸を時速300キロ以上で駆け抜け、 -
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本書は題名が「海の帝国」とあるように、アジアを海上貿易面からとらえている本です。またこれは後書きを読んでわかるのですが、メインは東南アジア地域を俯瞰的、歴史的に分析して共通性や相違性を解説していると言うことで、日本や中国、朝鮮については記述が薄くなっています。ラッフルズのシンガポール建設など基本的に東南アジア地域の本だと思って読んだ方がいいです。
本書を読んでなるほどと思う点としては、東南アジア地域の国々と東アジア(日本、中国)国家の生い立ちの違い。また東南アジア地域でも近代国家になる過程で表面的には同じ独裁政権でも、権力構造ではずいぶん違っていて、それが経済発展にも影響を及ぼしていることな -
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近代の東南アジアに現れた地域システムを追うことで、今後のアジアについて考える本。寄港地に東南アジアが多い今年の遠航の頭に読めてよかった。
シンガポール建設者でもあるラッフルズが提言した中国人を警戒した東インドの自由貿易帝国と実際の中国人を協力者とした東アジアの英帝国が違ってしまったこと。
ブギス人のこと。
近代以前の東南アジア世界が海のまんだら、陸のまんだらと言うようにいくつかの中心で成り立っており、陸と海のどちらが優勢になるかが中国王朝の盛衰に伴うものであったこと。各地でリヴァイアサンが生まれ、その中で民族が実際的な意味を持ち始める過程。
第二次大戦後、米国日本東南アジアの三角形で構成された -
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東南アジアの歴史から紐解き、日本がどのようにアジアと接すべきかを論じた本。この本もITSの大先輩に進められて読んだ。
19世紀初頭のラッフルズのシンガポールを含めた新帝国の夢から始まる。
今あるアジアの地域秩序のシステム的な安定を図り、そのもとで日本の行動の自由を拡大していくことが結論としている。言い換えると、"アジア地域秩序の安定を図るため、経済協力・文化協力・知的協力・技術協力などの交流の拡大と深化を行い、日本・東アジア関係の経済的・社会的・文化的パラメータをゆっくりかえていくことで、長期的に日本の行動の自由の拡大がそれぞれの国の利益になる仕組みづくりが必要。"と述べ -
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ネタバレ[ 内容 ]
「海のアジア」、それは外に広がる、交易ネットワークで結ばれたアジアだ。
その中心は中国、英国、日本と移ったが、海で結ばれた有機的なシステムとして機能してきた。
世界秩序が変貌しつつある今、日本はこのシステムとどうかかわっていくべきか。
二世紀にわたる立体的歴史景観のなかにアジアを捉え、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、タイを比較史的に考察する。
第一回読売・吉野作造賞受賞。
[ 目次 ]
第1章 ラッフルズの夢
第2章 ブギス人の海
第3章 よちよち歩きのリヴァイアサン
第4章 複合社会の形成
第5章 文明化の論理
第6章 新しい帝国秩序
第7章 上からの国民 -
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浅学の身としては学びが多い一冊であった。近代国家が存立の大前提とする「国境線」であるが、それが存在しない以前の東南アジアの諸地域の在りようを知ることは重要だと感じた(タイのムアンのような)。
「国境線」「近代国家というシステム」が成立する以前の東南アジアでは、民族という区分や自己認識は無かったという指摘は、非常に学ぶところが多い。地の国境線ではなく海の支配権をめぐる歴史から俯瞰した方が、東南アジア理解を助ける、という本書の論考は頷ける。
残念なのは本書が四半世紀前の本だという事。いま現在の東南アジアを、この水準で書いた新書があればぜひ求めて読みたい。 -
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日本が19世紀後半に明治維新を経て近代化した時期に、東アジアにおいても秩序の変化が起こり、従来の「まんだら」型の「国家」(と呼べるものかは分からないが)関係から、ヨーロッパが持ち込んだ近代国家(リヴァイアサン)へと変貌を遂げていた。
そして、人々の「文明化」は人々の意識を変え、1910年代後半から1920年代に労働運動が起こり、コミンテルンの影響など共産主義が入り込んできた。
それに対し、近代国家の側は特高など警察機能の強化で対応している。
近代国家成立の原点は違えど、こうした流れはまさに日本と同じであり、共産化が体制維持の側に与えた衝撃と影響の大きさはこの時期の各国家にとって相当なものであっ -
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海の帝国とは、もともと東南アジアを中心にあったアジア的な秩序(まんだら)をそこに行きついたラッフルズをはじめとする西洋近代諸国が国際分業体制の中に取り込んでいくうえで構想した非公式帝国のことである。ここで使われる概念に関しては、エマニュエル・ウォーラ―ステインの世界システム論におけるものが使われており、川北稔氏の世界システム論講義が大変役に立った。西洋諸国が構想した非公式帝国であるが、その後東南アジアは植民地に組み込まれていく中で、当初の構想とは少しずれながらも実現していく。そして、その植民地のされ方や、される前の国家の特色により、WW2後の独立国家の在り方が決定していく。そのような汎アジア的