誰だっていつかは年を取り老人と呼ばれるときがくる。
でも、実際にそのときが来ないと実感はわかないし理解することは難しいと思う。
物語の中に認知症かどうかの判断を下すための検査の場面がある。
記憶することが苦手な人は間違えたらそこで認知症と判定されてしまうのだろうか?
こんな簡単な質問で決めてしまうの
...続きを読むか?と不思議だった。
騙されて病院に入れられたマキは最初は腹を立てていたが、徐々に状況に慣れていく。
老人に限らず突然まったく違う環境に放り込まれたら、気持ちが動揺するのは当たり前のことだと思う。
歯磨きと洗顔石鹸を間違えたマキを看護師は笑う。
けれど、状況がしっかりと把握できるまでは軽いパニックになっているとわかるだろうに、と思ってしまった。
認知症患者を専門に受け入れている病棟なのだから、周りを見回せばやっぱり少しだけズレているお年寄りばかり。
一方マキは相変わらず物忘れはひどいものの、治療の成果もあって少しずつ状態は良くなっていく。
費用の問題から別の施設に転院していく者もいれば、老人同士で恋に落ちて結婚する者もいる。
認知症だからといって必ずしも不幸ではないと、物語を読んでいると思えるようになってくる。
本来は暗いテーマなのかもしれない。
けれど軽妙なタッチで描かれている病棟のようすは、けっして暗鬱とするものではない。
この物語を読んでいると「年を取るってどういうことなんだろう?」と考えてしまう。
そして、いつかは自分にも訪れるだろう老後をどんなふうに過ごしたら幸せなのかと。
実感はないけれど、確かにいつかは誰にでも関係するテーマなのかもしれない。