大部の著であるが、ビルマ/ミャンマーの国家内別国家とでもいうべき『ワ州』の歴史を追う一冊ゆえである。
内容も読ませる文章で書かれたもので、読み通すのに時間は要したが、必要な知識を参照しながらしっかり理解できたので、星5つを。満足とともに。
・文字通りの首狩り族であった『ワ人』
・バプテスト派伝道師の薫陶を受けた『ワ人』
主人公ソー・ルーは後者の難民の子である。共産主義者たちがやってきて、宗教コミュニティから彼らを追い出した。
……からの、成人後。
まずビルマから情報提供者として雇われ、任務は『ワ』コミュニティを対共産主義の盾にすること。(なにせビルマ軍は弱体で、戦力投射能力もなく、かといって白人の新たな帝国、アメリカに依存するのも怖かった)
でもソー・ルーには独自の思惑があったのです。
「ワ人は団結してひとつの民族国家をつくるべきだ。それには首狩りの習慣を止め、ワの言葉で教育を充実させ、病院や学校を建てるようになるべき」
しかし、「外部からやってきた文明的ワ人」の言うことなど誰も聴くはずはなく。
「共産主義者たちがケシ畑を焼き払うぞ」
と言って初めて、ワの人々はソー・ルーの訴えを真面目に聞くようになったのです。
ここから。話はここから二転三転する。
『アメリカ』といっても一枚岩ではなく、国務省とCIAは
「共産主義を食い止めるためなら、ヘロイン製造地域の武装勢力を支援するぞ。たとえアメリカの若者がヘロイン中毒になってベトナムから帰還し、社会を病ませようともだ。」
DEA(アメリカ薬物取締局)はDEAで
「ヘロインの流通を食い止めるためなら、地元軍部や政治家も一緒に逮捕して何が悪い」
という態度。
CIAはDEA職員の電話を盗聴し、個人宅に盗聴器をしかけ、捜査妨害どころか情報提供者を窮地に陥れることもいとわない。
ミャンマーの軍部独裁政治は、その時その時の思惑で
「国際的に良い顔して支援を引き出したい」
「が、自分たちのメンツをつぶされるようなDEAとソー・ルーの計画は許さん」
となる。
最終的に、ソー・ルーは新型コロナ大流行の折、孤独に亡くなり、義理の息子は「ワの言葉の教科書」すら定着させえずに失意のまま宗教コミュニティに居る。
メサイアコンプレックスという言葉は本書には登場しないが、ソー・ルーも彼の義理の息子も、
「ワ人を文明的な世界に向かって前進させたい」
という強い意志を持っていた。
彼らの失敗の理由のひとつは、その宗教信条故に、拷問や苦境に屈さず頑張りはできても、
「同宗派ではないワ人の味方」
を、体制変更を迫るほどの強さ、多さにはできなかったことであろう。
著者は末尾に、ワ州の今後の見通し、あり得るシナリオを描いている。が、現実のワ州に病院は無いし、小学校中学校は中国語の古びた教科書を使っている。