佐々木健一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレこの弁護士さん自身が書かれた著書を読みたくなりましたね。
この先生の、「信念を貫くこと=生きる意味」は採算を度外視しなくては成り立たない。しかし採算度外視のままでそれをし続けていけば自分の人生は破滅してしまう。その葛藤がすごかった。描かれた孤独の様相が壮絶だった。
ここに描かれたこの弁護士さんの孤独は私たちがこの著書を読んで知るものよりもはるかに実質は過酷だと感じます。私たちはかろうじて一端を知るのみで、体感では理解しえないでしょう。
冤罪事件の実際、そしてそれを覆すことの想像を絶する困難と日本の司法の現状、読めば読むほど無実である人間が犯罪に巻き込まれることの恐ろしさを感じます。
そしてこの弁護士さんの人間性の真摯さもさることながら、そのお父さんの人間的魅力にも大変心惹かれました。
こういう親子関係、というのもあるんだなということを知ることが出来てそこまで掘り下げて取材した著者にも敬意を感じます。愛情表現というものの一筋縄ではいかない人間の感情の複雑さを垣間見た気がしました。
司法制度、感情を交えず冷徹に事実を積み上げていくという科学捜査とその根拠の信頼性、それを行う執念と根気、人としての真摯な生き方、信念を貫く方法、信じられる人間を得るということ、家族との関係性などなど…いろいろな点から「生きる」ということを考えさせられる良著です。中々手に取られにくい一冊かと思いますが、たくさんの方に読んで欲しいですね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレサンキュータツオ経由で本書の存在を知り、長く気になっていた。
思い切ってもとになったテレビ番組を見てみたら、これが一大ミステリースペクタクル!
大興奮して本書を読んだ次第。
「明解国語辞典」
金田一京助の名義のもとに、ケンボー先生がほぼ単独で作り、山田先生が「助手」を務めた。
ふたりの理想は食い違い、改訂のタイミングを巡って三省堂編集者の作為も悪く作用して、仲たがい。
「三省堂国語辞典」
独特な性格も相俟って言葉の海に飲まれてしまったともいえるケンボー先生。
辞書は鑑となる前にまずは鏡であるべきだと考え、凄まじい量の用例を収集した。
「新明解国語辞典」
「学生のひねたような」山田先生が、文明批評であるべきとしてビアス「悪魔の辞典」のベクトルで推し進めた。
「見坊に事故あり」という序文が離別の引き金になってしまったという歴史。
いわば編集主幹の「乗っ取り」。
これが関係者の証言だけでなく、各々の辞書の例文の中に手がかりが求められるのが、大変面白い。
「新解さんの謎」で知ったただの笑える例文かと思いきや、人生がかかっていたのだ。
ふたりの性格や超人的な体力に、読んでいて魅了される。
本の後半に「柔の見坊」「剛の山田」という一見の印象を覆す記述(ケンボー先生のほうが強情、山田先生は卓球好きで面倒見がいい、など)もあり、
辞書のスタイルも別ベクトルだが見方によっては表裏一体な部分もある、という着地が、もうできすぎたミステリーのように面白かった。
共同作業ができなかったからこそよかった、と人生の終盤に零していたという記述もあったが、
これこそ世界の豊かさというものだ。 -
Posted by ブクログ
一冊、面白く読んだ。
山田忠雄と、見坊豪紀(ひでとし)という、不世出の二人の辞書編纂者の生涯を追った本。
一時は共に学び、ともに仕事をした二人が、個性の違いや、大人の諸事情により、やがて袂を分かっていく。
少し切ない部分もある。
さて、赤瀬川さんの『新解さんの謎』もあって、新明解にはなじんできた。
山田先生の、タラの語釈に、「美味、うまい」とすればよい、と主張し、編纂仲間の金田一春彦さんに笑われて激高したエピソードが強烈な印象を放っている。
あの独特な語釈は、実際、奇を衒ったものではなく、純粋にそれがいいと思ってなされたものだった、ということに、やはり衝撃を受けた。
そして、山田先生は、ビアスの『悪魔の辞典』をイメージしていたとは。
先ごろ話題の『暮しの手帖』商品テストで国語辞典が取り上げられ、問題化した辞書の盗用体質に、新明解は決別する辞書たらんとしたことも。
古語辞典を引いていて思うのは、この言葉ってどういう場面で、どんなニュアンスで使われていたんだろうということ。
だって、形容詞の訳語は下手をすると大方「趣がある」か、「はなはだしい」か、「不快だ」になってしまう。
どう違うのか、とじりじりしてしまう。
新明解はそういった色合いを記述しようとし(てああなって)いったのだという。
本当に、表面的にしかこの辞書のことを知らなかった。
一方、『三省堂国語辞典』のケンボー先生。
実は今まで一度も三国を手にしたことがない、と思う。
きっとこれと先に出合っていたら、自分の中の基準になっていた気がする。
今は飯間浩明さんが仕事を引き継いでいるそうだ。
十四万語の用例に裏付けられた、簡明な辞書。
たっぷりの野菜や肉類を煮込んで濾して作った、その割に驚くほどあっさりした味わいのコンソメスープのような辞書?
