吉岡斉のレビュー一覧
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60ページ程度の薄いブックレットであるが、非常に内容の濃い素晴らしい本でした。
著者の吉岡斉九州大学副学長は現在あまりメディアには出ていないと思うけど、もっと注目すべき学者であると思います。
最近、反原発のカリスマと呼ばれ注目され始めている高木仁三郎氏などとも一緒に活動していたようです。
吉岡氏の基本スタンスは、まず中立的枠組みをとりあえず立てておいて、客観的事実の積み重ねをして必然的な結論に導く、というものである。小出氏などは急進的脱原発論者だろうと思われるが、吉岡氏は自らを無条件反原発論者ではないとし、その理由として、それでは原発推進者と議論にならないからだとする。
この視点は重要。
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東日本大震災の直前、2011年2月に発行された本。筆者は以前、原子力委員会専門委員であったとのこと。このような経歴を持っていれば、原発推進の立場をとることが多いと思うが、筆者は「脱原発論者ではないが、…実質的に脱原発論者に近い。」(p.9)
また、東日本大震災以降に印刷された第2刷にあたってという追加記事の中(p.29)では、「日本は脱原発に向けて舵を切るのが賢明だと思われる。」と述べている。
原子力発電に関する問題は核開発と絡んで様々な不条理を含んでいるがp.25にあるインドの動向や、p.41にある機微核技術の問題はその最たるものと思われる。
第五章では本書のサブタイトルでもある地球 -
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わずか70ページ足らずだけど、むちゃくちゃ興味深いことが書かれている。世界的に見て原子力発電の規模が縮小しているのは、新自由主義的な経済政策と電力事業が相容れないためであるからとか、それに抗うために日本の原子力関係のステークホルダーと政府が行ったこと(要は、電力事業を市場原理にさらさないこと)など・・・。なんだかこの原子力政策というのは、どこか日本のメディア業界と似ているような既視感を少し覚えた。
各国の簡単な原子力政策の現状も書いてあるし、「脱原発」と「反原発」の違いなど本当に基本的なところから論旨も明快になっている。
とにかく、この本は絶対に読んだ方がいい。目から鱗。値段も500円だし、原 -
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2011年2月発行の岩波ブックレット。
今後、刊行される書籍・雑誌はヒステリックにならざるを得ないが、この書籍は震災前の刊行なので、その点で安心して読める上、震災以前の原発論しては最新(級)である。
ページも非常に少なく、内容も平易である。
また、「反原発」の著書が多い中、「脱原発」(もう造ったものは仕方がないから、新しい原発を作らないことで、老朽化による使用終了によって時間をかけて原発脱却すること)に近い意見であるため、極端な内容の偏りもない。
さらに、原子力発電所を保有・研究していることが、日本が核関連技術を保有・研究する唯一の根拠であり、その放棄は、安全保障や日米関係に影響するな -
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議論の種としてすごく良い本。これをベースにしてディベートをしたらよい議論になりそう。
武田徹さんの私たちはこうして「原発大国」を選んだ、では原子力に関する文化史個人史に重きを置いていたんですが、吉岡斉さんの本書は国内国外の政治史がメインとなっています。
序章において、原子力の拡大が日本の経済社会にとって有害である、と立場をきっぱりと明言し、それに対して自説やデータを滔々と述べるスタイルはすごく説得力がありました。さすが九大副学長。
結論に疑問が残る部分はいくつもあるんですけど(揚水発電の負担とか温室効果ガス削減のロジックとかベトナム受注とか)、総じて見れば今後を考え直すいい本でした。原子力ル -
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原発にまったく経済合理性がないことを明快に説明する。「原発反対」の立場から出発していないので、反対派の議論には懐疑的な人々にとっても受け入れやすい議論であろう。
しかし、実は本書でもっとも重要な部分は、なぜ経済合理性がないにも関わらず、原発が国策として推進されてきたのかを説明した「国家安全保障のための原子力の公理」に関する章だ。非合理的なエネルギー政策の奥には、さらに非合理的な核兵器開発への欲望を隠し持つ安全保障政策がある。それらは決して公に論じられてはならないという日本の公理ならぬ病理に対し、経済合理性の議論だけで挑戦できるのかとも思うが、原発政策を論じるうえで最低限共有されるべき論点を示し -
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最近の原子力発電をめぐる情勢(3・11以前)についてよくわかる。書いているのは、一応脱原発路線を主張しているが、自身、内閣府原子力委員会専門委員や経産省総合資源エネルギー調査会臨時委員などを歴任され、科学技術が専門の九大副学長の吉岡斉氏である。そんな方なのに原発の危険性、不経済性から早急に脱原発の道を進むべきという主張には共感できる。原発推進をしている国は、京都議定書を全然守れず、二酸化炭素排出が多かったり、増やしていたり(アメリカ、日本、フランス)反対に脱原発路線の国(ドイツ、スウェーデン、イギリス)は京都議定書よりも二酸化炭素の排出削減に成功しているなんて記述も興味深い。原子力ルネサンスは
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九州大学の副学長であり、内閣府原子力委員会専門委員や経産省総合資源エネルギー調査委員会委員を歴任した原子力及びエネルギー政策の専門家による原子力発電に関する現状と提言をまとめたもの。著者は、原発反対の立場をとるが、何が何でも反対というわけではなく、多角的に分析をし、利点欠点を明らかにした後、理論的に意見を述べている。本書は、東日本大震災前に書かれたものであるが、日本の原発政策の問題点と原発の未来を考察するために必要な材料を十分に提供しているといえる。重要な箇所を記す。
「「推進派」と「反対派」の中間に位置し、調査研究に裏打ちされた「中間派」が、多数派を占めるのが当たり前なのだと著者は思う」
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たまたま3.11直前に書かれた小冊子で、最新の世界の原発事情が客観的に整理されていて資料としての価値がある。
今更ながら日本のマスコミ報道を鵜呑みにするのは危険であることを再認識。反原発か推進かの極論か感情論ばかりで、原発問題の解決の本道からそれている(そらされている?)気がする。
○先日ドイツが2022年までに全原発廃止を決定したが、元々2002年に決定された既定路線であること。
○欧米での原発新設は、殆どは70年代の古いものの入れ替えに過ぎず、原発産業は成熟産業(むしろ斜陽)であること。
○米国で30年以上も新設はない最大の理由は「電力自由化」による競争の結果であること。
○原発が安価で安 -
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ネタバレ2011-02-08第一刷。著者の脱原発の立場を日本の原子力発電事業の国策民営によるゆがみと経済的なコスト分析の立場から展開する。グローバルに見て、”1980年代末より…原子力産業は構造不況産業と化した” こと、"原子力発電拡大に熱心な国ほど、温室ガス効果ガス削減の達成度が悪い傾向がある” という指摘は興味深いが、説得力を持って語るためにはもう少し突っ込んだ分析とデータの提示が必要だろう。全体に表・グラフがもう少し欲しいがブックレットのスタイルの限界か。同じテーマで新書を著して欲しい。p29 に「二刷にあたって」という囲みが追加され、東日本大震災と福島原発震災の「同時多発原発事故」に