髙杉洋平のレビュー一覧

  • 帝国陸軍―デモクラシーとの相剋

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    本書では、建軍から日米開戦までの日本史を扱っています。
    ①陸軍内部における将校個人の動向と、②陸軍と内閣・議会(政党)・世論といった国内政治との関係の2点が主に描かれます。
    海軍や外国の描写は少なめです。
    頻繁に典拠を挙げて史学的な基礎づけを行う一方、個々のアクターの思惑をかなり明快に描写することで読み物的な面白さがあります。
    (私は史学についてはでよく分かりませんが、p.268で書いているように、もちろん著者は歴史描写に伴う単純化の陥穽について自覚的です。)

    寡兵で装備も貧弱な戦前の日本は、縦深のありすぎる日中戦争を行ったり、国力に差のありすぎるアメリカと開戦したりと、純軍事的に見ても訳の

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    2025年08月25日
  • 帝国陸軍―デモクラシーとの相剋

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    戦前史に関心のある人なら必読の書。
    これまで言われてきた大正デモクラシーで出てきた民主主義の萌芽を帝国陸軍が軍国主義で押し潰し、国民はその圧政に苦しんでいたという通説をひっくり返す。
    歴史がいかに皮肉と逆説に満ちたものかを感じさせる。

    一次大戦後の平和主義と民主主義が軍人軽視につながり、一方で陸軍は総力戦と軍の近代化に焦りを募らせる。
    社会に適合しようとした陸軍は、次に中国の反日運動と不況の中、世の中の影響を受け、社会改造に乗り出す機運が高まる。
    軍縮の動きの中、融和的な宇垣軍政は政党に軍改革の矛を鈍らせ、軍の特権的地位を保持することを許す。

    大正デモクラシーにおける陸軍を抑圧した動きが昭

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    2025年08月20日
  • 帝国陸軍―デモクラシーとの相剋

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    帝国陸軍を大正デモクラシー期から昭和にかけて見ていく書籍。日露戦争で勝者となったものの、その後国民からの冷たい視線に晒されて徐々に自壊していく。派閥争いや過度な政治介入を経て自らの組織だけでなく国そのものまでを滅ぼす戦争へと突入する。その過程においてさまざまな選択肢が存在するものの、どれを選んでもあまり明るい未来が見えないのが昭和陸軍の性格を表していると感じる。数々の選択が後々自らの首を絞めることになろうとは、全く皮肉としか言いようがない。

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    2025年08月03日
  • 帝国陸軍―デモクラシーとの相剋

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    太平洋戦争へ突き進む帝国陸軍。国力で遥かに日本より勝るアメリカとの戦争へ突入し、広島長崎への原子爆弾投下で降伏、GHQによる占領も経験した。後世の我々から見たら重化学工業力も資源の量(日本は石油をアメリカから輸入)も全く及ばない10倍以上の国力を有するアメリカに挑むなど、愚かな行為にしか感じられない。だが、日本がその道に進まざるを得ない歴史の下り階段は、明治、大正時代を経て確実に日本の国内に階段を数段飛ばしで駆け降りていく要因が形成されていく。
    明治維新を経て日本は海外の先進的な国々から武器を手に入れ戦術を学び、後進国ながらも確実に軍事力を身につけ始めた。まだまだ追いつかない技術力も、他国から

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    2025年09月26日
  • 帝国陸軍―デモクラシーとの相剋

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    例えば保阪正康の『昭和陸軍の研究』が昭和の戦争と陸軍の行動原理を外側から客観的に分析したものだとすると、本書は陸軍の内側からその行動に至る主観的動機を探るものと言えるかもしれない。
    動機の源を大正デモクラシー期から蔓延する大衆的「アンチ・ミリタリズム」おく著者は、従来の「陸軍の専横が戦争を招いた」とする歴史観に対し、政党と大衆というデモクラシーの要素と陸軍との距離感、そして陸軍内部の派閥をはじめとする人間関係の時局に応じた変遷をたどることで、「専横に至る必然」を説明しようとする。
    するとどうしても通底する反軍感情と満州事変以降の好戦的ナショナリズムという相反する大衆意識に直面せざるを得なくなり

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    2025年09月05日
  • 帝国陸軍―デモクラシーとの相剋

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    太平洋戦争は、明治維新以降、すさまじい国家的努力の投入により構築されてきた日本の軍システムが、日露戦争での成功体験を経て、手の付けようがないほどに増長したために起こった・・というのが、わが国の通俗的な理解。おそらく小学校教師が社会科で現代史パートを教えるときも、そういう考えをベースにコトバを紡いでいるだろう。
    だが、本書では、20世紀初頭の世界史的な流れを明快に分析し、太平洋戦争への道程への理由付けを、日本の軍システムの内在的なものだけに帰責することはできないことを示している。19世紀から20世紀にかけてのすさまじい技術進歩と、他国よりも相対的に後発であった大日本帝国の焦り。にもかかわらず、第

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    2025年08月16日