橋本毅彦のレビュー一覧
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互換性、ひいては標準の歴史を辿った本。「部品単位で替えが効く」というのは現代では当たり前のことだが、ほんの200年前には、見た目は同じ製品でもネジ1本使い回すことができなかった。当時は部品ごとにヤスリがけをしてうまく組み立てるのが当たり前だった。
戦争をきっかけに互換性が実現し始め、さらには同一製品どころか別々の製品間での互換性、標準規格までもが制定されるようになる。アメリカでは機械化により職人たちが解雇されたり、イギリスでは一旦推し進められた機械化から職人による手作りに逆戻りしたり、その過程は一筋縄ではいかなかったようだ。タイトルに「科学史」とあるが、おおよそ現代の300年前から話が始まるのでとっつきやすいと思う。 -
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私は日本のメディアとかで使われている「ものづくり」という言葉があまり好きではなく、それってスタンダードにもレジェンドにもなれない、徒花的で自己憐憫的な言葉だな~という感じがしていたので、この本を最初見たときは、よくある職人賛歌の本かと思っていたら、真逆の内容だったことにビックリ。
この本は、現代の産業を支える「標準」や「規格」といった概念がどこから生まれ、どう発展し、世界に受け入れられたのか……を概説している本。「標準」や「規格」というと、私たちが接する「ものづくり」という言葉から感じる、下町の町工場の職人がオンリーワンのものを作る……みたいなものとは正反対の、味も素っ気もないもののように思えるけれども、その重要性と、この概念が受け入れられ世界を制覇するまでの悪戦苦闘の道のり、そして課題が語られている。
この「標準」や「規格」といった概念は、他の機械技術と同様に、戦争の道具である大砲や銃火気の扱いから生まれた。かつては銃や大砲は設計図もなく、職人たちが自分の腕と経験を頼りに部品を作り、それをヤスリがけして、一つ一つ組み合わせて作られていた。当然、そこに互換性はなく、部品の一つがダメになると、全部がダメになるという仕様だった。これでは、戦争中に迅速な対応ができないというわけで、フランスで互換性を持つ大砲や銃火気の生産が試みられることになる。
それを発展させたのが、資源はあっても人が少なかった19世紀のアメリカで、20世紀の特色となる大量生産へと繋がることになる。でも、現在では当然のことと考えられている「互換性」や「標準」や「規格」は、機械生産の発展なくしては成り立たないものであり、しかもイギリスやフランスでは職人の根強い反発によってアメリカに遅れをとってしまう、というのは面白かった。職人気質が最新設備の導入を妨げるというのは、古今東西で良くあることみたいで。
世紀の移り目になると「互換性」の考え方は、兵器からミシンや自転車に転用され、さらにはフォード社の流れ作業へと進化していく。また、「標準」や「規格」についての考えも、度量衡の統一からはじまって、ネジなどの部品の標準化、材料の標準化、さらには作業の標準化や運用の標準化(操作マニュアルとか)、運送方法の標準化(コンテナの導入)などが図られる。これらの標準化によって生産効率がどんどん上がったことの背景にも、第一次世界大戦や第二次世界大戦といった大戦争があった。
日本は、この標準化を第二次世界大戦中は確立することができず、ようやく朝鮮戦争によってアメリカ軍の要望に応えることで、そのノウハウを蓄積することができた。それまでは飛行機の生産などでもヤスリがけをしないと使えないレベルだったというから、彼我の差は本当に大きかったのだと思う。というか、やはり生産力の絶え間ない効率化というのは、アメリカのような「資源はあるけれど人は少ない」ところでしか生まれ得ない発想だと思う。資源がなければ、日本のように一品一品を綺麗に仕上げることを重視するだろうから。どちらも一長一短あるけれども、現代の戦争ではそれが勝敗を分けた。
現在、ビジネスが世界規模になって、標準や規格を巡る攻防はさらに激しくなっている。こういう世界統一の標準や規格ができて、これまで職人の感覚頼りだった複雑な作業が、機械に代替できるようになると、短期的には失業問題や貧富の差が広がるだろうけれども、長期的には人類文明の発展に繋がる。そこまで話を拡げなくても、マイクロソフトやアップルのように、規格や標準を押さえることができれば、ビジネスでは一人勝ちすることができる……そう言われて久しいけれども、この考え方って日本では無視されがちだよね~と思った。
あと、個人的にはギルブレス夫妻による、レンガ積みの労働の研究が面白かった。ありとあらゆるものが分析され、人間もまた歯車の一つとして効率化されていく……というのは、私の感覚にある「ものづくり」と対極にある生産の姿だなぁと。 -
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産業技術史のなかで「標準化」「互換性」に焦点を当てたユニークな書籍。ネジの規格からインターネットの通信方式まで、様々な標準化と互換性の事例を挙げる。
