研修終了後「今日の研修はよかったね。みん前向きにたくさん発言していたし、ワークも積極的に取り組んでた」「○○さんの話し方すごく聞き取りやすかったよ」と、研修担当者同士で褒めあっている光景が、僕には気持ち悪い。
僕は根がネガティブ思考のせいもあるが、研修直後は「本当に伝えたかったことが正しく伝わった
...続きを読むだろうか」「職場に帰って明日から実践してくれるだろうか」と不安になる。
研修で一時的に熱量が上がっても、一晩寝たらなにもなかったかのように、なにも変わらぬ日常が流れる。
果たして、研修に意味はあるのだろうか。
僕は人材育成に携わりながら、いつもこの疑問が頭の中を旋回していた。
この本は、僕の長年の疑問に一筋の光を当ててくれた。「研修評価」つまり「研修は何のためにあるのか」を数字(定量)と物語(定性)で表そうという試み。
研修の目的は、研修転移(学んだことを仕事に活かす)である。
できることなら、「研修によって会社の業績(成果)にインパクトを与えた」という証明をしたいところだが、業績には研修以外にも多くの要素が複雑に絡み合うため、立証は非常に難しい。
著者はアカデミックな研究にはこだわらず、その手前の研修転移(行動)に焦点を当てよ。と説く。
従来の研修アンケートで評価していたのは「反応」と「学習」のみである。
・講師の話や資料は分かりやすかったですか?
・今日、あなたが学んだことは何ですか?
それに対して、研修転移を評価するためのアンケートでは、このように問う。
・この研修はあなたの仕事に関連していると思いますか?
・あなたの仕事に役立つと思いますか?
・学んだことを、あなたの仕事で活用できると思いますか?
つまり、研修が面白かったとか、新たな学びがあったという、反応や学習の評価ではなく、研修転移のイメージができたかを問い、研修を評価するのである。
アンケートの自由記述欄によくこんなコメントがある。
「講師の話に引き込まれ、新たな学びがありました。自分の職場はまだそのレベルに達していませんが、いつかやってみたいと思いました。」
このコメントについて、反応や学習レベルで評価するなら「前向きで良いコメントがついたから、今回の研修は成功」となる。
しかし、研修転移の観点で評価すると「受講者の行動を変えるには至らなかった。受講者と内容のミスマッチ」となる。
当然のことながら、研修担当者は「研修は大成功でした」と経営者に報告したい。そのため、自分たちにとって都合がいい、反応・学習レベルの評価を採用する。そもそも行動に関しては、自分たちの領域ではないと考えている研修担当者も多い。
僕が「気持ち悪い」と感じる原因はそこだった。
研修後の反応にのみ関心を示し、その後の行動や行動によって生み出される成果に対しては、無関心な担当者の態度が許せないのだ。
会社はそれぞれが専門性を発揮し、一つの大きな目的や夢に向かって、力を結集させる集団であるはずなのに、“研修は研修”と部分最適で満足する姿勢に違和感がある。
介護事業では、たくさんの研修が義務付けられている。義務化された研修以外にもたくさんの研修が日々開催されている。
いま一度「研修は何のために行うのか」という問いに立ち返り、本当に意味のある研修、人材育成について、話し合ってみたくなった。