橋本健二のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
何かでアンダークラスについて目か耳にして興味を持ってこの本を手に取った。
ベトナムのハノイにいる間に読んでいたんだけど、国全体がエネルギッシュで、働けば報われるような空気に包まれたベトナムで、枯れてしまった日本についてのこの本を読んでいるのは複雑な感慨があった。
この本で一番印象に残ったのは、我々は資本主義的企業で仕事をして生きている限り搾取は免れず、これが資本主義の本質でもある、だがこれまではそれでも労働力の再生産に向けるだけの収入は得られていた - これつまり、自分を癒すためだったり次の世代を残したりする再生産 - のだけど、アンダークラスにおいては再生産は行われず、家族を形成せず、子を産み育てない。アンダークラスのあとには何も残らない、という点。これは恐ろしいことだ。
本書は常にデータを元にした分析手法を用いて我々の社会の現状がどうなっているかを説いていく。まず階級の定義なわけだが、資本主義的企業の領域には資本家階級、新中間階級、正規労働者階級、アンダークラスが含まれていてピラミッド状に構成されている。そしてその脇に自営業者の領域に含まれる旧中間階級がいる、ということらしい。この定義を押さえておかないとこの本は読み進まないので要注意だ。資本家階級は経営者や役員ということだが、中小零細企業の経営者も含むのでどうも言葉のイメージと実態は違いそうで、雇われ人ではない、ということが大きな違いのようだ。新中間階級は専門的知識や組織の管理運営をする人たちで、読者の俺も著者の大学教授もここに含まれるのだろう。その下にある正規労働者階級は販売・サービス・建築などの領域。その下に位置するのがパート主婦以外の非正規労働者、これがアンダークラスである。
様々な角度からデータを分析して、例えばアンダークラスの孤立、階級は世代間で継承されるのか、などとても興味深く、驚くような分析もあれば、そりゃそうだよなあと感覚に即すものもあった。本書はさらにはジェンダーの格差、新型コロナの影響、そしてそれぞれの人たちの政治意識にまで切り込んでいき、視野の広さと視点の公平さ、データを尊重する姿勢には好感を持ったし、とても読み応えがあった。
また、政治意識の分析では貧困自己責任論を支持するような新自由主義右翼にはある程度収入があり学歴もあり、そういう人たちほどこぼれ落ちた人たちに苛烈であるというのは衝撃的だった。また彼らは自民党を支持する傾向が強く、自民党の近年の政策は彼らに寄せたものだったという分析にも驚いた。
とは言えこれを読みながら、ああ俺はこのどの層のどの平均と比べても勝った立ち位置にいるし、客観的にこんな本を読めるような余裕があってよかったよなあ、とは頭のどこかで常に考えていたと思う。個人的には困窮した人たちはどんなことがあろうとも国に助けられるべきだと思うし、所得の再配分には賛成だと思う。そうしないと本当にこの本の言うように我が国の社会は持続可能ではなくなると思う。 -
Posted by ブクログ
自分が今どの階級に属しているのか客観的に知ることができて面白かった。
アンダークラスに興味がありこの本を手に取ったが、アンダークラスだけでなく、階級それぞれにどのような特徴(メリット/デメリット)があり、それらがどのような因果関係から生まれるのかについて言及される。
私個人は「新中間階級」に当たるものだが、自ら事業を営む資本家階級や、農業などを指す旧中間階級と比較すると労働に関する幸福度が低いことが指摘されていた。
また最終章では、階級と政治的立場の相関関係についても言及され、所謂「階級が高い」人々は保守的な考えに傾く傾向が強く、責任論を指示し、格差を助長しがちであると指摘があった。
勿論、努力をして財を成してきた人間であれば、貧困に陥るのは努力が足りないのだと言いたくもなるだろう。しかし、努力が正当に報われるには、相応の土俵が必要だと言うことも忘れてはならない(そしてその土俵は、地頭の良さや教育環境など、生まれながらに決まってしまっていることが多いのも事実だ)。 -
Posted by ブクログ
みすず読書アンケートで挙げている人が複数いたので読んでみる。タイトルから気分が悪くなる内容であろうと予測されるが、現状を認識するため。
結論としてはいい本だった。新自由主義社会において、経営者は儲けを優先して労働者が次世代を再生産する費用を含まない低い賃金しか支払われない、非正規雇用労働者(パート主婦除く)が誕生する。平均年収216万円のアンダークラスは、890万人、全体の約14%というかなりの規模の階層に及ぶが、結婚できないので、次の世代に連続することがない。つまり、別の階級からアンダークラスになっていく。そして、女性、非大卒、出身階層が低い、卒業してから就職までに時間がかかるというのがアンダークラスになりやすい要素である。あまりにも露骨すぎる。