成熟経済では差別化と独自性が競争力の源泉だが、萌芽段階では如何に爆発的普及をさせ市場を創るか、つまり製品の標準化と互換性が欠かせない。産業革命後は自然発生的に標準化が進んだように思っていたが、個々人の癖や好みの違いを意図的に統合する挑戦者たちの様はなかなか興味深い。いまでこそISOなどの国際規格が普及しているが、近代化初期の過渡期においては、優劣の問題もあり、覇権争いが極めて熾烈であったろうことが容易に想像できる。まずネジのデジュールスタンダードから始まった歴史が、国家の主権が強くなる一方で経済はシームレスになっていくにつれ、意図的もしくは結果的なデファクトスタンダードに移っていく様がよく理解できる。 -
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科学技術の発展は常に戦争の歴史とともにあると大学の教授がよく話してくれたが、中世の大砲に始まり近代の拳銃、第一次世界大戦を契機とした大量生産の為の標準化など、まさにそんな話。
第五章、前章までに語られた製品の標準化ではなく作業の標準化の例として挙げられている、テイラーの科学的管理法。切削速度の研究に26年という途方もない時間、費やした鉄の量は400トンという話に圧倒された。しかも19世紀、電気による駆動が確立していない水力や蒸気力がメインであった時代の話であり(後半は電動式の工作機械が使えたというが)、実験に於いてパラメータ・バリエーション(1つの変数の影響を測定・把握するために、他の変数を全て一定に均一化する)をとるのは並々ならぬ努力と配慮が必要だったことだろう。
また、テイラーの考えをより発展させたというギルブレスの動作研究(レンガ積みに端を発する、あらゆる産業の動作に着目し如何に効率よく成果を挙げるか、職人や作業者の動作をつぶさに確認し、時に写真や映像も活用し分析する研究)は、今もAIによる画像解析が行われている分野であるが、20世紀初頭から研究が始まっていることに驚いた。その後タイプライターの運指研究につながりキー配列の一つであるDvorak配列の誕生に寄与したというから面白い(それ自体はまた、デファクト・スタンダードであるQWERTY配列の圧倒的普及率の前に敗北したことも述べられている)。
"標準革命"ということで、投影法や寸法公差、はめあい、メートル法とヤード・ポンド法、PTねじとNPTねじといった機械よりのトピックを想定していたので、そこは少し期待外れではあった。科学史と謳っているので仕方ないが。 -
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ワット、エジソン、ライト兄弟、フォン・ブラウンなど歴史に名を残した有名な発明家・実業家の事績を簡潔に記した文庫本である。一人ひとりの事績を追うならもっと詳しい本はたくさんあるし、むしろそっちを読んだ本がいいのだが、これを手に取った理由は、珍しくイサンバード・ブルネルが載っていたからだ。
ブルネルはイギリスの技術者で、鉄道建設や蒸気船事業などに取り組んだ人物である。イギリスでは知らない人はいない人物で、アメリカの大学でも、尊敬する偉人ランキングなどで上位に入っているようだ。恥ずかしながら、そのニュースを読むまで自分は知らなかった。
ブルネルは父も有名な技術者であり、出自も裕福である。父の事業を継いだこともあって、エジソンなどから比べるとやはりストーリー性には乏しいように感じる。日本で有名にならないのも無理は無いように感じた。
しかし、技術が急速に発展していった時代に抜け目無く鉄道や蒸気船といったインフラ事業に乗り出していった点は素晴らしいと思う。特に鉄道建設などは黎明期で今のような技術やノウハウが確立されておらず、困難を極めたようだ。
また、彼はイギリス以外にもイタリアやインドなど、他地域の鉄道敷設にも尽力している。交通が不便だった時代において、フロンティアである鉄道事業は本当に魅力的な事業だったのだろうと思う。
また、彼の作った蒸気船はイギリスと大西洋をつなぐ海底電信ケーブル敷設に用いられたそうだ。海底ケーブルは後に日本とも繋がったというが、こちらの方が縁がありそうである。 -
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兵器の部品の互換性追及から始まった標準化の歴史を概観。大量生産が職人業にとって代わるのに,技術標準の構築は不可欠だった。現実世界では,純粋に技術として合理的な設計が実現するのではない。社会や政治との関係の中で,偶然や一部の人間の思惑に左右されながらモノは出来上がっていく。
関連団体や国家が制定するデジューレスタンダード,市場で勝ち残ったものがその後の技術を支配するデファクトスタンダード。ねじや旋盤やコンテナやインターネットを例に,物語は進んでいく。
少し残念だったのは,キーボードのqwerty配列の件。デファクトスタンダードの代表格として挙げられているのだが,本書が紹介する「タイプライターのアームが絡まらないようにわざとタイプスピードが遅くなるような配列にした」という話には,根拠の薄い都市伝説だという説がある。文庫化にあたってこの辺りの事情をもう少し整理しておいて欲しかった。