やはり一度手に取ってみたい。
山田先生こと忠雄が山田孝雄の子だったことも、初めて知った(が、それほど驚かなかった)。
むしろ驚いたのは、今を時めく日本語学者の今野真二さんが山田先生の甥御さんだったということ。
金田一一家といい、山田家といい、日本語学者もお家芸なのかな? -
Posted by ブクログ
敬体で書かれた、丁寧で易しい入門書、かと思えばそうでもない。専門用語の詳しい解説を省いて日常生活や身近な事例の中からトピックを拾ってくるというスタンスをとっているし、自分の経験を交えて少しエッセイ的に語る……という形を取っているから、一見とっつきやすそうではある。しかし、その印象に従ってスイスイ読んでしまっては理解できない。話が少し分散することがあるから、話の構成を意識しなければいけないし、個々の用語(概念)の説明は詳しくないし索引もないから、ぼんやりとした理解で終わってしまう。
通勤時や寝る前に読んでいたからあまり集中できていなかったというのもあるかもしれないが、すっきり理解した気分にはならなかった。再読が必要。
教科書的な入門書として期待するとあまり良くないと思う。ただ、本書で提示された諸テーマをさらに深ぼるための入り口としては良いと思う。
美はどのようなものであるか、美に価値はあるのか、あるとしたらどのような価値であるのか、自然美と芸術美と他の感性的な美はどう違うのか、そういったテーマを知れたのは良かった。
ダントー: 存在(生)を意識が捉えることに裏付けられた、苦難を慰める道徳的な美
ネハマス: 欲望が掻き立てられ、探究したくなるような、そして経験を経てそれぞれの深みを得るような美 -
Posted by ブクログ
「面白いとはなにか」、クリエイターという立場で“個性”や“視点”を養ってきたつもりだったが、突き抜けた「何か」を見出せなかった。そんな暗中模索状態の中、シンプルに出会ったこの題名の本。求めていることが書かれているのではないかと、手に取ると早速目から鱗。ページ数も少なく、すぐに読み終えられるわかりやすいクリエイターの技術本といえる。
・「面白い」は共感と差異
・徹底した取材から見出す「さらなる問い」
・紡いだ練りに練った構成から見出す非・予定調和
・優れた作品は期せずして三幕構成 比率は1:2:1
特になるほどと感じたのは
・アイデアは記憶と記憶の掛け合わせ
クリエイターとしての視点を肥やしていく教科書と言ってもいいだろう。読んでよかった。 -
Posted by ブクログ
日本の刑事裁判の有罪率99.9%に挑み続ける弁護士、今村核さんのドキュメンタリー。2016年に放送されたNHKの番組の取材内容を盛り込んだもの。
冤罪がどう作られていくのかという点に関して、『証言の心理学』という中公新書と、『虚偽自白を読み解く』という岩波新書で読んで興味を持っていたが、弁護士の立場から、否認事件を担当するとはどういうことなのか、99.9%になってしまう(暗数を含めるとこの数字がさらに上がってしまう)司法の構造的な問題点がどういうことなのか、ということを全く分かっていなかったということが、本当に恐ろしいことだと思った。つまり、この本で取り上げられている痴漢の冤罪事件のようなことは誰しもに突然起こることというのが恐ろしい。最後の「司法の病」の章で、「えん罪を生み出す刑事司法の構造を見て、その中に自分が入ってしまったわけですから、もう徹底してやるしかない」(p.222)、「いや、俺はね、他の弁護士はなんでそこまでやらないのか、逆に不思議で。刑事司法のえん罪を生み出す構造を見て、その中に入ってしまったわけですから、それはもう徹底してやるしかないじゃないですか。