このような格差拡大があることについて社会的合意ができており、野党を支持する「リベラル」だけでなく、自民党を支持する「伝統保守」の過半数が格差を縮小し、貧困を解消するための再分配が必要という共通認識を有しているという指摘は意外だった。 -
Posted by ブクログ
橋本健二氏による新しい階級社会論。アンダークラスの存在を明確に定義し、日本が格差社会に陥っていることに問題提起するとともに、本来少数派であるはずの新自由主義右翼に政策的な主導権を握られてきた15年程度の期間にその傾向が強化されたとする。
本書のリーチは昨年2024年の衆議院議員選挙までで今年2025年夏の参政党の躍進は視野に入っていないけれど、去年の傾向が明示的に示されたのが今年の参議院選挙とすれば概ねその端緒は示されていると言えるだろう。すなわち、石破政権によるリベラル・伝統的保守へのシフトにより安倍政権以来の岩盤右翼層が離れ、保守党・参政党へシフトした結果、自民党が過半数割れに追い込まれたとする。加えて、本来リベラル色の強い公明党が連立政権にいたため、自民党が新自由主義右翼へシフトしたという分析は興味深く、この20年以上続く自公政権の功罪を考える際にも重要な観点だろう。
一方で、新自由主義右翼の解像度はそこまで上がっていないように思われる。本書は資本家階級、新中間層、正社員、アンダークラス、旧中間階層とするが、資本家階級でやや新自由主義右翼が多いとはいえ、各層に散っている。このクラスターが上手く政治思想を捉えられていないことを示しているように思えるのだがどうか。追加的な論考が待たれる。 -
Posted by ブクログ
かつて「一億総中流」と言われた日本社会。その幻想が静かに崩れ落ちた今、私たちはどのような現実に直面しているのか――。本書『新しい階級社会』は、この問いにデータと構造分析を通して真正面から答えようとする力作です。
著者は、現代の日本社会を五つの階層に分類しています。企業の経営者などの資本家階級、農業や自営業を営む旧中産階級、企業内の専門職や管理職を中心とした新中産階級、そして現場で働く正規雇用の労働者階級、さらにその下に位置づけられる非正規雇用の「アンダークラス」。こうした階層のすみ分けは、単なるラベルにとどまらず、収入や雇用の安定性、社会参加の度合いといったさまざまな指標によって、きわめて明確に分断されつつあることが、本書を通じて浮かび上がってきます。
なかでも本書が丁寧に描き出しているのが、「アンダークラス」に分類される人々の現実です。非正規雇用として不安定な立場に置かれ、十分な賃金や保障を得られない人たちは、自己責任論では語りきれない社会的な困難を抱えています。著者の視点は、そうした人々に対して決して冷淡ではなく、むしろ「どうしてこのような立場に追いやられてしまったのか」を、社会構造の側から理解しようとする、温かく誠実なまなざしに満ちています。
一方で、このような階級分化を後押ししてきた大企業のふるまいに対しては、厳しい視線が向けられています。短期的な利益を優先するあまり、正規雇用を減らし、非正規雇用の拡大を進めてきた結果、アンダークラスを増加させてしまった。その帰結として、日本社会の中で分断や貧困が固定化されつつあることに、私たちはもっと目を向ける必要があります。本書は、こうした企業行動の問題点を静かに、しかし明確に指摘しています。
ただし、希望がまったくないわけではありません。本書の終盤では、「現在の格差はあまりにも大きすぎる」という点で、社会の中に一定の合意が生まれつつあることが示されています。これは、分断の現実を直視した上で、私たちがどのような社会を望むのかを考える出発点となるでしょう。例えば、大企業に対する規制強化や、最低賃金の引き上げ、正規雇用の拡充といった政策的なアプローチも、もはや避けては通れない議論です。
『新しい階級社会』は、今の日本で何が起きているのかを理解するための重要な一冊です。特に、声を上げにくい立場にいる人々の現実に目を向けたい人にとって、本書は多くの示唆を与えてくれることでしょう。格差の背後にある構造を知り、共に変えていく道を探るための第一歩として、ぜひ手に取ってほしい一冊です。 -
Posted by ブクログ
最初から最後まで本当に面白かった!馴染みがあるのは,生まれた中央区,終の住処と心の中では定めている渋谷区,勤め先だった港区や新宿区あたりだったけど,その他の地域についても,是非街歩きしてみたくなる情報満載でだった!