僕はただ真面目なだけで、『変わってる』とかよく言われるけど、心外ですよ。」(p.161)と語る今村さんについて、鑑定依頼を受ける別の教授は「安っぽい正義感とかではなくて、『本当にこれを変えていかないと、日本の刑事司法はどうなっていくんだ』という危機感が、彼の中にはあると思うんです。誰もがいつ、その制度の中に放り込まれるか、分からないわけですよね。だから、試行錯誤している。どのように証明していけば、間違った判断をしない裁判になるのか。そのための努力は惜しまない。そういう使命感を彼からひしひしと感じます」(p.223)と述べている。この「誰もがいつ、その制度の中に放り込まれるか」という部分は、本当ひとごとじゃないよな、と思ってしまい、なんかこの本を読むと電車に乗ることすら怖くなる。「被害者の女性の思い込みに基づいて結論を導き出すことが可能なら、誰でも犯人にされてしまう危険性があるわけです。」(p.205)ということが怖い。
この本では一貫して、なぜ今村さんは冤罪事件を担当するようになったか、という点を軸にして、今村さんの普段の様子を追っていくドキュメンタリーだが、キレイなドラマの弁護士とは全く違う、そして冤罪事件ばかりを担当していった結果「”破滅”しかない」(p.11)という絶望が語られる様子に、現実の厳しさをこれでもかと感じずにはいられない。
最後は余談だが、青年期の今村さんの様子を描いた部分、父親を憎み、母親から逃げようとした部分、というのは、日々中高の教員をしているおれには印象に残るけど、今の時代こういう中高生は少数派なのかなと思う。「無意識に子どもを呑み込んじゃう親とかいますからね。」(p.137)と今村さんは語るが、今の時代無意識でも意識的でもとにかく呑み込み、子どももむしろ積極的に呑み込まれてなんぼ、みたいに思ってるんじゃないかなと思う。あと、「弁護士って一応、法律の専門家とされてますが、重要なのは有罪か無罪かと言う事実認定なので、法律知識なんてほとんど関係ないんですよ。(略)本当の勝負ってそこじゃないから。知識として法律だけを知っていても勝てないんですよ」(p.159)という部分も、弁護士という仕事について、全然知らなかったなと思った。最後まで興味を持って読めた。(22/11/10) -
Posted by ブクログ
書評サイトで高評価。興味ありのため
藤田哲也、日本ではほぼ無名の気象学者。
シカゴ大学教授、アメリカの気象界、世界の航空業界で名前を知らない人はいないくらいの有名人。
竜巻の規模を示す「Fスケール」の発案者。FスケールのFはFujitaのF。
飛行機が着陸寸前に失速、墜落する事故が相次ぎパイロットのミスとされていたが、これを気象現象の「ダウンバースト(マイクロバースト)」であることを発見し、証明した人。
本書の副題でもある「航空事故を激減させた男」は大げさでも何でもない。
残念なのは本書でも述べているが、気象学にノーベル賞がないことだ。
もし、該当する賞があればとっていてもおかしくない偉人。 -
Posted by ブクログ
非常に正しく適切な日本語で書かれていて、この本を3回読めばそれなりに美学+アルファについて理解できるようになる本。
ただ、軽い気持ちで読むと「困ってしまう」本です。
文法的にも内容的にも正しい日本語なのだけど、やはり美学は奥が深いらしく、頭のなかで文章をかみ砕かないとちょっと難しい。落ち着いた気分で読みたい本です。
哲学や神学などにも造詣が深いほうが美学を理解しやすいものなのだな…とも思いました。
それと「美」を知るには知識だけではダメで実践が必要。
平面上の図録も悪くないけれど、立体感がわかる美術館や博物館に赴いて自分の感性を磨く経験を増やしたいと思いました。