渋谷区笹塚についての記載は,かつて自身のブログで論じた内容ともかなりの範囲でリンクしていて,「もっと,もっと突っ込んでくれー」と思ったのと,中央区東日本橋の『日本橋なのに下町』的な,やや特殊な地域性について触れていなかったのがちょっと残念…と言うかそんなに細かく書いてたら新書一冊では収まらないか,とも.
ところで,祖父が『さしすせそ』が言えない東京弁話者で,下町要素の色濃い育ち方をしてきたにも関わらず,山の手の代表である渋谷になんで親近感を覚えたのか不思議と言えば不思議だったんだけど,東日本橋と笹塚,と考えると,まぁ都心の下町と山の手の下町,都営新宿線で繋がれた西と東と思えばまぁ納得も出来たりして,自らのルーツの再確認もできて,なんか嬉しくなった一冊だった. -
Posted by ブクログ
「格差と階級」というどちらかと言えば、センセーショナルな題名とはうらはらに、実態データを丹念に分析した、どちらかと言えば、学問的な雰囲気を持った本だ。実際に社会学の研究をベースとして本書は書かれている。
例えば「中央区銀座一丁目」というような単位を、「町丁目」と呼ぶらしいが、その町丁目ごとに色々な統計データを取得し、地図上に、それを色の違いや、白黒のページは印刷の濃さにより一覧性をもったものとして示した地図が多く掲載されている。取得され、本書の中で紹介されているデータとしては、例えば、「世帯年収」「管理職・専門職比率」「大学・大学院卒業者比率」「1世帯あたり人員」「未婚率」「65歳以上比率」など、非常に多様なものがある。
それらを見て思うことは、東京は東京というひとつの地名ではくくれないほど多様である、ということだ。例えば世帯年収は都心部から西側が高く、東側が低い、といった東京23区全体から言える多様性もあるが、同じ区内でも、例えば同じ港区内でも町丁目によって、世帯年収は大きく異なる。同じ区内にも多様性が内包されているわけで、実際にそれらを統計が示された地図でみると、「モザイク模様」という言葉がぴったりと当てはまる気がする。例えば所得の格差は東京23区に特有の問題ではない。日本中、あるいは、世界中で起こっている問題であるが、東京という世界的な大都会には色々な意味で世界最先端の場所がある一方で、取り残された場所もある。従って、格差が分かりやすい形で先鋭的に出てくるのだな、と感じた。 -
Posted by ブクログ
東京23区におけるその街のブランド力や住みたいまちランキングにみられる格差がどのように生じたか、歴史的、地形的な観点からその秘密を掘り起した、意欲的な一冊といえるでしょう。
さまざまな統計データ(年収や職業など)、さらには著者の長年のフィールドワークの成果を駆使して、街ごとの”格差”が示されています。説明の文章に若干のわかりにくさもありますが、たとえば世田谷の持ついわゆる”高級感”、対照的な城東エリアの”下町感”など、世間一般の方々がその街ごとに持っている印象を裏付ける内容でもあり、興味深く読み進めました。
統計データで色分けされた図表(地図)のサイズが小さく、紙面の都合もあるのでやむをえませんが、もっと大きければと思ってしまいますね、Webで公開すればよいのに、とも(電子書籍なら地図を拡大できるのだろうか…)。また色分け地図は単一指標によるものばかりである一方、文中では著者自ら複数の指標でかけあわせた結果についても言及しておられることから、なおさらWebで閲覧+複数パターンの地図を重ねる、といったことができるとよいのにと思わずにいられません。